「似者面談」
【読み方】 「にしゃめんだん」
【あらすじ】
美少年である彼はかく語る。正直であれと。誠実であれと。
「まだかなぁ。待ちくたびれているよ、先生?」
出演人数:2人(男1女1)
時間:15分(推定)
配役
◆先生:【女】本名、寺岡 奈緒 新人寄りの中堅教師
◆和頼:【男】本名、富澤 和頼(とみざわ かずより) 寺岡が担任を務めるクラスの生徒 美少年
⚠️ご注意
この台本は軽い性描写を含みます。前読み推奨、上演の際はご留意ください。
* * *
(以下、本文)
0:夕暮れ、カラスの鳴き声が寂しく聞こえる
和頼:(「僕もかえーろおうちへ帰ろ」の歌を鼻歌で歌う)
和頼:まだかなあ。待ちくたびれてるよ、先生
0:(SE)教室の扉が開く
和頼:やっと来た。先生、待ちくたびれましたよ。僕、先生と一体一の時間を楽しみにしていたのになぁ
先生:ごめんなさい、会議が長引いたものだから。けれど、今からする話は決して楽しいなんてものじゃない。富澤くん、貴方の将来を左右する話よ
和頼:なんでしょう?進路相談?僕はまだ1年生ですよ先生
先生:場合によってはそこにも関わってくるけれど違う。どちらかと言えば、生徒指導の観点ね
先生:富澤くん。できれば全て正直に答えて欲しいの。その、事が事だから学校側もバタバタしているのよ。なるべく細かく聞いてこいって上からね。
和頼:もちろん。他ならぬ担任の頼みですから、委員長の僕が誠実に答えることは至極当然ですよ。けれど先生?先生も僕に対して正直に。誠実でいて欲しいんです。
先生:それはもちろん。私が貴方の担任である限り、いいえ、貴方がこの学校の生徒である限り私は貴方に対して誠実でい続けることを誓いましょう。
和頼:やった。それじゃあなんでも聞いてください。どうせ聞きたいことは山ほどあるんでしょう?いいですよ。全てに答える準備は出来ていますから
先生:・・・どうして呼ばれたかの検討はついてるみたいね
和頼:もちろんですよ。何からがいいですか?校内の女子生徒と複数人同時に交際していたこと?その生徒と性行為をした事?それとも、、その女子生徒の一部から妊娠を伝えられたことですか?
先生:・・・・・・・・・
和頼:あれ?もしかしてこれじゃありませんでした?ならなんでしょう。校内で起きていることでまだ話していないとすれば
先生:待って!それで合ってる。合ってるんだけど・・・、
先生:分かっていても貴方の口からそれが出てきたことへの驚きと、把握していない情報が出てきたことに困惑してるのよ・・・。複数の生徒と交際?全員と性行為?勘弁して・・・
和頼:勘弁?どうして僕が叱られるんですか?正直に、極めて誠実に事実を述べただけですよ?それに対して困惑されてはかないません
和頼:けど、先生にも把握していないものがあるんですね。口を噤んでるのは誰だろう。篠田さん?それとも浅田さん?別クラスの森さんって説もあるなぁ、ふふふ
先生:こんな状況でどうして笑っていられるの。これは笑い事じゃないのよ。下手すれば女子生徒の人生が狂うかもしれない。そんな事態なのよ!?
先生:それに富澤くんだって、良くて停学、最悪逮捕されるわ。それくらい危険なの
和頼:僕だってそれくらい分かってますよ。だから極めて誠実な付き合いをしてきたと自負しています
先生:複数人と関係を持つことのどこが誠実なのよ・・・!
和頼:けど先生、校則には生徒間の交際に関しては何も記載されていませんよ?今ここで先生が僕を糾弾する理由が分かりません
先生:校則にはなくても、社会にはモラルと倫理というものがあるのよ。富澤くんのそれは完全にモラルからも倫理からも逸脱している。
和頼:なるほど。その理論なら納得です。確かに、この国は同時交際を是としない国民性ですね。浮気をしたら怒られて、不倫をしたら慰謝料を請求できる国だ。先生が誠実性を訴えるのも当たり前です。
先生:そう思うならどうしてこうなってるの・・・
和頼:だから、極めて誠実な交際をしてたってことですよ。先生は聞かなかったんですか?自分以外に彼女がいることを知っているかって。あぁ、そういえば先生は複数人と交際してたことを知らなかったんでしたっけ。じゃあ仕方ないですね。
和頼:それならこうは思わなかったですか?妊娠した生徒は1人残らず全員、落ち込む様子を見せていなかったって。
先生:っ、なんで分かるの
和頼:なんでって…そりゃ本望だったからじゃないですか?好きな人の子供を身ごもれたんですから。まぁ、僕は余計なことをしてくれたなって思いましたけど。
和頼:僕にはよく分かりませんが、優位性?が欲しかったんじゃないですか?僕の彼女の中で、自分がより高い地位にいると示したかったんですよ。女性の心は察するのが難しいですね
先生:まさか、全員富澤くんが複数と交際していることを知ってたってこと…?
