そして彼は寓話になる 【2:1:1】

[※はじめに]

この作品はライターサークル『のべるぶ』内にて発足した創作世界『ノベルニア』という企画をもとに作られた作品になります。つきましては営利目的での上演を禁止いたします。ご了承のほど宜しくお願いします。


キャスト

◆ティム:【男】外交的で元気、軽口が多い

◆ゴルドー:【男】リューネシア国家貴族の四男坊、やや内向的

◆ドン・クロック:【性別不問】ネズミの王、今作では語り部として登場

◆姫:【女】ゴルドーを召し抱えた時の姫、自己中心的

 

 

***


ドン:これは驚いた。まさかこんなに早く見抜かれるとは思っていなかったよ。僕を見抜いた人はこれで三人目だ。

ドン:それで?何が知りたいの?見抜いたご褒美にタダで教えてあげるよ。知りたいのは世界の謎?誰かの浮気?君の知らないものの知識?

0:

ドン:ふーん…。『ゴルドーの真実が知りたい』、ねぇ…。なんというか、物好きだね君。

ドン:あんまりおもしろい話でもないよ?それでも聞きたいのかい?

ドン:……。いいよ、その小さい耳の穴かっぽじってよく聞きな。

 

 

ドン:『彼にとって、仲間というのは何よりの宝物だった』

 

____

 

ティム:すげーなおまえ!名前なんていうんだ?

 

ゴルドー:…

 

ティム:あぁそうか、俺はティム!こないだ見習いになったばっかなんだ!そしたらさ?別の団にすげー強いやつがいるって聞いたんだよ!おまえのこと!

ティム:話てぇなーって思ってたらいつの間にかお前の隣に来てた!

 

ゴルドー:はぁ…

 

ティム:で!?俺は名乗ったんだからもちろんお前も名乗ってくれるよな!?

 

ゴルドー:…ドル、ドル・ゴルドー。

 

ティム:ゴルドー…?どっかで聞いたことあんな…。

 

ゴルドー:……

 

ティム:ま、いいわ!よくわかんねえけど、俺はお前のことすごいと思ってて、友達になりてぇ!って気持ちは変わんねぇからな!

 

ゴルドー:…!そう、か…

 

ティム:ほんじゃよろしくな、ドル!

____

ドン:ティムは平民の出だった。剣術の腕を買われて騎士団に入り、ゴルドーと出会った。

ドン:ゴルドーは初めて、家族以外の人たちから名前で呼ばれたんだ。嬉しかったろうね

ドン:だって、貴族はすべからく彼のことを“ゴルドー家の四男坊”と呼んでいたんだから。家名でしか見られない世界で、唯一呼んでくれたのが彼だったから。

ドン:ゴルドーが彼に対して何でも話せるようになるのに時間はそうかからなかったんだ。

____

 

 

ゴルドー:ティム

 

ティム:なんだドル?

 

ゴルドー:じつは、今度団長に昇格する話が出た。先の内戦鎮圧の功績だそうだ。

 

ティム:まじ?

 

ゴルドー:姫をお守りする近衛騎士として、新たな団も新設してくれると聞いた。

 

ティム:すげえじゃん!

 

ゴルドー:ああ。だが、辞退するか迷ってるんだ。

 

ティム:はぁあ!?!??!?

 

ゴルドー:声が大きい

 

ティム:そりゃそうもなるだろ!?おまえそれ、白パン捨ててマギパン食おうとしてんのと同じだぞ!?

 

ゴルドー:そういうものか…

 

ティム:なんでそんなに弱気なんだよ?やってみりゃいいじゃねえか。

 

ゴルドー:俺はただの四男坊だぞ…。目立つのは苦手だ…

 

ティム:ははぁーん?不安なんだ?

 

ゴルドー:あ?

 

ティム:やってみりゃいいと俺は思うがねぇ。失敗なんて経験値の一つでしかねぇよドル?現に俺も昨日書類に茶をこぼした

 

ゴルドー:お前はもう少し危機感を持てよ…

 

ティム:まぁまぁ!俺なんかもっと失敗してるって言いたかったんだよ!やってみろよ団長!俺はお前の率いる団に入りてぇんだけど?

 

ゴルドー:…一度検討する

____

 

ティム:なー団長。くっそ暇じゃね?

 

ゴルドー:任務中だティム。口を慎め

 

ティム:つってもさ、待てど暮らせど敵さんはお見えにならねぇんだから、これはもうおしゃべりに興じるしかないってもんじゃね?

 

ゴルドー:はぁ…お前はいつもそうだなティム。入団から5年は経っているのにどうしてこんなにちゃらんぽらんなままなのか…

 

ティム:そういう団長様は、5年で世紀の大出世を遂げた英雄様だ。ったく、どうしたらこんなに差がつくのかねぇ。

 

ゴルドー:俺が辛うじて貴族だっただけの話だ。実力ならお前が団長でも申し分ないと俺は思う。

ゴルドー:というか、おまえはいつになったら副団長になってくれるんだ?

 

ティム:だって書類仕事とかめんどくせぇじゃん。俺はドルと話してぇのにさ

 

ゴルドー:おまえなぁ…

 

ティム:頼みますよ団長様!ただでさえおまえが姫の護衛っつー別のとこに配属されて、俺がさみしー思いしてんだから。

 

ゴルドー:……なんだお前。変なキノコでも食べたか?

