月泪 花水晶に こぼれつつ【2:1:0】

【読み方】 「つきなみだ はなすいしょうに こぼれつつ」

【あらすじ】

食べ物に目がない辰吉はある日、近所の商家の娘であるお市から、姉の結納式に贈る珍しい1品を探して欲しいとお願いされる。同僚の伝七と共に早速珍しいもの探しに出かけるが……?

出演人数:3人(男2女1)

時間:20〜30分(推定)

 

配役

◆辰吉(たつきち):木曽瀬屋の手代(使用人のこと)。書物が大好きで将来の夢は暖簾分けをして自分の店を持つこと。でもそれ以上に食べることがだーいすき!

◆お市(おいち):料亭を営む福禄屋の次女。行動力の塊で辰吉達を困らせることも

◆伝七(でんしち):辰吉の同僚で同じく手代。辰吉とお市のストッパー役として日々ストレスを溜めている。


* * *

(以下、本文)

 

辰吉:まいどどうも!また何かあればご贔屓に!

 

伝七:辰、次こっち

伝七:まいど。さっき言ってたの、次の祭りまでには入ると思うんで。はい、そん時はまたよろしくお願いします

 

辰吉:は〜、伝七速いね。俺なんかもっと時間かかっちゃう

 

伝七:お前は1人に時間かけすぎだっての。手厚くし過ぎるといくら時間があっても足りないね

伝七:時間かけるのはお得意様だけでいいし、そういうのは俺たちじゃなく番頭さんが扱う。手代の俺らにゃ関係ない話なんだよ

 

辰吉:なんかそれはさ、お客に失礼な感じがするから俺はあんまり好きじゃない

 

伝七:好き嫌いで決められるほど俺たち偉くないっての

 

お市:あら、でも私は辰吉の応対好きよ?

 

辰吉:お市!来てくれたんだ!

 

伝七:お市「さん」だ馬鹿。大商家の娘さん相手に何敬語使ってないんだよ。お市さん、辰がすんません

 

お市:いいのよ。家でも外でも敬語を使われて、お友達にもそうされたら滅入っちゃうわ

 

伝七:お市さんがそう言うなら……

 

辰吉:お市!この前のやつ気に入ってくれた?

 

お市:そうそう!今日はそのお礼もしに来たの!南蛮渡来の調味料なんてよく見つけてきたわね

 

辰吉:手に入ったのはたまたまだけどな!お市んとこ料亭だろ?何かに役立つかと思って!ほら俺、食いもん大好きだから!

 

伝七:そういや貰った給金全部食べ物に消えてたなお前…

 

お市:おかげでうちの両親も喜んでたわ。

お市:それでね、辰吉にちょっと相談したいことがあって

 

辰吉:いいよ!俺に出来ることならなんでも!

 

お市:…お姉さまにね、何か結納の贈り物をしたくて

 

伝七:あぁ。確か大口の顧客と結婚するんでしたっけ。確か相手方もそれなりの商家とか。 おめでとうございます

 

お市:ありがとう!お家同士の結納ってどうしても家の都合になるでしょう?でもお姉さまとお義兄様はお互い好き同士だったの。こんなにめでたいことは無いと思って。私からも何か特別な贈り物がしたいの

お市:嫁入り道具なんかはお母様が用意してくださるから、私からは少し珍しいものを贈りたいの。辰吉はよく私の知らないものを教えてくれるでしょう?お姉さまも商家の娘、珍しいものは大好きだから。

 

辰吉:まっかせといて!お市のお姉さんの晴れ舞台に関われるなんて光栄なことだよ!俺が絶対見つけ出してあげるから!

 

お市:嬉しい!私も一緒に探すわ。

 

伝七:俺も手伝いますよ。辰1人じゃどう暴走するかわかったもんじゃないですし

 

辰吉:それちょっと失礼じゃない?

 

伝七:うっせ。四半刻程度のお使いに一刻かかるお前が言える問題じゃねえよ。お市さん振り回して疲れさせたら元も子もないだろ

 

辰吉:確かに。じゃあよろしく!

 

伝七:お市さんはお姉さんにどんなものが贈りたいんですか?珍しいものって言ったって元々持っているものじゃあまり意味ないですよね

 

お市:できればね、消え物がいいかなって思ってるの。残り物だと気を使わせてしまうかもしれないし、そういうのはお義兄様から贈ってもらうのが1番だと思うから

 

辰吉:消え物かあ

 

伝七:椿油とか紅とか、ですかね?

