【あらすじ】
「私のご主人様を殺して欲しいんです!!」
貴方を私のものにしたいから、貴方を殺すの。いいでしょう!?
キャスト
◆ユノ 女、16歳 リズに仕える侍女
◆リズ・ヴァリア 女、16歳 子爵令嬢 領民から『聖女』と呼ばれている
◆男 ユノが依頼した男。成人済みの年齢不詳。
◆領民 男と兼ね役
***
ユノ:はい!私のご主人様を殺して欲しいんです!
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ユノ:嘘なんかじゃありません!あっ、冗談でもないですよ!
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ユノ:恨み?あるわけないじゃないですか。こんな私にも優しくしてくれるご主人ですよ?感謝しかないです!
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ユノ:じゃあなんで?決まってるでしょう?
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ユノ:『優しすぎるから』ですよ。
男:(N)依頼主ユノ、16歳。リズ・ヴァリアに仕える侍女で元孤児。依頼内容はリズ・ヴァリアの殺害。理由は不明。
男:(N)恨んでいるわけでもなく、豪遊の限りを尽くすといった愚かな行動をとる主人というわけでもない。
男:・・・さっぱりわからんな
ユノ:なんで!?
男:考えてもみろ。お前が依頼したリズ・ヴァリアはこの街で『聖女』って言われるほど領民に慕われてる奴だ。
男:そんな人間を殺して欲しいなんて言う奴にゃ、敵国の人間か同性による嫉妬ってところだろ。なんだ『優しすぎるから』って。意味がわからん。
ユノ:んむむ・・・
ユノ:なんでわかんないの!おじさん変です!ジェネレーションギャップ!
男:ジェネレーションギャップどうこうの話ですらないだろこんなもん・・・
ユノ:でも引き受けてくれたってことは、おじさんは敵国の人間ってことですか?それともただの変な人?
男:お前が依頼人じゃなかったらその口今すぐ塞いでたんだが・・・、まぁ何だ。前者ってことにでもしといてくれ。
ユノ:ふーん・・・教えてくれないんですね
男:むしろ教える必要が無い。
男:それで、だ。お前がリズ・ヴァリアを殺したい理由がまだ分かってない。教えてもらおうか。
ユノ:えー、かわしたと思ったんだけどなー。
男:かわせるかそんなもん。
ユノ:しょうがないな〜、いいですよ。そこまで言うなら教えてあげます。
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ユノ:……あれは、生まれてきた中で一番寒い冬の日でした。
0:〜過去回想〜
リズ:あなた、大丈夫?
ユノ:だれ・・・?
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ユノ:(N)私がまだ孤児の頃。その日食べるご飯すら満足になくて、ゴミ箱を漁るのは日常茶飯事。ひどい時は盗みやネズミを食べて飢えをしのいでた。
ユノ:(N)ご主人様が私を拾ってお屋敷に連れていき、ご主人様自らご当主様に進言して状況を打破したからこそ、私は、私たちは救われた。
ユノ:(N)ご主人様、リズ様は私を可愛がってくれた。
ユノ:(N)たくさんのお洋服、温かい食べ物、少し固みのあるベッド。どれも今までの私では到底手に入れられなかったもので、リズ様はそれを遠慮なく私に渡してくれた。
リズ:今日からここがあなたの帰る家。よろしくね、ユノ!
ユノ:(N)傅(かしず)き、祈りを捧げる対象になることに、なんの躊躇(ためら)いがあるだろう。私が生涯お仕えするのはリズ様だけだと、そう思った。
ユノ:(N)幸いなことに、私は雑用係ではなくお屋敷の侍女になった。侍女の勉強は大変だったけれど、リズ様のためになるなら疲れなんて存在しないも同然だった。
ユノ:(N)1年の研修期間を経て、私は晴れてリズ様の専属侍女となった。
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ユノ:(N)だけど、地獄の始まりはそこからだった。
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リズ:ユノ、この資料を書庫から持ってきて。
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リズ:ユノ、用意ありがとう。あとは私がやっておくから休んで。
ユノ:……ありがとうございます。失礼致します。
ユノ:(N)私はずっとリズ様のおそばに居たいのに、当のリズ様はそうさせてくれない。私はもっと頑張れるのに!貴方様のお役に立てるのに!