和頼:そうですよ?僕は「付き合ってる人がいるから付き合えない」って断っているんですけど、ほとんどが「それでもいい」って言ってくるんです。相手方から了承がされたのなら僕の誠実性も保たれたままでしょう?だから了承した。それだけです。
先生:なら、その交際相手とした行いに対してはどう説明するの。
和頼:もっと簡単です。求められたので返した。それだけですよ。
先生:そんなあっさり・・・、しかもさっきからヘラヘラしたその態度、あのね!妊娠した生徒は本来あなたと誠実な付き合いをしてると思ってるのよ!それをまるで貴方は遊んでるかのように・・・
和頼:だって、実際遊んだんですから。そこは「まるで」じゃないですね。単なる事実です。
先生:遊んだ、ですって?
先生:貴方ね!その行為がどれだけ人の人生を変えるか本当に分かってるの!?避妊をしないのがどれだけのリスクを持つか知らないとは言わせない。それを相手を妊娠させておいて他人事みたいに・・・!
和頼:先生。
和頼:僕を思っての言葉だとは重々理解しているつもりです。けれど先生は僕のことをずっと、「見境いなしに女子生徒にサカる生徒」として僕に指導してますよね。
先生:何が違うの。
和頼:全然違いますよ。だって僕から求めたことなんて無いですから。それに、彼女たちとする時は必ず避妊をしています。さすがに数が数じゃないですか。いきなり10人も僕の子ができたら、たまったものじゃありませんよ。
和頼:疑うなら妊娠していない他生徒にどうぞ?僕の潔白を表明してくれるはずです。むしろ僕の方が被害者だ、とも
先生:被害者?女子生徒は現に妊娠しているのよ?被害者以外の何物でも・・・
和頼:妊娠したら被害者って・・・先生、ジェンダー差別も大概にしてください?
和頼:その妊娠が、僕の意志とは無関係に行われたとしたら?
先生:まさか・・・女子生徒が、わざと・・・?
和頼:先生に言いに行った人は誰ですか?僕が推測するに、木村さんあたりだと思うんですけど
先生:・・・確かに木村さんも言いに来た。私が話を聞いた人は2人。まさかもう1人も・・・?
和頼:先生。浅田さんあたりに僕の行いを聞いてみてください。それで、今まで僕が言ったことが正しければ、それは僕が誠実だっていう証でしょう?逆に、今までの僕の言葉を木村さんに返してみてください。「どうして?」って言葉もつけて。
先生:・・・分かりました。けれど、貴方の行いは決して褒められたものじゃないことは確かよ。いくらお互いの合意の上であろうとも、社会に出たらその理論は通用しない
和頼:確かに僕もこういうことが出来るのは学生までだと思っていますよ。だけど僕はリスクを最小限に抑えて行動しているのだから、この場合むしろ僕は褒められるべきですよ。僕より酷い人なんてごまんといますよ?
先生:話の主軸は富澤くんです。他の人の話は今はいいの
和頼:少し脱線するくらい良いじゃあありませんか。僕が聞いたことのある話だと、相当遊んでいた女子高生が妊娠して、出産したはいいものの、だんだん赤ん坊が邪魔な存在になり、最終的に駅前のロッカーに捨てたんですって。酷いと思いませんか?
先生:それは・・・とても酷いわね
和頼:でしょう?僕もその話を聞いて思いました。だから僕はきちんと求められれば返すけれど自分からは行かず、必ず避妊をしてそのような事態にならないことをしているんです。
和頼:けれど、僕の意志とは反対に、彼女たちは僕の好意を無下にした。あれほど僕が言ったのに、自分のマウント欲しさに馬鹿なことをする。その先がどうなるかも深く考えずに。僕の気持ちも、深く考えずに
先生:・・・ごめんなさい。私、女子生徒からの言葉で勝手に貴方を悪者にしていたのね。異性との付き合い方は指導しなければならないところはあるけれど、でも、少なくとも非があるのは貴方では無い。
和頼:分かってもらえてよかった。始めの先生、真っ先に僕のことを容疑者扱いして悲しかったんですよ?