 

お市:それもいいんだけど、もっと見たことないようなものがいいわ

 

辰吉:なら食べ物だよ!食べたら無くなるし美味しいし、お姉さんもそこまで気にしないものだよ!美味しいし!

 

伝七:2回言ったな

 

お市:私も食べ物がいいと思うの。お姉さまにも気を使わせないと思うし、辰吉の得意分野でもあるもの

 

伝七:でも料亭の娘さんで知らない食べ物ってあります?俺たちが知らなくてもお姉さんは知ってるかもしれないですよ

 

辰吉:知らないくらい珍しいものにすればいいんでしょ

 

伝七:んなもんあるかよ

 

辰吉:この前お市に渡した南蛮渡来の調味料。あれ、お市のご両親も知らなかったんだ。だから南蛮渡来なら知らないものもあるかも!

 

伝七:つっても南蛮のものなんてそれこそ領主様くらいじゃないとそうそうお目にかかれないんじゃねえの?

 

お市:そうなのよ。私達が儲けられるのも領主が商売に必要な座を撤廃してくれたからだもの。最近南蛮と貿易できてるのも領主様のおかげでしょう?

 

伝七:ちょっと待て。じゃあ辰は南蛮の調味料どこで見つけたんだ

 

辰吉:え?なんかもらった

 

伝七:馬鹿野郎。お前のことだからその前だかに何かしたんだろ。お得意の人助けとかな

 

辰吉:ああ!あの時は確か道に迷ってる人を案内したんだ。そんときに!

 

お市:大丈夫だったの?南蛮の人って言葉が違うんでしょう?何言ってるか分からなかったんじゃ……

 

辰吉:でも何とかなった!そういえばあの時、その人がいる船教えてもらったよ。確かまだこっちにいたはずだけど

 

お市:本当!!なら直ぐに行きましょう!

 

辰吉:おー!

 

伝七:辰!?俺らまだ仕事の途中!待てって!!

 

0:

* * *

0:町の港に大きな船が停まっている

 

辰吉:ここ!

 

お市:すごいわ。とっても大きいのね!

 

伝七:くっそ……なんで2人ともこういう時に限って足速ぇんだよ。息切れも、してねぇしよ…!

 

お市:早く入りましょうよ!

 

辰吉:一体何があるんだろう!楽しみだねお市!

 

お市:ね!

 

伝七:あのー、楽しそうなところ悪いんだけど、こういう船って俺たちみたいなのは入れないんじゃないんですかね

 

辰吉:なんで?

 

伝七:なんでって…俺たち庶民、船の人は使節団。あっちの方が身分的には上

 

辰吉:そうは見えなかったけど?

 

伝七:領主様と貿易してる時点で庶民なわけねえだろ。たとえ身分は庶民だとしてもお市さんとこよりも大きい商家のはずだ。じゃなきゃこんなでっかい船持てるわけねぇよ

 

辰吉:でもわかんないじゃん。もしかしたら誰でも入っていいかもしれないよ?

 

伝七:そんな不用心なことあってたまるか。大切な商品野ざらしで置いてるようなもんじゃねえか。

伝七:とにかく、入れない可能性の方がが高いんだから止めとけって

 

辰吉:やってみなきゃわかんないじゃん!

 

伝七:やってみなくたって分かるね

 

お市:ふ、2人とも喧嘩しないで。元はといえばちょっと無茶なお願いした私が悪いんだし……

 

辰吉:いーもん!俺とお市で行くから!伝七はここで留守番!

辰吉:ね!行こお市!

 

お市:え、ええ……

 

伝七:はいはい、行ってら

 

0:

* * *

0:数分後

 

伝七:お帰りなさい

 

お市:ただいま……やっぱり駄目だったわ

 

伝七:まぁそういうもんですよ。なんか他にないか探してみましょ?最近は遠くからも商人が来てるらしいですし、掘り出し物もあるかもしれないですよ

 

お市:そうよね……

 

伝七:ところで、辰は?

 

お市:辰吉なら後ろに……いない!?

お市:え!?辰吉?辰吉どこに行ったの?

 

伝七:入るのを断られたのは辰もですよね?

