フラワーリング・デザート【1:1:0】

「フラワーリング・デザート」

 

出演人数:2人(男1女1)

時間:30分(推定)

 

配役

◆アエラス・ゼフィーロ:【男】ひとつの国に留まらない旅商人。固有スキルで顧客から色んなものを買い取っている

◆ユリア:【女】亜人のシスター。孤児の子どもたちには慕われているが、教会内の亜人差別がひどく昇級は絶望的


  

* * *

(以下、本文)

 

アエラス:(M)人間の心は砂漠だと思う

 

アエラス:(M)水をすぐに吸い込んでは、瞬く間に乾ききる。飽きるほど水をやっても、足りないと叫ぶ乾いた土地は、外部からでしか栄養を得られない。貪欲(どんよく)で暴食。足りなくて、欲しくて、もっと次をとねだるのに、一生満足することは無い。

アエラス:(M)もらった水は乾いていくと同時にその姿を消していく。欲しいと、よこせと言うくせに、少し経てばあげたことを忘れて同じことを繰り返す。

アエラス:(M)砂漠は水だけでなく毒も吸い込む。けれど毒は、表面では見えなくなっても、地中深くに根強く残ってしまうことがある。

アエラス:(M)満足することの無い砂漠に対して僕が出来ることとするなら、せめてその地に巣食った毒を、吐き出させてやることくらいだろう。

アエラス:(M)だから………

 

0:

 

ユリア:だからといって、記憶を売ってと言われて二つ返事で頷く人はほとんどいません。私を含めて

 

アエラス:記憶は記憶でも、「忘れたい」記憶ですよ。その人にとってマイナスの感情になるものなら取り除いた方がいいと思いませんか?

 

ユリア:私はそうは思いません。そんな自分勝手な商売、いつか回らなくなります

 

アエラス:これは手厳しい。私には多くの顧客がいますが、皆二つ返事で了承しました。噂を聞き付けて自ら売り込んでくる人もいましたよ。需要があるほど人々はひっ迫している。少なくとも、私が商売で困ることはありません。

 

アエラス:ですが振られてしまいましたし、普通の商売をしましょうか。異国の珍しいお菓子やおもちゃは各種取り揃えてありますよ

 

ユリア:間に合っています。お帰りください

 

アエラス:こちらの外観を見るに、間に合っているとはとても思えないですが?

 

ユリア:必要ありません。この協会と孤児院も近々改修されますので。それから、原則神に仕える者たちは節制(せっせい)が基本です。今後も嗜好品(しこうひん)を買うことはないかと

 

アエラス:そうですか。では次は生活雑貨を持って来ましょう。これから北部の国へ行く予定があるんです。確かあちらの洗剤や服は上質との噂が

 

ユリア:……でしたら、子供服を14人分と、石鹸を6つ調達しておいてもらえますか?

 

アエラス:お買い上げありがとうございます。こちらお求めの商品になりますよ

 

ユリア:なっ……!あるんじゃないですか!騙しましたね?

 

アエラス:いえいえ。子供服と石鹸は“たまたま”以前買い取った在庫があったものでして。いやあご協力できて良かった良かった

 

ユリア:白々しい……。これだけ旅をしていながら、どうして貴方は微塵もお変わりにならないのでしょう

 

アエラス:留まらないからかと。旅商人は進み続けないと生きていけない性分なんですよ。誰かの意見や思い、助言を全て流して、ただ己のために、己の思うままに生きる。そうしていると、自分の意志を曲げない自立した僕が出来上がるんです

 

ユリア:頑固で融通が利かない、の間違いでは?

 

アエラス:それは自己紹介ですか?

 

ユリア:…もういいです!そうやって人をからかい続けて、いつかひとりぼっちになっても知りませんから

 

アエラス:っはは。商人は元来(がんらい)、ひとりぼっちになる運命ですよ

 

ユリア:簡単に言いますけど、それ寂しくないんですか?

 

アエラス:全く。こんな風にお客様と楽しくお話ができますから

 

ユリア:私は全然楽しくないですけどね!