先生:それは、、本当にごめんなさい。
和頼:嫌です、許しません
和頼:悪いと思うならそうですね、先生の高校生時代の話しでも聞かせてください
先生:そんなことでいいの?
和頼:はい。先生が僕くらいの時はどんな感じだったんだろうって、気になってたんです。どうですか?何か話してくれませんか?
先生:・・・別に、特段面白いものなんてなかったわ。何となく毎日を過ごして、友達と遊んだり、勉強したり、帰りにコンビニに寄ったり・・・かしら
和頼:へぇ?恋人はいなかったんですか?
先生:それ聞く?
和頼:聞きたいです。
先生:はぁ・・・。別に、恋人は居なかったわよ。3年間、浮いた話の1つも出なかったわ。
和頼:・・・嘘ばっかり
先生:え?
和頼:せんせぇ、僕言いましたよね?僕が先生の質問に誠実に答える代わりに、先生も僕に対して嘘偽りなくいてって。
和頼:浮ついた話はあるでしょう?恋人とは行かずとも、男女関係の一つや二つは・・・、ね?
先生:っ、なんでそれを知ってるの
和頼:さあ?知りたいですか?それを知って困るの、先生だと思いますけど。でも当時の先生、なかなか派手に遊んでたんじゃないですか?僕なんかよりも、ずぅっと
先生:今その話は関係ないでしょう!?
和頼:関係大アリですよ〜。僕を女遊びが激しいと説教しようとしたのは先生ですよね?逃げるんですか?悲しいなぁ。僕はこんなに正直なのに、先生はそれを返してくれないんですね?
先生:・・・・・・
和頼:だんまりですか。じゃあ僕が勝手に話します。先生、当時からモテにモテていたそうですね?まぁ先生は顔立ちも整ってますし、気立ても振る舞いも綺麗ですから、当たり前といえば当たり前ですけれど。
和頼:でも先生、どうして恋人作らなかったんですか?先生ほどなら当時の学年1のイケメンとも付き合えたでしょうに
和頼:ねぇ、どうしてですか?
先生:・・・彼には他に好きな人がいたから
和頼:それって小野寺くんのことですか?確か当時は彼女が居たとか。叶わない恋ですか。虚しいですね
先生:えぇ・・・。
先生:失恋した私は荒れた。自分を顧みずに色んな人と付き合っては・・・、相当遊んだと思うわ。
和頼:話してくれるんですね。てっきりだんまり決め込まれるかと思いました
先生:黙ったところで富澤くんに知らないことなんてないんでしょう?さっきの話といい、全部お見通しみたいだし
和頼:僕にだって知らないことも有りますよ。先生が失恋しただなんて初耳です。
先生:嘘ばっかり。小野寺くんのことを知ってて知らないフリをするのは誠実じゃないんじゃない?
和頼:あはは、怒られちゃいました。でも知らないことがあるのは本当ですよ。僕が知っているのは派手に遊んだって所まで。そこから今の先生になった経緯を僕は知りません。
和頼:でもそれこそ、僕が先生から学ぶべきところだと思っています。だから続きをどうぞ?先生
先生:・・・・・・顔がよく似てたの。失恋した私にとってはそれだけで十分だった。この人の子種をもらえれば、大好きな彼によく似た子供が手に入るんじゃないかって。
先生:その後は、富澤くんがされたことと同じ事をした。幸運にも、私のお腹には新しい命が宿った・・・。
先生:でもね、私を襲ったのはどうしようもない気持ち悪さ。名前も知らない人と血の繋がった、彼の子供でもない子が私の中にいる。
先生:でも私が1番気持ち悪かったのは私自身。愛のない行為で宿った生命に対して、堕ろそうと思えなかった。殺すことが出来ない母親としての思いを自覚した時、どうしようもなく自分が汚く思えた
先生:殺せないまま時は過ぎて、だんだん大きくなるお腹を隠しきれずに高校を中退した。たまたま一人暮らしだったから家族にバレることは無かったけど、でも年齢的に育てるのは無謀だった。
和頼:だから、駅前のコインロッカーに捨てたんですか?
