醜い生き物【0:3:0】

【あらすじ】

女子校の王子様である要にひそかに恋情を抱いている瑠璃だったが、ある日要から「恋人ができた」と言われてしまい…?

 

出演人数:3人(女3)

 

時間:(推定)30分

 

配役

◆瑠璃(るり):【女】要のことが好き 好きな人の恋は応援したいタイプ

◆要(かなめ):【女】女子校の王子 好きな人には尽くしたいタイプ

◆友達    :【女】瑠璃の友人 よく相談に乗っており瑠璃のことを心配している

◆先輩    :【女】瑠璃の大学の先輩 彼氏持ち ※友達と兼ね役

 

 

***


0:※(N)はナレーション


瑠璃:(N)私は醜(みにく)い生き物だ。

瑠璃:(N)顔だけじゃない。声も、性格も、何一つ可愛くなんてなくて、むしろもっと穢れていて、みんなが思ってくれているほど、私は優しくなんてない。

瑠璃:(N)今だってそう。大好きなあの子の恋路(こいじ)に障害物ができたと知って、心の片隅で喜んでいる自分がいる。

瑠璃:(N)あぁ。やっぱり私は醜い。とっても醜い生き物だ。



瑠璃:(N)私には、高校の時から仲がいい友達がいる。西条要(さいじょうかなめ)。入学時から色々と気にかけてくれて、今となっては親友と呼べるほどの仲になった。

瑠璃:(N)もちろん、要が私のことをそう思ってくれているかどうかは分からないけれど、私は要のことを親友だと思っている。

瑠璃:(N)女子校で王子様みたいな存在の要。誰にでも優しいから学校での評判はもちろん良かった。私はその中でも、要に1番近い存在であることに少しだけ優越感(ゆうえつかん)があった。


要:瑠璃。一緒にお昼ご飯食べようよ。

要:瑠璃。お誕生日おめでとう。これプレゼントね。そうだ、せっかくだし何か奢ってあげるよ。

 

瑠璃:ありがと要。

 

友達:いや〜2人ともお似合いのカップルだね〜?

 

瑠璃:またそうやってからかって・・・!

 

要:あはは!でも瑠璃はかわいいからね。自慢の彼女。

 

瑠璃:要まで!!


瑠璃:(N)冗談に決まっているけれど、それすら嬉しかった。特別扱いされていることに喜びを感じていた。恋愛感情みたいなものはなかったけれど、それでも私は要のことが大好きだと思った。

瑠璃:(N)大学も一緒のところに入って、これからだって隣に要がいることを信じて疑わなかった。

 

瑠璃:・・・そんなの、傲慢(ごうまん)な幻想(げんそう)に過ぎないのにね。



友達:ねぇ瑠璃。要に彼女できたってマジ?

 

瑠璃:え・・・?

 

友達:いや最近要と話してるとさ、「彼女」って単語がよく出てくるんだよね。会話アプリとかでのやり取り見ながらガチトーンで「かわいい」って言ってたし、割とガチなのかなって。瑠璃知ってる?

 

瑠璃:うーん、ノリとかじゃない?要は誰でも優しいし、きっと冗談で言ってるだけだって。

 

友達:ノリで彼女って単語使わないでしょ普通。

 

瑠璃:そんなことも無かったから・・・。でもそこまで気になるなら今度それとなく聞いてみるよ。もちろん今の話は内緒にしとくから!

  

友達:頼んだ。でも瑠璃は大丈夫なの?

 

瑠璃:なにが?

 

友達:いやだって、高校の時からずっと要の彼氏ムーブ受けてたわけでしょ?瑠璃からしたら複雑な心境なんじゃないかなって。

 

瑠璃:要はあれが通常運転だもん。大丈夫だよ。それにまだホントのことって決まったわけじゃないし。

 

友達:まぁ、瑠璃がいいならいいけどさ・・・。耐えられなくなったら言ってよ?