 

アエラス:では今回はこれにて。また良いものが手に入ったら顔を出しますね。もちろん、記憶のお取り扱いに関してはいつでもお待ちしていますよ?

 

 

アエラス:亜人の貴方だ。忘れたい過去などいくつもお持ちでしょう?

 

0:

 

ユリア:……はぁ、やっと行きましたね

ユリア:あら貴方たち。お昼寝から起きてしまったの?

……私が、居なかったから?…ふふ、嬉しいことを言ってくれるわね。大丈夫よ。これからも皆は、私が守っていくから

ユリア:さぁ、おやつにしましょうか。手伝ってくれる?

 

 

* * *

 

 

アエラス:(M)「人間こそが正当な種族である。」

アエラス:(M)それがこの世界の在り方。

アエラス:(M)人間でない者は世界に見捨てられた失敗作だ。獣にもなれず、人間にもなりきれない憐れな生き物を、人々は「亜人」と呼ぶ。

アエラス:(M)毒を吸い込めば花は枯れる。吸えるものが毒しかないと分かっていても、彼らは進んでそれをあおる。

アエラス:(M)薄めようとも決して消えることの無いそれは、彼らにとってはかけがえのない水なのだ。

アエラス:(M)己が生き延びるために必要な、水なのだ

 

0:

0:

 

アエラス:おや、今日のお出迎えは子供たちでしたか。はい、良い子の皆さんこんにちは。ご挨拶ありがとうございます。シスターはいらっしゃいますか?

アエラス:…………協会の奥へ?分かりました。教えてくれてありがとうございます

アエラス:そうだこちらをどうぞ。少ししかないので皆で分け合って食べてくださいね。見つかってしまっては僕がシスターから大目玉を食らってしまいますのでどうかご内密に

 

0:

 

アエラス:こんにちは。半年ぶりの再会にしては寂しい空模様ですね

 

ユリア:……あぁ、お久しぶりです

 

アエラス:北で面白いものを手に入れましたよ。何かご入用の物はありますか?物でなくてもお取り扱いできますが

 

ユリア:……あいにく、必要な物はありません

 

アエラス:ええ。手付かずの協会と孤児院が物語っていますよ。必要な物がないのではなく、必要な物を買う資金がないのでしょう

アエラス:復旧はまだでしたか。いつ頃をご予定しているんですか?

 

ユリア:分かりません……。施工(せこう)時期すら分からなくなってしまいました

 

アエラス:そうですか。

 

アエラス:昨日城門をくぐったのですが、その時貴方と一緒にいる司祭を見ました。ご関係は?

 

ユリア:この協会と孤児院を支援して頂いている神殿の司祭様です。ですが……

 

アエラス:資金提供を取り止められましたか。

 

ユリア:はい。亜人のシスターが運営する協会は外聞(がいぶん)が悪いと

 

アエラス:それだけじゃないでしょう?それだけならば、貴方が普段言われ慣れているものと特段変わらないはずだ

 

ユリア:…………

ユリア:(少し震えながら)「亜人が教育する子どもでは、たとえ人間であっても失敗作にしかならないのが残念だ」と。だから改修をしたって無駄なのだと。

ユリア:この孤児院にいるのは、皆人間の子どもたちなんです。私のせいであの子たちにも苦労をかけさせてしまう。私が、あの中で唯一の失敗作であるせいで

 

アエラス:つまり、協会のシスターが亜人である限り融資は期待できない、と

 

ユリア:情けない話ですがその通りです。申し訳ないけれど、もう貴方から買うことは出来ません。

 

アエラス:いいえ。まだできますよ

アエラス:貴方の記憶を僕に売ればいいんです

 

ユリア:それはしないと前に言いました。どんな状況であっても、売ることなどありません

 

アエラス:それが子どもたちのためになると言っても?