ユノ:(N)それにリズ様は、私以外にもお優しい。私以外の、私よりも使えない子供たちには特段お優しい。
リズ:みんな久しぶり!元気にしてた?今日はたくさんお菓子を持ってきたのよ。ユノ、これをみんなに配ってあげて。私は院長先生にご挨拶してから行くわ。
ユノ:……はい、、、
ユノ:(N)私はこんなみすぼらしい子供と遊びたくなんかないのに。でもリズ様が私に任せてくれた仕事なんだから遂行しないと。
ユノ:(N)でも、憎たらしい
ユノ:(N)リズ様から無償の愛情を、支援をこんなにも注がれているのに、未だ何ひとつとして返すことの無いこの愚民どもが憎たらしい。
ユノ:(N)そしてリズ様。
ユノ:(N)私以外にも寵愛をさずける、貴方様が最高に好きで、憎たらしい。
〜現在〜
ユノ:……いつもそう。あんなみすぼらしい子達より私の方がずっと有能なのに、ずっとリズ様の力になれるよう努力してきたのに。何も持っていないあの子達が優遇されるなんてありえない。
男:それが殺したい理由か?でもよ嬢ちゃん。今の話を聞く限り、嬢ちゃんが殺したいのは孤児院にいるガキじゃねえのかよ。
ユノ:……あんなゴミ、いくら処分してもどうせすぐに湧き出てくるんです。ネズミみたいにうろちょろうろちょろと鬱陶しい。
ユノ:リズ様が差し伸べる手はいつだった私一人のためだけでいいんです。私が、私こそが!あの方のために動ける、仕えることができる!
ユノ:だから!!!
ユノ:……だから殺して私だけのリズ様にするんです。私だけのリズ様になれば、この心のわだかまりは解けるはずだから。
男:(教信者、か…。それもこじれた盲目の。お前自身、リズ・ヴァリアに拾ってもらうまでは同じような境遇だったろうに。環境というやつは人をおかしくさせる。)
男:お前の言葉に理解はできないが理由に関してはひとまずそれでいい。だがよ嬢ちゃん、そんな神にも等しいお嬢様を、俺みたいなのが殺してもいいのか?
ユノ:……気が変わりました。このままリズ様を殺しても、あの方の頭には私以外が残るはずです。優しいリズ様のことだから、遺される人のことを考えてしまうはず。
ユノ:そうだ!リズ様を魔女狩りにかけましょう!今まで信じてきた領民から裏切られたとなればリズ様もきっと目を覚まされるはずです!
男:………それがお前の選択か?
ユノ:はい!おじさんはリズ様が魔女であるという噂をそれとなく流してください!証拠は私がでっち上げます!
男:…………そうか、わかった。
男:(こいつは、もう戻れないな)
男:(N)そこからはやけに早かった。この時代、『魔女かもしれない』と噂される時点で疑いの目は強くなる。ユノの力もあってか次第に領民の当たりは強くなり、リズ・ヴァリアはものの数日で『領民を惑わす魔女である』と魔女裁判にかけられた
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リズ:何かの間違いです!私は今まで一生懸命この領地のために尽くしてきたのに!
領民:魔女を殺せ!作物がダメになっちまったのも全部お前のせいだ!
リズ:知らない!そんなの知らないわ!
領民:魔女を火あぶりにかけろ!!
リズ:やめて!離してよ!
領民:火をつけろ!魔女を焼き殺せ!
リズ:いや…嫌ぁ!!!!
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ユノ:(N)あぁ、リズ様が燃えている。勘違いした領民に恨まれて、何もしていない貴方様が死んでいく。なんて美しいんだろう。なんて幸福な気分だろう。
ユノ:お嬢様!
リズ:ユノ…!?
領民:魔女が逃げたぞ!侍女と一緒だ!!!
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ユノ:はぁ…はぁ…はぁ……
リズ:ユ、ノ……どうして…?
ユノ:そんなの…お嬢様は魔女なんかじゃないじゃないですか…!
リズ:ユノ……
ユノ:歩けますか?追っ手が来るかもしれません。
リズ:……いい。もういいの。どうせ私はもうじき死ぬ。さっきから、息が…っ出来なくて苦しいし、意識も、、薄くなってきてる……
ユノ:そんな!リズ様!
リズ:あり、がと…ユノ……。最後に助けてくれたのが、貴方で…よかっ、、た………
ユノ:リズ様?リズ様!!!!
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ユノ:………は、あは、あはははは!!!やった!やったわ!リズ様が最後に手を伸ばしたのは私!リズ様の心を占めたのはこの私!あぁなんて甘美な響き…!
ユノ:これでずっと、ずぅっと一緒ですリズ様…。2人だけの箱庭で一生一緒にいましょう?嬉しいですよねリズ様?……リズ様?
ユノ:……………どうしてなにも返してくれないんですか?あぁそっか。死んじゃったから、か。
ユノ:…あ、れ……?なんで私泣いてるの?リズ様が私のものになって嬉しいはずじゃない。でもリズ様はもう私にお声をかけてくれない…?いいえ。私は笑っているもの。嬉しいはず!幸せな、はず……!
ユノ:あ、ははは……ははっ、あはははは……!
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男:(N)その村は、かつて魔女狩りが行われた。処刑が執行されてから毎年その日の一晩中、森の奥から泣きながら笑う女の声が聞こえてくるという。
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