 

瑠璃:ありがとう。

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瑠璃:(N)友達の言葉に動揺していないわけじゃなかった。私の知らない要の話。私の知らない要の噂。事実を知りたいけれど知りたくない。そんなごちゃごちゃした感情に包まれる。

瑠璃:(N)けれど、現実は私を待ってはくれなかった。


要:瑠璃、一緒に帰ろ。もう暗くなってるし駅まで送ってくよ。

 

瑠璃:わざわざ遠回りさせるなんてできないよ。

 

要:いいからいいから。私が好きにしてる事だし。瑠璃のこと送らせてよ。

 

瑠璃:もぅ・・・・・・急に彼氏みたいなことするじゃん。

 

要:まぁね。今は彼女いるし。

 

瑠璃:え・・・・・・

 

要:あれ、言ってなかったっけ?

 

瑠璃:し・・・、知らなかった!ガチカノ?

 

要:ガチガチ。まぁまだ顔を合わせたことは無いんだけどね。

 

瑠璃:・・・そう、なんだ!おめでとうじゃん。どんな子なの?

 

要:ネットで知り合った子でね、なにより声が可愛い。ほとんど毎日通話してる。お互い離れてるから全然会えないんだけど、いつかお互いの中間地点くらいでデートしたい。

 

瑠璃:いいじゃん。もし行ったら感想聞かせてよ。

 

要:もちろん。瑠璃には1番に感想伝える。

 

瑠璃:(N)頭はこれ以上聞きたくなんてないのに、口からは嘘の祝いの言葉を紡ぎ出す。要から放たれる言葉は酷く優しい。それだけその子のことを愛しく思う気持ちが嫌でも感じとれた。

瑠璃:(N)要の恋愛に口を出す権利なんてないし、もちろん要の恋愛観に苦言を呈(てい)したい訳でもない。

瑠璃:(N)だけど、でも、願わくば要と付き合う人は異性でいて欲しかった。だって、異性なら私は諦められたから。同性の私は適(かな)わないと納得出来たから。

瑠璃:(N)同性の、しかも顔も見た事がない子を大事にしていることをどうしても認めたくなかった。

瑠璃:(N)けれどあの子を語る要の声は間違いなく本物で、否応(いやおう)なしに私に襲いかかってくる。

 

瑠璃:なんだろ、この気持ち・・・

瑠璃:喜ばしいことのはずなのに、頬(ほお)をつたうこれは一体なんなんだろう



友達:で、結局どうだったの?

 

瑠璃:うん・・・ガチだった。

 

友達:やっぱり!?だから言ったじゃん本当だって。

 

瑠璃:うん。私もびっくりしてる。

 

友達:で?相手はどんな子だって?

 

瑠璃:・・・ネットで知り合った子らしい。ここのところ毎日通話繋いでるみたいで、声が可愛いって言ってた。会ったことは・・・まだ無いらしいんだけど。

 

友達:で?瑠璃的にはどうなの?

 

瑠璃:どう・・・って?

 

友達:だから、要を他の女に盗られた感じあるの!?

 

瑠璃:無い・・・って言ったら嘘になるの、かな・・・。別に要の彼女を自称してた訳じゃないんだけど、でもなんかずっとムズムズしてる。分からないの、これがなにか。

瑠璃:それにね、私の方が要とずっと一緒にいたから、まだ私の方が勝ってるって思っちゃって・・・。そう思う自分がすごい、、やだ。

 

友達:なるほどね。瑠璃、それって『嫉妬』ってやつなんじゃないの?

 

瑠璃:嫉妬・・・?

 

友達:そう。今までずっと一緒にいて、周りからカップルって思われてたくらいだったんだから、普通そういうふうに思うって。

 

瑠璃:そう、なのかな・・・。

 

友達:しっかし、まさか彼氏じゃなくて彼女ときたか・・・

 

瑠璃:っ、うん・・・。

 

友達:まぁ?私はそういう恋愛観に関しては特に偏見とか持ってないし、むしろ要の性格からして彼氏より彼女の方が先に出来そうだとは思ってたけど。

 

瑠璃:・・・・・・・・・

 

友達:・・・ごめん、今する話じゃなかったね。それで?瑠璃はこれからどうするの?要取り返しに行く?

 

瑠璃:と、取り返すって・・・!

 

友達:いいじゃん。私は略奪愛だって別にいいと思ってるよ。

 

瑠璃:駄目・・・だよ。だって、要あんなに幸せそうな顔してた。相思相愛の2人を引き裂くなんて私には出来ないよ・・・。

瑠璃:私は、もう二度と要を悲しませる事なんてしたくないし、泣かせたくない。

 

友達:っ!!だってあれは!別に瑠璃が悪かったわけじゃないじゃん!

