【あらすじ】
部員の4分の3が脚本家という演劇部。新歓公演の演目を決めようとするが案の定難航する。しかし、そこに新歓を待たずして入部希望だという新入部員ヒナが現れ……?
出演人数:5人(男2女3)
時間:20〜30分(推定)
配役
◆ヒナ:女。演劇部新入部員。初心者。
◆リョウ:男、やや強気の話し方。脚本家
◆アマネ:女、眠そうな話し方。脚本家
◆ミズキ:女、元気ハツラツな話し方。脚本家
◆ユキト:男、面倒事を一手に引き受ける苦労人の部長。
ユキト:みんな!そろそろ新歓の内容決めなきゃいけないから。こっち向いて!
ミズキ:だから!女Aのセリフは幼少期に育ての親の言いつけを必死で守ってきたゆえに出たセリフなの。軽く捉えられるのホント無理だから
リョウ:んな設定どこにもなかっただろ。ここのAちゃんのセリフは未来に向けての奮起(ふんき)だ。愛する人を守るためのセリフなんだよ
アマネ:...2人とも違う。ここで未来の希望という明るいものを匂わせておいて直後にAを殺す、これはそのためのセリフ
ユキト:...おーい?3人とも僕の話聞いてる?
リョウ:だいたい、他人の台本に設定生やして意味づけするとか赤ペン先生でもやんねえぞ。もっぺん自分の台本見てから出直してこい
ミズキ:分かってないわね。台本という小さな箱に収めるためになくなく削ぎ落とした大切な設定を拾い上げてるだけじゃない。あんたこそ国語の勉強し直してきたら?
アマネ:2人とも全然違う。やっぱりアマネしかちゃんと理解してない
リョウ:殺したがりが何言ってんだ
ミズキ:死ねばいいってもんじゃないからね
アマネ:分かってないなぁ...
ユキト:聞いてないよね!?勘弁してよ...ただでさえ部員が少ないんだから、今年こそ新入部員捕まえないといけないんだよ!
ユキト:はい!演者希望いる!?
リョウ:断る
ミズキ:無理
アマネ:やだ
ユキト:だよねぇ......。じゃあ脚本希望は?
リョウ:俺
ミズキ:私
アマネ:アマネ
ユキト:ですよねぇ...。もう!なんでいっつも脚本希望なのさ!普通演劇部って役者希望の人が大半だよね!?なんでウチだけ4分の3が脚本家希望なわけ!?
アマネ:アマネは役者嫌って言った。問題ないって言ったのそっち
ユキト:確かに言ったけど!ここまで希望いないと思わないじゃん!
リョウ:ぎゃあぎゃあ言うならユキトがやれよ。
ユキト:いっつもやってるよね!?みんなが嫌だって言うせいでいっつも僕の一人劇だよね!?演劇って2人以上いてこそでしょ!?また皆からただの朗読会だって言われる!
アマネ:ユキト、それは朗読劇に失礼。謝って。
ミズキ:そうよ。一人劇で有名になった台本だっていっぱいあるわ
ユキト:なんで僕が怒られるのさ!誰か一人でも役者になってくれれば解決する話なのに!
ユキト:そもそも僕だって役者希望じゃないのにさ...
リョウ:諦めろ。お前が泣きつくから俺たちだって仕方なく音響や照明してあげてんだろ
ユキト:その調子で役者やってよ
リョウ:無理だな
ユキト:なんでだよ!
ミズキ:もう諦めなって。インパクト残るようになんかした方が確率高いよ
ユキト:なんかってなに
ミズキ:えー?たとえば...
アマネ:...ひとり人間解体ショー
ミズキ:それだ!
ユキト:「それだ!」じゃない!自分の身体解体するバカがどこにいるんだよ!
ミズキ:きっとお金に困って手を出したのよ。それか自傷行為に興奮を覚えているの。気づいたのは中学生の頃、さかむけを剥がした時のピリッとした痛み、滲み出る血になぜか目が離せなくなった。原因は離婚した父親からの暴力。そんな彼が解体ショーをする理由は離婚で離れ離れになった最愛の弟を探すため。クライマックスでついに念願の弟と再会するの!
アマネ:...けれどその直後、主人公は出血多量で死ぬ
ミズキ:そうそう...!って殺すな!
ユキト:ミズキは設定盛りすぎアマネは死なせすぎ!第一こんなサイコホラー台本やったら新入部員なんて入ってくれるわけないでしょ!もういいよ、前やったやつ使い回すからさ...