 

ティム:あっはっは!ひっでーなドル!至って真面目だぞ俺は!

 

____

 

 

 

ドン:ゴルドーはティムがいなかったらきっとここまで心を開いてなかったろうね。

ドン:美しい友情だ。そうは思わないかい?

ドン:…なんだい、君はつれないねぇ。少しはティムを見習いなよ。

ドン:……わかったわかった。話を進めよう。

0:

ドン:ゴルドーはティムに言われた通り団長になり、姫に召し抱えられるようになった。

ドン:綻びは、そこからだった。

 

 

____

 

 

姫:ゴルドー、こちらにきて

 

ゴルドー:姫様。私は男です。いくら騎士としておそばに侍っているとしても、薄い夜着一枚でいるのはお控えください。

 

姫:ゴルドー、私を慰めて。

 

ゴルドー:お戯れはおやめください

 

姫:私の言うことが聞けないの?

 

ゴルドー:姫様は隣国の王太子様とのご成婚を間近に控えているのですよ!?いまここで問題が起きてしまえば国全体が汚名をかぶるとなぜわからないのですか!!

 

姫:知ったことではないわ。私の意思があなたの行動理由。王族の意見は国民の総意。

姫:それに、どうして私のような高貴な人間が、雑草どもに耳を傾けねばならないの?

 

ゴルドー:っ……。もう限界です。本日付で任を外れさせていただきます。陛下にはご了承済みですのであしからず。

 

姫:お待ちなさい!私よりも、あの低俗な者たちのほうが大事だというの!?

 

ゴルドー:私に関しては何を言ってもいい。だが彼らへの侮辱はやめていただきたい。彼らは私にとって、なくてはならない存在なのですから。

 

姫:ただの四男坊の分際で…!

 

 

____

 

 

 

 

ドン:思い通りにならないゴルドーに憤りと、自分よりも優先する彼らに嫉妬した。いやあ、オヒメサマって怖いね?嫉妬に狂った女は時々、とんでもないことに走ってしまう。

 

____

 

 

ゴルドー:ベン!ネイサン!ブラッドまで!一体これはどういうことだ!?

 

ティム:だん、ちょ……

 

ゴルドー:ティム!!一体何があった!俺が居ない間に何があったんだ!

 

ティム:…呪いのマギスティだ、だんちょう……上の奴らども、敵に国を売りやがった…!

 

ゴルドー:どうしてこんなこと…!

 

ティム:さぁな…俺らが邪魔だったんだろ…いまやこの騎士団は近衛騎士よりでかくなっちまった。めのうえの…たんこぶだったんだろうさ………がはっ!!(咳き込む)

 

ゴルドー:ティム!

 

ティム:あああ!!!!いだい!痛い痛い痛い!頭が割れそうだ…!!死なせろ!いっそ死なせてくれよ!!!!!

 

ゴルドー:ティム!!!!!

ゴルドー:姫様は…!どれだけ俺たちを侮辱すれば気が済むんだ…!!

 

ティム:ぁ…、くっ、はぁ……!

ティム:団長…いや、『ドル』。

 

ゴルドー:っ!!

 

ティム:俺を、俺らを……殺してくれ…!

ティム:解放してくれ…この苦しみから、死ねない苦しみから…!

 

ゴルドー:それが…お前らのためになるなら…

 

ティム:ごめんな…、一番しんどい役をまかせちまって。

 

ゴルドー:ほんとうにな…おまえは結局、書類仕事をほっぽりだす副団長のままだ。

 

0:剣が肉をえぐる音

 

ティム:かはっ…!ははっ、だっておれ…ごほっ!ばかだもん、な…

 

ゴルドー:…ぁ、あああああああ!!!!!!!

 

 

 

ドン:その後、敵国と密通していた姫と敵国の手によりゴルドーは拘束された。姫が駆け付けた時にはすでに王様は死んでいたそうだ。ゴルドーが殺したんだってさ。凶器は毒のついた髪飾りだったのに。

ドン:こうして彼は、『身内殺し』の名を受けた。自軍の兵を皆殺しにし、リューネシア国家を滅ぼした原因と呼ばれた。

ドン:でも国民は?民にとって憧れの存在だったゴルドーがそんなことをしたなんて信じない人が沢山いたんだよ。

ドン:そうされると姫も困ったもんだよね。だから姫は、唯一の生き残りの王族は

 

ドン:リューネシア国家は、ゴルドーの行動を、あの夜の真実を

ドン:嘘屋に売っちゃったのさ。

ドン:真実を売って、嘘を手に入れた。

ドン:ゴルドーは名実ともに、『堕落騎士』と呼ばれた。

 

 

____

 

 

ドン:だけど、さ。君も知ってるでしょ?

ドン:どんなことにだって穴はある。『壁に耳ありタペストリーに目あり』って言うようにね?

ドン:その現場に居合わせて、その様子を目撃した人は全てを知ってるよ。ただの寓話であるはずの、『堕落騎士ゴルドー』の真実を。

ドン:そういえば…、盲目作家が描いたゴルドーはやけに凛々しかったよねぇ。あの小説のゴルドーは、『堕落』のだの字もなかった。さて、どうしてだろうね?

 

 

花より桜餅

さくらもちの台本置き場 未完結ものアリ〼

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