 

ユリア:確かにそうですね。まとまったお金が直ぐに必要なら、そうした方がいいのでしょう

 

アエラス:その通りですよ。何せこの商売でのご贔屓様は、皆さん亜人の方ですから

 

アエラス:罵(ののし)られ、詰(なじ)られ、辱(はずかし)められ…、自分らしい生き方を忘れた憐れな人達が、もう一度自分らしく生きるための救済措置。

アエラス:過去の辛い記憶を売って傷口を治した方、売った金を元に仲間と立ち向かった方。皆、素敵な顔をされます

アエラス:貴方も。そのお金で協会と孤児院を直せばいいんです。辛いことがある度に僕に売りつければいい。そうすれば貴方も子ども達も幸せに暮らせますよ

 

ユリア:貴方になんの利があるんですか。記憶…それも目を背けたくなるものなんて、買い取ってくれる人がいるとは思えません。

 

アエラス:いますよ。処罰用と拷問用に購入する方が一定数。

アエラス:凶悪な犯罪者に対して、亜人の耐え難い記憶というのは非常に有効ですから

 

ユリア:……それを買う方は人間なんですよね。

 

アエラス:おおかたは

 

ユリア:その人たちはどういう気持ちで買っているんでしょう。それを売った亜人の方は、きっとそういう人たちによって酷い思いをしているのに

 

アエラス:何も考えていませんよ。そういう人たちほど、自分がしている事をまともに考えたことは無いでしょう。

アエラス:今の世界は、亜人は差別されて当たり前の世界ですから

 

ユリア:生き方も話し方も考え方も、私たちは人間とそう変わらないのに。未だ変わりが見えないのはどうしてでしょうね……

 

アエラス:お望みならば、司祭の認識を盗ってしまいましょうか?

 

ユリア:できるんですか?

 

アエラス:ええ勿論。「亜人は差別対象だ」という認識もまた、ひとつの記憶ですので

 

ユリア:ご配慮痛み入ります。ですが、お気持ちだけありがたくいただいておきますね

 

アエラス:いいんですか?

 

ユリア:ええ。たとえ司祭様の認識を変えたところで、今この現状が良くなるとは思えません。司祭様はおひとりだけではありませんし、改修費用を支援していただくためには複数人からの同意が必要なんです。そこまでして貴方が危ない橋を渡らなくてもいい。冷たく聞こえるでしょうが、私は貴方にそこまでしていただく義理がありませんもの

 

アエラス:シスターがそう言うならば

 

ユリア:……珍しいですね。貴方が引き下がるなんて

 

アエラス:顧客がやらないと決めたことを無理に取り下げるのは、三流の商人がすることですよ

 

ユリア:そうですか

 

アエラス:ではまた何かあればご連絡を。数日はこちらに滞在しますので。

 

ユリア:えぇ。そんな時があれば

 

 

* * *

 

 

ユリア:……クヨクヨしても仕方ない、か。

0:ユリア、自身のほっぺを叩く

 

ユリア:切り替えるのよユリア!今は行動あるのみ

 

0:

 

ユリア:スキル発動___「セフィロト・ブルーム」!

ユリア:…これで植物たちはしばらく大丈夫ね。いくつか実もなってるし今日の夕ごはんにでも出しましょう

 

0:孤児院の子供が声をかける

 

ユリア:ん、なあに?そうだ!昨日でお肉使い切っちゃったんだ。教えてくれてありがとう。少し買い物に出てくるから、貴方は今日使う野菜を取っておいてくれる?

 

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0:

0:商店街の細い路地

 

アエラス:お待たせしてしまって申し訳ない。直ぐに始めましょうか。取引は同じく記憶のお取り扱いでお間違いありませんよね?

アエラス:気分が悪くなればすぐに言ってください。それでは、スキル発動___「ロックハート」

アエラス:はい。完了です。それでは僕はこれで

アエラス:……え?スキルの売却を?ですがそれでは貴方が……

アエラス:……分かりました。貴方のスキルですとおおよそこのくらいの価格帯になります。もう一度聞きますが、よろしいんですね?

アエラス:分かりました。これ以上は言いません。少し長引きますのでこちらに座ってください

 

ユリア:あら?そこにいるのは……

 

アエラス:それでは……スキル発動___「ロックハート、『スキル』」!