リョウ:ちょっと待て、誰の使い回すんだよ
ミズキ:そうよ!いちばん重要じゃない!
アマネ:...気になる
ユキト:誰のでもないよ!選んだらみんなうるさいんだから、外部の台本使わせてもらう!
ミズキ:えー
ユキト:えーじゃありません。部長権限を行使します
アマネ:横暴だー
リョウ:そうだぞー、民意を大事にしろー
ユキト:そういうのは協力という税を収めてから言え馬鹿!!
ヒナ:ひっ!
リョウ:...ん?今誰かなんか言ったか?
ミズキ:なにも言ってないわよ。何?まさかオバケが〜とか言い出すんじゃないでしょうね?
リョウ:いやでも、確かに悲鳴っぽいのが聞こえて...
アマネ:...入口。誰かいる
ユキト:え?本当だ!
ユキト:すみません。誰かに用事ですか?
ヒナ:きっ、希望です!!
ユキト:はい?
ヒナ:入部希望です!おねがいします!
ユキト:これ...
アマネ:入部届け...
リョウ:てことはまさか新入部員か!?
ミズキ:嘘!?新歓まだなのよ?
ユキト:希望役職は!?
ヒナ:へ……?希望、ですか...?
ユキト:役者や音響や照明、広報の宣伝ポスター作りとか小道具大道具、あと衣装なんてのも!!
ミズキ:今サラッと脚本飛ばしたわよね
ユキト:静かにしてて!どう!?
ヒナ:えっと...ごめんなさい。私、役者しかないものだとずっと思ってて...
ユキト:ってことは
ミズキ:役者希望?
ヒナ:はい。でも経験はありませんし、皆さんの方がよっぽど...
ユキト:ありがとう!!
ヒナ:え!?
ユキト:ほんっとありがとう!ほんとに!役者希望って言ってくれてありがとう...!
リョウ:うわ汚なっ、鼻水出てんじゃん
アマネ:でもこれでアマネ達が役者する必要ない
ミズキ:そうね。それにユキトが望んでた2人以上の劇ができるわ
ユキト:そう!そうだよ!せっかく入ってくれるの確定したわけだし!君も一緒にやろう!
ヒナ:は、はぁ…?
ユキト:僕はユキト。一応部長をしてるよ。よろしくね
ヒナ:ヒナです。よろしくお願いします部長
ユキト:それでこっちがうちの脚本担当の
リョウ:リョウだ
アマネ:アマネ
ミズキ:私ミズキ。よろしくねヒナちゃん
ヒナ:よろしくお願いします!脚本ってことは、お芝居を書く人ですよね?すごいなあ。尊敬しちゃいます!
アマネ:…!そう、そうなの。ユキト聞いた?アマネ達ってすごい人達なんだよ?0から1を生み出す魔法使いなんだよ。そうだ、2人の台本は魔法使いと聖騎士の因縁の戦いにしよう。どっちかを戦いたくない性格にして、最終的に相打ち…
ユキト:(遮る)はいはいストップ。またアマネはすぐ死なせようとするんだから
ヒナ:すごいです!今の一瞬でお話の下地を作り上げちゃうなんて!
アマネ:ふふん、アマネは天才だからね
ヒナ:アマネ先輩の書くお話、とても気になります!
アマネ:ユキト、ここは新入生の意見をそのまま反映するのがいいんじゃないの?
ユキト:ええ?…でも、せっかく入ってくれたんだしそれでもいいのかな?
リョウ:おっと待てよ。たまたま口ずさんだアマネの台本になるなら、俺たちだってしゃしゃり出ても文句ねえよな?
ミズキ:そうよ!読まれもせずに決定されるの1番腹立つんだから!
ミズキ:ヒナちゃん!私、アマネより面白い脚本いっぱいあるわよ!今のところ脚本採用数は私の方が上なんだから!
ヒナ:そうなんですか!どのようなお話を書いているんですか?
ミズキ:恋愛系が多いかな。結構力作揃いだよ
ヒナ:恋愛!いつかやってみたいと思ってたんです!すごいですミズキ先輩!
リョウ:っと新入生。今ミズキが堂々と言ったが、こん中で1番上演されてるのは俺の台本だ。なんせ1番分かりやすいし演じやすい王道系だからな。ミズキみたいに大量設定だったり、アマネみたいに死にまくりじゃない、ハッピーエンドの台本。アクション系のも得意だぜ
ヒナ:おお…!お芝居でアクションは書くのが大変だと聞いたことがあります。すごいです!