 

瑠璃:でも、止められなかった私にも責任があるし。

 

友達:だー!もう!瑠璃は自分犠牲にしすぎ!もっと欲張りに生きろ!

 

瑠璃:私割と欲張りに生きてるよ?

 

友達:んなわけないじゃん!瑠璃アンタどんだけ他人に配慮して生きてきたと思ってんの!? 

 

瑠璃:私がしたくてしてる事だよ。辛いって感じたことないし。

 

友達:今がまさに辛くなってんじゃん・・・。もぅ、傍(はた)から見て瑠璃が無理してると思ったら遠慮なく言うからね。

 

瑠璃:・・・ありがとう。

0:

瑠璃:(N)友達の思いやりは嬉しかったけれど、私の勝手で振り回すわけには行かない。

瑠璃:(N)もう失敗はしない。あの日、私がちゃんと止められていれば、要が辛い思いをしなくて済んだ。泣かせることだってしなかった。もう二度と同じ轍(てつ)は踏まない。踏ませない。

瑠璃:(N)私はただ、要に幸せになって欲しいんだ。たとえその隣が私じゃなくたって、あの子が幸せならそれでいい。

0:

先輩:あれ?瑠璃じゃんお疲れ様!

 

瑠璃:先輩!お疲れ様です。

 

先輩:今日は1人?

 

瑠璃:はい。友達が誰もこの単位取ってなくて。先輩はこれから用事ですか?

 

先輩:そう。彼氏と会う約束しててね。

 

瑠璃:そうなんですね!楽しんできてください!

 

先輩:瑠璃も要とお幸せにね〜♪

 

瑠璃:っ・・・、ありがとうございます。要はみんなに優しいからいつか他の子から刺されそうで怖いです。

 

先輩:じゃあ要が瑠璃しか見えないようにしなきゃだ。

 

瑠璃:あはは・・・そうですね。

 

瑠璃:(N)先輩は要の彼女のことを知らない。それは嬉しくもあり、同時に悲しくもある。先輩から『お似合いの2人』と言われる度に、本当のことを言ってしまいたいと思う。

瑠璃:(N)けれど、多分私の口から言っちゃいけないことなんだと思う。それに、先輩には私が彼女だって勘違いされていることにやっぱり少し嬉しくなる自分がいる。

瑠璃:(N)分かってる。こんなの自己満足でしかなくて、むしろ要を困らせることにしかならないって。

瑠璃:(N)でもお願い。あともう少しだけ、私に夢を見せて。それだけでいい。あとは何もいらないから。




瑠璃:(N)あれから私は、度々(たびたび)要の話を聞くことが増えた。

 

要:この前彼女にちゃんと髪乾かさないとダメだよって言われてさ〜、今ちゃんとドライヤーしてる。禿げたくないし。

要:今日一緒にゲームしよって誘ったらダメかな、いきなり過ぎるかな・・・。そもそも予定あったら迷惑だよね!?どうしよう・・・

要:聞いて瑠璃!最近彼女が私の趣味にハマってくれたの!今度材料買ってくるって言ってた!私もなにかプレゼントしようかな。瑠璃なにがいいと思う!?

 

瑠璃:(N)その度に私は相談に乗ったり、話を聞いたりした。楽しそうな要を見るのは好きだから、私もできる限り要の話を聞いた。

 

要:それでね・・・!

 

友達:(遮る)ごめん要。瑠璃借りていい?

 

瑠璃:私?

 

要:いいよ。瑠璃、行ってきな。

 

瑠璃:ごめんね要。また今度話聞くから。

0:

瑠璃:どうしたの?何かあった?

 

友達:何かあったじゃないわよ。もう見てらんない。私の方が辛くなってきた。要の彼女の話なんか聞かなくていいじゃん。

 

瑠璃:でも・・・要が楽しそうだし・・・

 

友達:瑠璃が楽しくなかったら意味ないでしょ!瑠璃このままだともたないよ。早いとこその話、聞かないようにしな。

 

瑠璃:それは無理、だよ・・・。要が楽しそうなんだもん。しかも私に話してくれるんだよ?なら尚更(なおさら)聞かなきゃ・・・。

 

友達:自分で自分の首絞(し)めて何になんのさ!瑠璃の心はもう限界だよ!私は少なくともそう思ってる!