先生:・・・えぇ。気づいたのね。富澤くんが聞いた話が私の事だって。
和頼:まさかとは思いましたけどね。こんな近くに本人がいるとは思いませんでした。
先生:自分でも許されないことをしたって自覚してるわ。あの子がもし生きてたら、貴方と同じくらいの歳になるの。でも、あんな寒い中で置いていったもの、生きてるはずないわね
和頼:・・・へぇ。それは興味深いですね。
先生:全部が終わってから自分のした事について理解した。そして、かつての私みたいな人間を生み出さないようにと思って教師を目指した。それが全部よ
和頼:・・・・・・・・・
先生:やっぱり、いくら冷静な富澤くんでもこの話には言葉が出ないわよね
和頼:・・・・・・・・・
先生:富澤くん。貴方は確かに被害者。でもね、求められれば返すっていう行為は、いつか自分の中に後悔をもたらす。綻びが出れば前のようには戻れなくなるの。それは、そこに愛があってもなくても同じことよ。
和頼:・・・・・・・・・
先生:だから、もうこんなことはしては(いけない)
和頼:(被せて)っふ、はははははは!!
先生:富澤くん・・・?
和頼:いやあ、やっぱり先生は僕が思った通りの先生でした。思い通りすぎていっそ笑ってしまいますよ。
先生:何を、言ってるの・・・?
和頼:先生がこれだけ正直になってくれたんです。僕も正直に返さなければ失礼というもの。
和頼:先生。僕はね?遊んでいたのと同時に実験をしていたんですよ。僕が彼女に対して愛が無くとも、僕に無断で妊娠するほど僕のことが好きだと言うのなら、いつか僕にも愛が芽生えるんじゃないかって。それを調べるための実験。
和頼:後悔?そんな耳障りの良い言葉を並べて諭そうとしても分かっちゃいますよ?先生が僕たち生徒を導こうとする反面、その行動を自分がしたことに対する贖罪としていること。
和頼:せーんせ?それ、自慰行為って、言うんですよ?
先生:なっ・・・にを言ってるの。私はそんなんじゃ・・・!
和頼:そんなんなんですよ。「あの時私は苦労しただから貴方にはそんな道に言って欲しくない」って。生徒を教え導く先生の振りをして、自分の行いを許して欲しいだけ。
和頼:愚かですねぇ。愚かすぎていっそ愛らしくなりますよ
和頼:僕を許せば自分も許されると思いましたか?僕が悪者なら先生は自分を被害者だと思えましたか!?色恋沙汰に狂わされた憐れな生徒と自分を重ね合わせて、慰められましたか?
和頼:あぁそれでいい。それでこそ僕の先生ですよ。
先生:富澤くん!教師に対してその態度はどうなの!
和頼:教師?
和頼:教師に対してじゃありませんよ。教師に対してじゃあありません。
和頼:先生、筆箱についてるキーホルダー、随分古いですね。鳥のくちばしが取れてるのにまだ付けてる。なにか思い入れでもあるんですか?
先生:今その話は関係ない
和頼:そうだ言い忘れてました。実は僕、両親と血が繋がってないんです
先生:・・・・・・え?
和頼:えぇ。僕、養子なんです。4歳の時に引き取られてそれ以降ずっと暮らしてます。知ったのは高校受験をする前ですから本当につい最近。僕も驚きましたよ。だって僕、父さんとそっくりなんですよ?
和頼:気になったから探そうとしました。元いた孤児院を訪れて、院長先生に渡されたのがこれ。
先生:こ、これ・・・
和頼:なんなんでしょう?これは枝に見えますけど、枝に付いてるこの突起は・・・
和頼:・・・あぁ、そういえば先生のキーホルダーと、色味も年季も似ていますね?
先生:まさか・・・富澤くん・・・
和頼:そうそう言い忘れたついでにもうひとつ。
和頼:僕、孤児院に拾われる前はコインロッカーにいたそうですよ?これは僕のすぐ側にあったとか
和頼:先生、もしかしてこれ、小野寺くんから貰ったものだったりします?
先生:っ!
和頼:やっぱり。だから捨てられなかったんですね。でも、そのおかげでたどり着けました。ありがとう、せんせ。
先生:あぁなんてこと・・・ほんとの、ほんとに貴方が、私の・・・
和頼:面白いですよね。過去の過ちで生まれた失敗作に対して、自分と同じ過ちを指導するなんて、
和頼:ねぇ、先生?
和頼:本当に、血は争えませんね
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