 

ユリア:魔法……!あの人の話、本当の事だったんだ…。でも、今のって……

 

0:

0:

アエラス:また何かあれば言ってください。数日でまた国を出ますので。それでは

 

ユリア:商人さん

 

アエラス:シスターさんじゃないですか。こちらで見かけるのは初めてでしたので驚きました。今日は貴方と縁があるようです

 

ユリア:……普段はああして商売をしているんですね

 

アエラス:えぇ。皆さん大切なお客様ですよ。

 

ユリア:スキルの買取もなさっているんですか?

 

アエラス:よく見ていますね。まだまだ荒削りでお恥ずかしい限りです

 

ユリア:正気ですか!?私たち亜人がこの世界でまだ生きていけるのは……!

  

アエラス:…えぇ。亜人しか「スキル」を持たないから、ですよね

 

ユリア:分かってるんじゃないですか!なのに買い取るだなんて、この先あの人に起こりうることを、貴方が理解してないはずがないでしょう!?

ユリア:この世界から…人権が消えるんですよ……!?

 

アエラス:それでもご本人が望みましたので。無理に断る商人は三流以下です

 

ユリア:三流以下でもなんでも関係ありません!貴方は止めるべきだった!お金なんてすぐに底をつきます!どうして教えなかったんですか!なんでそんなに普通そうな顔をしてるんですか!?

ユリア:仲間を見殺しにしたんですよ!?

 

アエラス:僕が止めても、彼は止まらなかった。

アエラス:誰もが諦めてるんです。たとえスキルを持っていたって差別は無くならない。幾度となくデモ活動を続けても変わらない。けれど金だけはいつまで経っても必要で、金がなければ生きては行けない。

アエラス:金なんですよ。最終的に我が身を守ってくれるのは。スキルや記憶では守れない。この世界で唯一、対等になっているのが金なんです。貴方がいちばん分かっていることでしょう?

 

ユリア:それでも彼は手放してはいけなかった。貴方がそうさせてはいけなかった!

ユリア:それじゃ彼らは完全には救われないじゃないですか……

 

0:

 

アエラス:……彼らを、ほんの少しだけでも幸せにさせてやりたい。そう思うことは間違っていますか?

 

ユリア:いいえ

 

アエラス:僕は、こんなことでしか役に立てないんです。亜人たちから高く買い取り、人間たちに高く売りつける。それだけしかできない

アエラス:それでも、終わらない苦しみを少しでも和らげられるのなら、僕はこれからも続けます

アエラス:僕には大義をなす程の力も度胸も無い。代わりに彼らに少しでも富がもたらせられるなら、たとえやり方が間違っていても後悔はない

アエラス:スキルまで買ってしまったのは、良くないことだと自覚はしています。でも

 

アエラス:そうでもしなくては、彼らが持たない

 

アエラス:貴方も。直ぐにまとまった資金が必要なのは確かでしょう。これから寒くなります。このままでは隙間風が入って子供たちが風邪をひきかねない

アエラス:マイナスな感情を抱くしかないのなら、手放して楽になるのだって神は許してくださいます

 

ユリア:……いいえ、いいえ。たとえこの世界を統べる神が許したとしても、私が私を許しません

 

アエラス:どうして?

 

ユリア:だってここまで積み重なった痛みは、今の私を成長させてきた痛みですもの

ユリア:痛いのは確かです。幾度となく脳裏に蘇る記憶は、呪縛となって私を絞めあげる

ユリア:でも、それを手放してしまえば、それを乗り越えて今ここにいる私を否定するのと同じこと。何度痛めつけられても折れなかった、私の力の表れですもの。

ユリア:手放してたまるものですか。他人に渡してたまるものですか

ユリア:かつて泣くことしか出来なかった私も、今の私を形づくる無くてはならない存在だから

 

0:

 

ユリア:…それに、一度だけでも楽を覚えてしまったら、人はどんどん楽な方に流れていってしまいます。どれだけ辛い思いをしても、「貴方が全て買ってくれるから」、と貴方の力に頼りきってしまう。

ユリア:神は惰性的な生き物を嫌います。私はこの国のシスターとして、一人の亜人として、たとえ茨の道であろうとも歩き続けると決めました。

ユリア:それが私の生き方で、それが苦しいものだとしても後悔はありません!