 

瑠璃:分かってる。でも壊したくないの!この関係を崩したくない!私が我慢すれば全部丸く収まるんだよ!だから、私が我慢すればいいの・・・。ごめんね。いちばん辛いのは見てる側なのに。

 

友達:何言ってんのよ・・・。いちばん辛いのはあんたよ。私はただ、辛そうにしてる瑠璃が痛々しいだけ・・・。

 

瑠璃:心配してくれてありがとう。でもほんとに大丈夫だから。耐えられなくなったら言うから。それじゃ駄目?

 

友達:・・・ぜったい耐えこまないで言いなさいよね。

 

瑠璃:それは約束する。心配させたくないもん。

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瑠璃:(N)それからも、私は要の話を聞いた。いつも楽しそうに話してくれたけれど、その日は少し違う雰囲気だった。

 

瑠璃:要・・・?どうしたのその目・・・

 

要:瑠璃・・・私、わたし・・・

 

瑠璃:何があったの!?

 

要:親に言われたの。『顔も見たこと無い子と付き合うなんてありえない。』『同性の恋人なんてどうかしてる。』って。

要:なんで何も知らない人にそんなこと言われないといけないの!?私が大事にしてる子を悪く言われなきゃいけないの!?

 

瑠璃:要!

 

瑠璃:(N)私は要を強く抱き締めた。安心させるように背中を優しく叩く。

 

瑠璃:要は悪くなんかない!好きな子とただ一緒に居たいだけじゃん。何も悪くない。大丈夫、大丈夫だよ・・・。

 

瑠璃:(N)私はまた要を強く抱き締めた。

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瑠璃:(N)どうして。要はこんなに悲しんでいるのに、こんなに苦しんでいるのに、どうして私は"ほっと"しているんだろう。"嬉しい"と感じているんだろう。

瑠璃:(N)こんなのまるで、要の恋が成就しないことを願っているみたいじゃない。

瑠璃:(N)自分が汚い人間で反吐が出る。それを隠すように、私はしばらくの間要のことを抱きしめ続けていた。

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要:・・・瑠璃。もう大丈夫。ありがとう。

 

瑠璃:お礼なんていいよ。慰めることしか出来なくてごめんね。

 

要:十分だよ。瑠璃はそういうのに偏見が無いから話しやすかった。ありがとう。

 

瑠璃:大丈夫だよ・・・。なんかあったらまた話して。アドバイスとかは・・・、できないかもしれないけど。

 

要:もちろんだよ。ありがとう瑠璃。

 

瑠璃:(N)要を元気づけられてよかった。でもどうしてだろう。こんなに胸が痛くなるのはどうしてだろう。どうしようも無い気持ちが溢れて止まらない。

瑠璃:(N)嫉妬は実に醜い。穢(けが)らわしい感情だ。私に入る隙間なんてどこにもないのに、それでもまだなお、要を求めてさまよっている。

瑠璃:(N)でも、いいの。叶わなくていいの。

瑠璃:(N)だって、私は要が幸せならそれでいいから。要が幸せなら、私はどうなったっていい。たとえこの先また苦しんでも、願いが叶わなくても、要さえ幸せならそれでいい。

瑠璃:(N)だからどうか、要の隣で良き友人として居ることだけは許してくれないだろうか。それだけで、私はまだ頑張れる。要のためになにかできる。

瑠璃:(N)一生この気持ちは隠して、閉じ込めて生きていくの。

瑠璃:(N)私は大丈夫。まだちゃんと笑えているはず。大丈夫。隠し通せる。あの子はそういうところが変に鈍いから、きっと気づかない。

瑠璃:(N)いつも通りの生活に戻るだけ。いつものように、挨拶してくれて、私の名前を呼ぶの。

 

要:おはよう、瑠璃。

 

瑠璃:(N)そして私もいつものように応えるだけ。振り返って、笑顔であの子の名前を呼ぶだけ。

 

瑠璃:おはよう、要。

 

瑠璃:(N)醜い本性を笑顔の仮面で隠して、私は今日も要の隣に立つ。

 

 


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