 

お市:ええ。一緒に出てきたはずなのに……

 

伝七:あんの馬鹿…!お市さんを1人にしてまで何してやがる

 

お市:ねぇそれより、辰吉をこのまま1人にしておいて大丈夫なの?いくら面識のある人がいる船だったってその人に出会えなかったら意味がないわ

 

伝七:そうですよ。辰を知らない人が見たら確実に盗っ人に見えるでしょうからね。

伝七:最悪今頃……

 

お市:そんな…!助けに行かなくちゃ!

 

伝七:もっかい行ったって入れすらしませんよ!

伝七:お市さん大丈夫です。辰ならちゃんと帰ってきますよ

 

お市:悠長なことを言ってる場合じゃないわ!相手は南蛮人、言葉も通じない中で辰吉が無事である保証なんて……!

 

伝七:お市さん。ここは俺を信じて待ってくれませんか?

伝七:これは辰とずっと一緒に働いてる俺だから言えることかもしれないですけど、

伝七:あいつのお人好しは、この国をまたぎますよ

 

0:一拍

 

辰吉:ただいまー!

 

お市:辰吉!どこ行ってたの!心配したのよ?

 

辰吉:え?

 

伝七:辰お前、お市さん置いてどこ行ってやがった。力じゃお前より適わないの分かってたよな?なにかされてたらどう責任取るつもりだった?

 

辰吉:それは、、それは…ごめん

 

伝七:俺たちはただの手代でお市さんは商家の娘!やるならちゃんと最後まで守り通せ。お前の好奇心で振り回していい人じゃない

 

辰吉:ごめんなさい……

 

お市:伝七そこまでにしてあげて。辰吉、貴方もそこまで落ち込まないでちょうだい。私は無事だったんだから。ね?

 

伝七:で、何持って帰ってきた

 

お市:え?持って帰って…え?

 

辰吉:うん。これ、貰ってきた

 

0:右手に持っていた包みを開くと、小さな砂糖の塊が数粒入っていた

 

辰吉:今回初めて持ってきたらしい。まだ広まってないものなんだって。お市、これ知ってる?

 

お市:いいえ知らない。お花みたいね。可愛い

 

伝七:これなんなんだ?お前のことだからきっと食べ物、だよな?

 

辰吉:うん!食べてみて!

 

0:お市と伝七がお菓子を1つつまんで食べる

 

お市:……!甘いわ!美味しい!

 

伝七:これ、砂糖か?

 

辰吉:そう!コンフェイトって言うらしい!砂糖で出来たお菓子なんだって!

 

伝七:コンフェイトか……確かに聞いたことないな

 

辰吉:見た目も可愛いし美味しいし食べたら無くなるし。お市、これでどうかな?

 

お市:ええ!これならきっと姉さまも喜ぶと思う!

 

辰吉:やったー!!

 

伝七:辰、辰

 

辰吉:なに?

 

伝七:喜んでるとこ悪いんだけど、コンフェイト、もう2粒しか残ってないぞ

 

辰吉:はっ!さっき食べちゃったから!?

 

伝七:それもあるけど、元々数が少なかったってのもあるだろ。

伝七:これだけをお市さんのお姉さんに渡す訳にもなぁ……

 

辰吉:そうだよね!うわあどうしよう!?

 

お市:これ使ってるのはお砂糖よね?私たちで作れないかしら?

 

辰吉:でも作り方が分からないよ……

 

伝七:砂糖を丸める感じ、、だよな?

 

お市:ザラザラしてないから、溶かしたお砂糖を丸くしてるんだと思うわ

 

辰吉:丸く……

 

伝七:丸くするんだったら手で丸くするのが一般的だよな?でも

 

お市:ええ。溶かした砂糖を手で丸めるなんてできっこない

 

伝七:あいつら1体どうやってこれを……

 

辰吉:……………………

 

お市:1歩前進したかと思ったらまた降り出しね。お姉さまにちゃんと贈り物ができるかしら……

 

伝七:とりあえず帰りません?ここにいたって何も出来ないですし。作ってみるにしたって台所に行かないと

 

お市:それもそうね

 

伝七:辰、帰んぞ

 

0:俯いて何かを考えている辰吉

 

伝七:辰!!

 

辰吉:えっ、ああうん!今行く!

 

0:

* * *

0:数日後

 

伝七:まいど。またご贔屓にどうぞ

伝七:……辰、辰!客!来てんぞ!

 

辰吉:っ!すみません!いらっしゃいませ!