 

アエラス:………………

 

ユリア:…どうされましたか?どこかお身体に差し障りが…?

 

アエラス:…………咲き誇った、砂漠の花

 

ユリア:え?

 

アエラス:っ失礼。シスターの演説に思わず胸を打たれました

アエラス:貴方がそこまで言うのなら僕はそれに従いましょう。ここまで言い切った方は貴方が初めてですよ。お強い方だ

 

ユリア:いいえ。私は強くなんかありません。貴方が協会に来る前までは1人でこっそり泣いていました。阻まれた種族の壁を壊すことにすら恐れている臆病者です

 

アエラス:けれど、それを子どもたちには見せなかったではありませんか

 

ユリア:見せてしまえばあの子たちが心配してしまいますもの

 

アエラス:そういうところです。そういう細やかな気遣いが貴方の強さを示している。そしてそれは子どもたちも気づいているでしょう

アエラス:子どもは僕たちの想像よりずっと早く、大人になっているものです。時には貴方の弱い一面も見せてあげては?

 

ユリア:…………

ユリア:シスターは、規則に則って行動をしなければなりません。孤児院の皆を不安がらせる行いをしてはいけないことも規則の1つ。

ユリア:ですから私はやっぱり隠します。あの子たちが私を思ってくれることは嬉しいけれど、それでもあの子たちには自分の事を最優先に考えて欲しい。憂いひとつなく過ごして欲しい

ユリア:それに、涙を見せる相手なら、もうここにいるではありませんか

 

アエラス:……僕は浮浪の旅商人ですよ?

 

ユリア:それでも、時々はこちらにいらしてくれているでしょう?

 

アエラス:えぇ。そこに商談があるのなら

 

ユリア:ふふっ、商人らしい答えですね。でも、その答えが今は何より安心します

ユリア:冬の手習い用に毛糸がいくつか欲しいんです。お願い出来ますか?

 

アエラス:南部の地域に掘り出し物があったはずです。すぐに用意しましょう

 

 

* * *

 

 

アエラス:(M)毒を含んだ花が辿る末路は、段階的に萎れるか、他意によって踏み潰されるかだ

アエラス:(M)初めから花が落ちることが分かっているのなら、せめてその時間を長引かせてあげようと思うことは自然だろう。

アエラス:(M)人とは違う力を持っていた僕に出来たのは、多少の毒を吸い出すことだけだった。それが彼らを救う唯一の方法だと思った。

アエラス:(M)だが、彼女は違った。

アエラス:(M)痛みを糧に成長する人がいた。水も毒も、清濁併せ呑む人がいた。踏まれてもなお、根幹は死ぬことがない人がいた。

アエラス:(M)彼女のことを、「羨ましい」と思った。

アエラス:(M)僕にはついぞ、その決断が出来なかったから

アエラス:(M)人間だと詐称して、亜人に手を差し伸べる心優しき青年を演じていたかった。差別される苦しみの記憶を「売って」しまった僕だから。逃げてしまった僕だから。本当は亜人のくせして、人間のふりをしている僕だから。

アエラス:(M)彼女のその勇姿が羨ましくて、妬ましくて、憧れた

 

 

* * *

 

 

〜1年後〜

 

ユリア:次はお洗濯ね。貴方たち、お手伝いに何人か来てくれるかしら?……うん、お願いね。

ユリア:それにしてもこの石鹸、予想よりずっと品質が高い。さすが商人、目利きは間違いないのね。この様子なら毛糸も問題ないか

ユリア:…………まだ、南部にいるのかしら。

 

アエラス:いえ、先程こちらにつきましたよ

 

ユリア:っ!来るなら正面から来てください。

 

アエラス:シスターを驚かせたくてつい。お求めのものを持ってきましたよ

 

ユリア:ありがとうございます。

 

ユリア:……?あの、こんなに沢山頼んだ覚えはないんですが……

 

アエラス:それは僕からの賄賂です 

 

ユリア:といいますと?

