【あらすじ】
「終末を描きたいんだ」
天才画家ワルデンは終末をどう描く?
出演人数:2人(性別不問2)
時間:10分(推定)
配役
◆ワルデン:見たものしか描けない画家
◆メノウ:見たことないものしか彫れない彫刻家
性別不問キャラの一人称、語尾変更可⭕️
* * *
ワルデン:(ため息)
メノウ:風景画かい?よく描けてるじゃないか
ワルデン:…いきなり驚かすな、心臓に悪い。
メノウ:ごめんごめん。でも、夢中になって気づかないワルデンも悪いんじゃない?
ワルデン:過ちを正当化するな。
メノウ:それでも、今日はなんか調子悪いんじゃない?いつもなら僕が来たらすぐに分かるくせに
ワルデン:少し調子が悪かっただけだ。そもそも、お前だって製作途中なんじゃなかったのか?大会、近いだろう
メノウ:あーそれね……、ぶち壊しちゃった。
ワルデン:………は?
メノウ:だーかーらー、壊しちゃったの。もう粉々だよ。土台ごと潰しちゃったから修復ももう無理かなー
ワルデン:ふざけてるのか?大会まであと何日だと思って…
メノウ:うーん、ざっくり2週間ってとこ?壊しちゃったやつが1ヶ月くらいかかったから〜、ほぼ確実で間に合わないかも!あはは!!
ワルデン:笑ってる場合か!なんで壊したんだ…。俺から見ても悪くなかったと思うんだが。聖母マリアのような包容力と、アズラーイールのような慈悲深さがよく表れている良い天使像だったと…
メノウ:(遮る)だからダメなんだ。
ワルデン:…というと?
メノウ:『のような』じゃだめなんだ。それは誰かが見た天使像だ。僕の求めるものじゃない。
メノウ:誰かが見た。誰かが想像した。それだけで僕が彫る価値がなくなる。想像の範疇(はんちゅう)を超えた、誰も見たことない、想像したことないものを彫らなきゃ意味が無い!そう思うんだよ。
ワルデン:…面倒くさい
メノウ:ありがと。僕にとっちゃ褒め言葉だ。
ワルデン:それで、結局どうする気なんだ?
メノウ:うーん……それより、ワルデンの方はどんな感じなの?上手く行ってる?
ワルデン:話題転換下手すぎか
メノウ:いいじゃんか。どうなの?あ、もしかしてこれ?
ワルデン:……そう
メノウ:…その様子だと、あんまり納得いってない感じ?
ワルデン:……あぁ。
メノウ:なんで?良く描けてるじゃんか。天変地異、かな?ワルデンがあんまり描かないジャンルだね。それを描こうだなんて、、なにか心境の変化でもあった?
ワルデン:………。『君の技術はたしかに素晴らしい。しかし、所詮それは偽物だ。本物には敵わない。』
メノウ:去年のコンクール。君が初めて銀賞を取った時の審査員のコメントだ。
メノウ:あの時はびっくりしたなぁ。不動の1位だったワルデンがまさか負けるだなんて。しかも君を差し置いて優勝したのはまさかの新人画家ときた。巷(ちまた)では『天才ワルデンもついに羽根をもがれたか』なんてささやかれてたね。
ワルデン:群衆の意見はどうでもいい。俺が許せないのはあの画家の絵のセンスだ。
メノウ:そう?私は好きだったけどなぁ。彼の絵
ワルデン:どこがだ!?人は人の形をまともに留めておらず配色もバラバラ。バランスなんて知ったこっちゃないと言わんばかりにメインの絵がそこかしこに散りばめられていてまるで飢餓と誕生日パーティーと戦争がいっぺんに来たみたいだった!ゴテゴテしてて見れたものじゃない!なのに優勝?とうとう審査員の目がおかしくなったと思わざるを得なかったね!
メノウ:審査員はそれを『現代社会の混沌さが表されていてとても素晴らしい』って絶賛してたっけ。
ワルデン:ありえない……。アイツのどこが良かったんだよ
メノウ:『見たことないものを描いたから』だろうさ。
ワルデン:…どういう意味だ?
メノウ:実際に見たことあるかい?主役級の人間しか出ない演劇とか、地雷原の上でタップダンスしてる集団とかさ。誰かが妄想や空想をしないと完成しない代物さ。誰も見たことない。想像だってちっともしてなかったものを描くと審査員はたちまち夢中だ。新たな解釈、考察を考えれるからね。
ワルデン:その絵が抽象画(ちゅうしょうが)ならまだ理解が出来た。抽象画は俺には出来ない代物だ。だがあれは?間違いなく具象画(ぐしょうが)だ!あんなもの、どちらの画風にも泥を塗っていると思わないか!?
メノウ:…新たなジャンルの発掘は、既出(きしゅつ)のジャンルに泥を塗るようなものだろうさ。ワルデン。
ワルデン:何が言いたい
メノウ:新しいものは、必ず元からあった何かを踏みにじった上にあるものだ。スマホの普及によって固定電話が失われたようにね。問題はそれが受け入れられるか受け入れられないか、だ。
メノウ:その新人画家くんは、抽象画と具象画の2つを織り交ぜて新たなジャンルをつくりあげた。それはたしかにどちらともに泥を塗ったかもしれない。ただ結果的に審査員たちにはウケた。それが事実だよ。
ワルデン:なら、俺は受け入れられない側の人間だと?古臭い人間だと言いたいのかメノウ!