 

伝七:大丈夫かあいつ……

 

伝七:お待たせしてすんません。え?あぁ聞きましたよ。福禄屋の結納式、結構豪華にするそうですよね。木曽瀬屋も大忙しですよ。そちらも?本当ですか!お互い大変ですね。

 

0:物が散乱する音

 

辰吉:うわあ!?

 

伝七:辰!?すんませんちょっと。はい、まいどありがとうございました!

伝七:辰。何やってんだお前らしくない

 

辰吉:ごめん……

 

伝七:今日ずっと上の空だよな。まさかずっとお市さんのこと考えてたのか?

 

辰吉:だってさ!お市があんなに喜んで欲しい!って思ってるのに、俺全然力になれてなくて……

 

伝七:コンフェイト、まだ難航してるんだってな

 

辰吉:そうなんだよ!俺達も最近忙しいから手伝えないし…このままじゃ間に合わないよ!

 

伝七:そうは言っても今の仕事をおざなりには出来ないだろ。ただでさえこの間ので番頭さんから大目玉食らったんだから

 

辰吉:それは分かってるけど……

 

伝七:今の俺たちにできることは、大人しく仕事して、休みになったら動くことだけ。お市さんには悪いけどこっちにも生活があるんだよ。お前も、番頭さん怒らせすぎたら暖簾分けだって出来なくなるかもしんないんだぞ

伝七:お前の目標だろ。こんなとこで諦めるのか?

 

辰吉:それはいやだ!でも、お市の悲しい顔を見るのも嫌だ

 

伝七:つったってよぉ……ああくそ

伝七:(少し離れた誰かに伝えているように)番頭さん!辰吉なんか熱っぽくて、休ませてやってもいいですか?……はい、今んとこは落ち着いてますし俺一人でも大丈夫だと思います。……はい。ありがとうございます

 

辰吉:伝七…………!

 

伝七:……しゃあねえだろ。お前がこのままとちってばっかいたら店にも迷惑かかるんだから。さっさと行け。お前のせいで俺はこれから忙しいんだ

 

辰吉:伝七!ありがとう!そのまま2日くらい休むって言っといて!!

 

伝七:それは無理だからさっさと解決してこい……聞いてないなあいつ

 

0:

* * *

0:翌日

 

お市:伝七。昨日はありがとう。辰吉ならこっちで預かってるから心配しないで

 

伝七:大丈夫です。むしろ辰をお市さんとこに置かせてもらってすいません。今、辰は?

 

お市:うちの厨房で試作してるわ。辰吉は本当に料理が好きね

 

伝七:はい。お市さん、あいつの夢知ってますか?

 

お市:暖簾分けでしょう?辰吉いつも話してくれるもの

 

伝七:もっと言うと、本を読みながら食事ができる店を構えたいんですって。あいつ、書物も好きだから。

俺たちいつも店が終わると番頭さんに商いの勉強をさせてもらってるんです。眠くなることもありますけど、でも辰はいつも楽しそうに番頭さんの話聞いてて、こいつは将来面白い商いをしてくれるだろうなって、番頭さんも言ってます

 

お市:面白い夢ね。それに、食べ物以外で辰吉が興味のあるものを聞くのも初めてだわ

 

伝七:あいつ、「お市に言ったら叶わなくなりそう!」って言うの避けてますよ

 

お市:まぁ。人を仏か神かと思ってるのかしら。失礼しちゃうわ

 

伝七:いやいや、もう店を持ってるお市さん一家に言えるわけないですよ

伝七:でも辰、結構色んなところで粗相してんだよな……ああ胃が痛い…

 

お市:辰吉って、粗相をしてるにしてはみんなから好かれてるわよね。どうしてかしら

 

伝七:それは、あいつが超がつくほどのお人好しだからですよ。

伝七:あいつ、頼まれたお使いを4倍の時間使ってやってくるやつなんですよ。普通に考えたら怒られたり減給されたりですけど、辰だけは許されてるんですよ。なんでか分かります?

 

お市:全く。思いつきすら

 

伝七:遅れた時間を帳消しにする、いや、帳消しを超えて店の利益になる案件を取ってきちまう。

伝七:それも、どうやったって聞いたら絶対こう帰ってくるんです。「人助けしてたらなんか」って。おかしいでしょ。

でも、それがあるから俺も番頭さんも黙認してる。あいつは天性の商人であり、商いが誰より好きな阿呆です。

伝七:だから、きっと今回も上手く行きますよ

 

お市:その自信は経験から?