リョウ:そうだろ?分かってんじゃねえか
ヒナ:皆さん素敵なものばかり作られてるんですね。好みじゃ選びきれそうにないです
ユキト:なら、好きな話や役よりもヒナちゃんに得意なものを見つけることから始めよっか。初めは口調とか性格とか、近しいものの方が演じやすいしね。
アマネ:童話の朗読してみる?
ミズキ:ありなんじゃない?シンデレラとか、白雪姫とか。赤ずきんもありね。
リョウ:せっかくならユキトも混ざってやれ。新入生1人だけやらせるのはさすがに悪いだろ
ユキト:確かに。なら赤ずきんにしよっか。僕がオオカミ役をするから、ヒナちゃんは赤ずきん役をしてみてくれる?
ヒナ:わかりました!
ミズキ:(小声)ちょっと!大丈夫なの?だってユキト…
リョウ:(小声)お前も俺もアマネもやりたくないだろうが。まぁ、びっくりするとは思うが…
ユキト:だいたい読めた?赤ずきんがおばあさんの家に着いたところから行くよ
ヒナ:はい!よろしくお願いします!
リョウ:じゃあ行くぞ。3・2・1 アクト
ヒナ:「まあ、おばあさん、とても耳が大きいわ。どうして?」
ユキト:(めちゃくちゃ棒読みで)「お前の声がよく聞こえるようにだよ」
ヒナ:お、「おばあさんの目はどうして大きいの?」
ユキト:(めちゃくちゃ棒読みで)「お前がよく見えるようにだよ」
ヒナ:え、、っと…「ならおばあさんの口はどうしてそんなに大きいの?」
ユキト:(めちゃくちゃ棒読みで)「それは、、お前を食べるためだよぉ!」
ヒナ:「きゃっ、きゃ〜!」
リョウ:(手を叩く)そこまで。新入生、どうだった
ヒナ:えっと、その
ミズキ:いいよ遠慮なく言って。最初からわかってたもん。
ヒナ:なんて言うかその、部長が、あんまり怖くなかったな、って……思いました
ユキト:嘘!?めちゃくちゃ怖がらせようとしたのに!?
アマネ:あれで…?
ユキト:だから言ったじゃん!僕は元々裏方志望だって!でも皆が嫌だって言うから渋々やってるんじゃんか!
リョウ:コイツの演劇センス、ほんと改善の見込みねえな
ミズキ:分かってた…、分かってたけどまさに目の前でこれを聞かされると腹が立って仕方ない!!アンタにはマイルドに言っててもねぇ、私らはどんな台本を書いても返ってくる感想『音読会』よ!?ちょっとはこっちの身にもなりなさいよ!
ヒナ:あ、あの…部長ってもしかして演技…
アマネ:全然ヒナの方が上。ユキトはド大根役者なの。特産品だよもう。
リョウ:でもこれで決まりだ。次の新歓公演、新入生、お前が主演だ。
ヒナ:ええ!?
リョウ:しかも1人芝居だ
ヒナ:ええ!?
ユキト:ちょっと待ってよ!それはあまりにもヒナさんが可哀想じゃないか!
ミズキ:ならちょっとはマシな演技見せなさいよ!『音読会』呼びから脱却できるなら私はなんだっていい。
アマネ:アマネも全面的に同意。ユキトの演技じゃ誰も泣かない。せっかく死なせたのに…可哀想
ユキト:お話の中で死なせる方がよっぽど可哀想だと僕思うけどね!?
ヒナ:で、でも新歓ってあれですよね?私たち1年生の入部勧誘がメインですよね?その中でド新人の、しかも1年生が1人でやるって言うのも…
ミズキ:言おうとしてることは分かるわ。でもユキトじゃ頼りにならない。ヒナちゃんの力が必要なの!どうしても!
アマネ:なんならヒナが部長になってもいい。この中で1番演技できるし。ユキトは演技力ないし頼りない
ユキト:ひどい!僕だって頑張ってるのに!
ユキト:それに、入ったばかりの1年生に任せるのも心苦しいよ
リョウ:そうか?むしろ部長っていう肩書きを持たせた方が、1年が1人で舞台に立つ真っ当な理由付けができてると思ったんだがな。
ユキト:最もらしい理由付けて…。本当は別のこと考えてるんでしょ?
リョウ:ん?横暴部長にクーデター起きた方が面白いかと思って。
ユキト:何も面白くない!