 

アエラス:今日は貴方にひとつ商談を持ってきました。孤児院の子どもたちに働いてもらう気はありませんか?

 

ユリア:え、あの子たちに労働を?

 

アエラス:ええ。冬の手仕事で作る製品を卸していただけないかと。どうやら南部では原料となる糸は作れるがそれを加工する時間がないそうで。もちろん納品量に見合った給金を出します。それを修繕費にでも当てたらいい。

アエラス:貴方たちの力を貸していただきたいんです

 

ユリア:非常にありがたいお誘いですが……原料を仕入れと商品の販売でここと南部の行ったり来たりになりますよ?今までの各地を周り続ける生活が出来なくなります。貴方の1番大事なの生き方だったじゃありませんか。商人がご自身の損害を考慮しないはずがありません。

 

アエラス:大丈夫です。しばらくこちらに定住しようと思っていますから

 

ユリア:定住!?

 

アエラス:……そこまで驚きますか

 

ユリア:驚きもします!放浪し続けないと生きていけないと言っていたのに……

 

アエラス:もちろん今までの商売も変わらず続けますよ。需要がある分、僕が行かずとも向こうから来ます。以前よりはさすがに減るでしょうが……

アエラス:けれどそうすることで貴方のような人が増えるかも分かりませんしね。

 

ユリア:それで本当にいいんですか?

 

アエラス:はい。商人もたまには他人の意見を受け止めなければならないと分かったんですよ。柔軟に考えられてこそ商売は長続きします

アエラス:それに、

 

0:

 

アエラス:ひとりぼっちはさみしいじゃありませんか

アエラス:安心してください。こう見えていつもハンカチを持っている男ですので

 

0:

 

ユリア:…………少しキザが過ぎますよ、アエラスさん

 

アエラス:おや、僕の名前を覚えていらしたんですね

 

ユリア:ええ。飄々とした貴方にふさわしい名前だと思っていましたもの

 

アエラス:僕も貴方の名前はとてもふさわしいと思っていますよ、ユリアさん?

 

ユリア:洗礼名ですので

 

アエラス:付けた方は相当な名付けのセンスがあるようだ

 

0:(顔を見合わせて堪えきれずに笑う)

 

ユリア:では、よろしくお願いします。長い付き合いになりますね

 

アエラス:短い付き合いにならぬよう努力しますよ

 

 

* * *

 

 

アエラス:(M)「咲き誇った砂漠の花」

アエラス:(M)オアシスなんてない乾いた土地で、ひとりぼっちで、多くの悪意にさらされながら、それでも輝く孤高の花。誰もが憧れ、その手に託したくなる希望の象徴

アエラス:(M)誰もが枯れていく中、その花は旗頭(はたがしら)となって仲間を照らす

アエラス:(M)その輝きに目が眩(くら)む者もいるだろう。己の強さとの差に圧倒されて挫ける者もいるだろう

アエラス:(M)けれどこれだけは言える。この花が枯れればもう花は咲かない

アエラス:(M)だから守らねば。逃げ出した僕にできることをしなくては。彼女の強さに突き動かされた1人として、商人というプライドを守ってくれた1人として、恩返しをしなくては

アエラス:(M)借りを作るのは、商人の性(さが)に合っていないから

アエラス:(M)僕が彼女のオアシスになろう。僕が彼女というオアシスに救われたように。そこに咲き誇る花を萎(しお)れさせないように

アエラス:そうしていつか、枯れた大地に大輪の花が咲き誇ったのなら

 

アエラス:(M)僕は_____________

 

 

 

 

 

 

さくらもち台本マラソン 完走報酬台本

 

Special thanks 入谷円斗 様

 

 

 

 

 

花より桜餅

さくらもちの台本置き場 未完結ものアリ〼

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