 

伝七:4年も一緒にいるんです。証拠としては完璧でしょう?

 

お市:ええ。異議なし、ね

お市:ねぇ、伝七は?伝七は何か夢中になるものってないの?

 

伝七:俺ですか?俺なんかの聞いても意味ないですよ…

 

お市:意味が無いかどうかは私が決めるわ。何かある?

 

伝七:…………

伝七:蝋燭。俺、蝋燭が好きで。自分でもこっそり作ってるって言うか…、まぁ余り物の蝋を集めて溶かして作ってるだけなんですけど

伝七:自分で作ったものってのはやっぱり愛着が湧きますよ。時間をかけた分良いものが出来ると特にね

 

お市:なんだ。伝七もちゃんと商人じゃない。仕事以外はいつも仏頂面だから、好きでやってないかもって思ってたわ

 

0:目を見張り驚く伝七

 

伝七:……俺、ちゃんと商人でした?

 

お市:自分の作ったものが大好きで愛着があるなら素質は十分よ。なあに?不安だったの?

 

伝七:辰と一緒にいるとどうしても分からされるって言うか……俺には届かない存在だなって思うことが多くて、そう思ったら、俺なんかがなれるのかな、って……

 

お市:私、辰吉の応対好きって言ったけど、伝七のも好きよ。人をちゃんと見て覚えてる。顧客が今どういう状況にいて、何が欲しいのかがちゃんと分かってる。それって、商人にとってなくてはならないものじゃない?

お市:伝七は、もとより立派な商人よ

 

伝七:…お市さんが言うなら百人力ですよ。ありがとうございます

 

お市:どういたしまして。

 

0:間

 

お市:蝋燭ってどうやって作ってるの?あんなに大きいものを作るのは時間がかかるでしょう?

 

伝七:割り箸に紐を結びつけて溶かした蝋の中に付けるんです。引き上げて乾かして、また付けて乾かして……その繰り返しです。意外とすぐ乾くから小さいものだと一晩あれば出来上がりますよ。

 

お市:層みたいになってるのね。面白いわ

 

伝七:良かったら1つ譲りますよ。素人が作ったものですけど

 

お市:まぁ嬉しい!良ければいただきたいわ!

 

辰吉:それだー!!!!!!!!!!

 

0:辰吉が伝七達の元へ走ってくる

 

辰吉:伝七!それ!それだよ!!

 

お市:辰吉!?何かあったの?

 

辰吉:伝七のそれ!それいただき!

 

伝七:それって、、蝋燭の作り方のことか?

 

辰吉:そうだよ!砂糖も溶かしてるじゃん?なら同じように付けて乾かしてを続ければいけるんじゃない!?

 

伝七:あれは蝋だからすぐ乾くだけで、砂糖で上手くいくかどうから分かんねぇぞ。丸くなるかどうかも……

 

辰吉:えー!!でももう少しで上手く行きそうなんだよ!伝七の蝋燭みたいにさ、何かに砂糖を付けて、それでおっきくできないかな!?

 

伝七:食べれるやつのほうがいいと思うぞ。そもそもが小さいから取り出せないだろうし

 

お市:あっ!なら胡麻はどうかしら!少しだ円っぽいけど丸に近いし食べられるわよ?

 

辰吉:お市天才!ならあとは丸くするだけなんだけど!

 

伝七:丸くするだけなぁ……そこなんだよなぁ

 

お市:手は無理でしょう?かまどの上でできるようなこと……

 

辰吉:蝋燭みたいに層に出来たら……

 

伝七:丸、、丸か……

伝七:あっ

 

辰吉:伝七なに!?

 

伝七:いや、お市さんにはちょっと下品なんだけどさ……

 

辰吉:いいよ!とりあえず言ってみて!

 

伝七:いやまぁ……お市さん、大丈夫ですかね?

 

お市:いいわ。どうしてもって言うなら目を瞑っておくし

 

辰吉:伝七早く!

 

伝七:いやな………

 

0:伝七が米を綺麗な手ぬぐいで包んで振り回しはじめる

 

伝七:こうやって、ブンブン振り回すと握りが丸くなるんだよ。何でそうなるからよくわかんねぇけど、こうするのってどうだ?

 

辰吉:回す……回すか!なるほどね!

辰吉:伝七ありがとう!!これなら何とかなるかも!俺、急いで厨房戻るね!お市また後で!伝七またねー!!