リョウ:そういうな。
リョウ:新入生!お前が来たおかげで、脚本家の俺たちに役者を強要させる横暴部長にクーデター起こすチャンスができた!これも縁だ、俺たちに加勢しちゃくれないか!
ヒナ:えっ、ええ!?
ユキト:はああ!?何言ってんの!?
リョウ:今のトップは酷いもんだ。脚本に文句つけるわ、1度は了承した役者はしないという約束を反故(ほご)にするわ…
アマネ:そして結果は誰の脚本も選ばず外部からの侵入を許す始末…。こんなのあんまり
ミズキ:でも貴方なら!ヒナちゃんならそれを変えられる!お願い!私たちに力を貸して!
ヒナ:えと、えっと
ユキト:騙されないでヒナさん!コイツら僕をからかって遊んでるだけだから!おいコラ3人とも!嘘ばっかり言わない!
アマネ:ひっ!今の聞いた…?怒鳴りつけて従わせようなんて…。うっ、アマネもうやだ…
リョウ:くそっ…それもこれもユキトが部長だから…!
ミズキ:ヒナちゃん、お願い!
ヒナ:…わ、分かりました!
ユキト:ヒナさん!?
ヒナ:私が部長になります!それで、部長から皆を守ります!
ユキト:ヒナさん待って!コイツら僕をからかって遊んでるだけ…
ヒナ:皆さん私について来てください!
リョウ:その言葉を待っていた新入生…いや、部長!
ミズキ:部長!
アマネ:部長!
ヒナ:はいっ!部長です!それでは皆さん練習を始めますよ!まずは走り込みから!夕日に向かって走りましょう…!
アマネ:うへぇ、熱血すぎる
ミズキ:まさかここまで乗るとはね…
リョウ:面白いしこのままでいようぜ
ユキト:ほらやっぱり面白がったな!しかもヒナさんも乗り気だし!
リョウ:でもよユキト、これでお前も晴れて役者からおさらばだぞ?むしろ喜ばしいと考えるべきでもある
ユキト:ま、まあ確かに…?
リョウ:ならお前のすることはただ一つ。新たな部長を喜ぶ事だ
ユキト:それは、そうかもだけど…
リョウ:ほら見ろ。新入生の曇りひとつ無い目を。信じて任せるのもアリなんじゃねえか?
ユキト:そう…だ、ね!そうかも!?僕だってやっと裏方に回れるんだし?良く考えればこれはプラスなんじゃ?そうだ、、よね!!うん!絶対そう!
ユキト:僕が間違えてた!よろしくお願いします!部長!
ヒナ:ええ。部長、いいえ、ユキト!一緒に走りますよ!
ユキト:はい!部長!!!!
_______
リョウ:………なんだこれ
ユキト:なにって、次の新歓の台本だけど
リョウ:…………ユキト、俺は今からお前に何個か質問する。正直に答えろ
ユキト:?うん。
リョウ:この台本は男2女3の5人台本だよな
ユキト:そうだよ。見て分からなかった?
リョウ:いや、そう、そうだよな。
リョウ:じゃあユキト、今演劇部の部員って何人か分かるか?
ユキト:なに当たり前のこと聞いてんのさ
ユキト:僕とリョウの2人でしょ
リョウ:そうだよな。そうだよな?
リョウ:もう一個質問いいか、残りの女3人はどうするつもりだ?
ユキト:…………君みたいな勘のいいガ
リョウ:(遮る)言うな!!諸々(もろもろ)の何かに引っかかるからそれ以上言うな!!
ユキト:ちぇ
リョウ:あのなぁ、台本人数と部員の人数が足りないのすら根本的な問題だけどな、俺もお前も脚本希望で、そもそもこの部に役者希望居ないだろうが。どうにもならねえよこれじゃ
ユキト:だって、先輩達がまだいる時に作り始めたやつだもん
リョウ:分かってたろ先輩が3月で卒業するの!
ユキト:そんなの知らない!この台本みたいに新歓前に新入生が3人入ってくれれば、、いける!
リョウ:いけねえよ!!!だからそもそも、俺たちが演技ド下手くそだろうが!!
ユキト:じゃあどうすんの!
リョウ:それを今考えてんだって!!!
0:(M)ノック音
リョウ:なんだ?
ユキト:はい、誰かに何か用ですか…って、入部希望!?
リョウ:おいユキト
ユキト:うん
0:(2人同時に)
ユキト:ようこそ!それで、希望役職は!?
リョウ:ようこそ!それで、希望役職は!?
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