 

伝七:……風みたいに来て、風みたいに去ってったな……

  

お市:でも何とかなるかもしれないんですって!良かったわ!

お市:今回の功労者は伝七ね。たっくさん案を出してくれたんだもの。ありがとう

 

伝七:俺は意見を言っただけですよ。実際に行動してる辰の方がずっと偉い

 

お市:じゃあ2人ともね

 

伝七:いいや、諦めなかったお市さんも偉いですよ。3人です

 

お市:あらお上手

 

0:お市と伝七が顔を見合せて笑う

0:

* * *

0:

 

お市:これが……!?

 

辰吉:どうかな。それっぽくはなったと思うんだけど……

 

お市:見た目は完全にコンフェイトよ!綺麗に丸くなったのね

 

伝七:あとは味か……食ってみたのか?

 

辰吉:1回は!ただお市にも食べてもらってからかなって思って

 

お市:それじゃ、いただきます

 

0:お市、コンフェイトを口に入れる

 

お市:……うん、軽くて甘い。美味しいわ辰吉

お市:これならきっと姉さまも気にいると思う

 

辰吉:………………やったー!!!!!!!

 

0:辰吉が伝七に飛びつく

 

伝七:うおっ!?っぶねえな!

 

辰吉:やったよ伝七〜!!本当にありがとう!!

 

伝七:俺は別に。作ったのはお前だろ

 

辰吉:何言ってんの!伝七が色々手伝ってくれたからじゃん!

 

お市:私からもお礼を言うわ。伝七が頑張ってくれたのは確かなんだから、素直に受け取ってちょうだい。

 

伝七:ありがとう、ございます

 

辰吉:伝七照れてるの?照れてるんだ!

 

お市:あら珍しい。可愛いところあるじゃない

 

伝七:……!うっさいお前ら!散った散った!

 

辰吉:お市、お姉さんの結納式っていつ?

 

お市:明日よ。もし良かったらなんだけど、2人も参加してくれない?手伝ってくれた2人を紹介したいの

 

辰吉:俺は全然いいよ!伝七は?

 

伝七:悪い、俺は明日頼まれ事があるんだ。俺の分まで頼む

 

お市:そうなの?残念だわ

 

辰吉:伝七の凄さしっかり伝える!任せといて!

 

伝七:そこ頑張らなくていいから!

 

辰吉:そういえばさ、このお菓子だけど、名前どうしようか?

 

伝七:ん?コンフェイトじゃだめなのか?

 

お市:私もそう思っていたのだけど……

 

辰吉:これは本物じゃなくてコンフェイトを似せたものだし、商人として嘘はつきたくない!

 

伝七:お前らしいな。まぁいいんじゃねえか

 

お市:なら、「花水晶」っていうのはどう?

 

伝七:「花水晶」ですか。綺麗な名前ですね

 

お市:初めて見た時お花みたいって言ったでしょう?あまーいお花の水晶で、花水晶。どうかしら?

 

辰吉:いいと思う!

 

伝七:俺もです

 

辰吉:それじゃあ花水晶に決定!!

辰吉:明日が楽しみだね!お市!

 

お市:ええ!2人とも本当にありがとう!

 

0:

* * *

0:翌日

 

辰吉:喜んでもらえて良かったね!

 

お市:ええ。泣いて喜んでくれるなんて思ってもみなかったわ

 

辰吉:お市もつられて泣いちゃったもんね。手ぬぐいいる?

 

お市:大丈夫よありがとう。辰吉の手ぬぐいを濡らす訳にはいかないわ

 

辰吉:いいのに。お市の涙なんて綺麗に決まってるよ!なんだっけ確か……月泪(つきなみだ)!お市の涙は月泪だよ!美しいものの例え!

 

お市:まぁ上手。辰吉が暖簾分けしたら、私は辰吉のお嫁さんにでもなろうかしら

 

辰吉:え!?お市が!?俺の!?

 

お市:だって口説かれてるみたいだったもの。

 

0:呆気にとられる辰吉

 

お市:ふふ、冗談よ。でも、私は次女だから跡継ぎ問題には関わらないし、辰吉のやる商いは面白そうだもの。少しくらいは本気よ?

 

辰吉:まさか、伝七から聞いたの!?

 

お市:さあ?どうかしらね

 

辰吉:待って!なんかすっごいむずむずする!待って!ねえ!お市ってば〜!!!

 



 

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