メノウ:落ち着けワルデン。誰もそんなこと言っちゃいない。
ワルデン:だが!そう言っているようなものだろう!
メノウ:………僕が初めて彫った彫刻を覚えてる?
ワルデン:いきなりなんだ
メノウ:答えて
ワルデン:……中国の四神。白虎(びゃっこ)、玄武(げんぶ)、朱雀(すざく)、青龍(せいりゅう)を全て合わせたキメラを作ってた。
メノウ:そう。よく覚えてるじゃないか
ワルデン:訳が分からなかったからだ。しかも、それにユニコーンまで入れようとしてただろう。あれはやりすぎだ。
メノウ:やりすぎくらいがいいのさ。でないと、僕の彫刻は『見たことあるもの』で終わってしまう。これは僕の、僕だけの芸術感だ。他の誰にも邪魔出来ない。
メノウ:君にもあるでしょ?貫き通したい何かが。そしてそれこそ、君があの画家を認められない理由そのものだ。
ワルデン:だからってどうしろと?あいつを許せと言いたいのか?
メノウ:許さなくていいさ。別に、許さないといけないわけじゃない。自分と線引きをすればいいだけだよ。
メノウ:ヴィーガンだって自分がそうであるだけで別に全員にそれを強制しないだろう?まぁ…、例外もいないことは無いけど…。
メノウ:……難儀だね。自分の貫く信念そのものすら否定される世界に僕達は身を置いてる。
ワルデン:だが不思議と『辞めよう』と思ったことは無い。俺も、お前も。
メノウ:特にワルデンは「なにくそ!」って躍起になるタイプだもんね。
メノウ:で?そんな新人画家くんで躍起になったワルデンくんは何を描こうとしてるんだい?
ワルデン:いちいちお前はあえて癇(しゃく)に障(さわ)ることを言う......
ワルデン:(ため息)...『終末』、終末を描きたいんだ。
メノウ:それは、、ワルデンにとっちゃ難しいテーマだね。
ワルデン:どうしてそう言い切れる
メノウ:そもそも自分でもわかっているんだろう?君は見たものしか書けない画家だ。戦争を描くために激戦区に飛び込んだり、ケーキの中から見た景色を描きたいと2mのケーキを作ったりする画家だ。けれど終末なんて、それこそ世界が終わりを迎えない限り君が書けることは無い。
ワルデン:お前なら?
メノウ:そうさな……僕なら、、うん。楽しそうなテーマだ。でも彫るにしては難しい。やっぱりここは天才画家のワルデン様に描いてもらわなくちゃね。
メノウ:それに、自分で決めたんでしょ?自分が最も得意とするリアリティをかなぐり捨てて、自分の芸術感を破って新たなものを作ろうとしてる。なら、僕がそこに入るのはお門違いだよ。
ワルデン:そうか......
メノウ:やっぱ難しい?
ワルデン:正直言ってお手上げ状態だ。少しくらい共通するものがある気がして地震で崩れた街並みを描いてみたはいいが...、これじゃない。そんな気がしてならない。
メノウ:......じゃあさ、作っちゃいなよ終末
ワルデン:.........
メノウ:そんなに変なものを見る目で見てこなくたっていいじゃんか
ワルデン:.........
メノウ:「お前は何言ってるんだ?」みたいな目でこっち見ない!
メノウ:想像できないなら作るんだよ!見たこと無かったら見れるようにすればいい!君が2メートルの巨大ケーキを作ったように!前例が無いなら君が前例になるんだ。
メノウ:あっ!でも、そしたら僕が作れそうな作品が1個消えちゃうな。それはとても、とても残念だ。
ワルデン:(軽く笑う)さっきまで俺に描いてもらわなくちゃとか言ってたお前はどこに行った?
ワルデン:作ればいい、ねぇ。簡単なこと言いやがって。
メノウ:おっ、その感じ...やる気出た?
ワルデン:少しだけだ。未だにアイデアが何も出てこない。
メノウ:終末...、たしか物事の終わりを表すんだっけ。
ワルデン:物事の終わり、な......。
ワルデン:なぁ。お前がこの世界からいなくなる瞬間ってどんなだと思う?
メノウ:ん?どんなって?
ワルデン:どう言ったらいいだろうな...。去り際というか、散り際というか...
メノウ:僕がこの世界から居なくなる瞬間なんてないさ。
メノウ:たとえ僕がこの世から消えても、僕の名と作品だけは残り続ける。史実にきっちり刻まれる。
メノウ:だから、僕にとって終末とは起こりえないものだ。この世界が続く限りはね。
ワルデン:.........
メノウ:どした?
ワルデン:は、はははっ!
メノウ:えぇ?急に笑ってどうしたの?何も変なこと言ってないでしょ?
メノウ:だって、ワルデンもそう思いながら描いてるんじゃんか。
ワルデン:あぁ。ああそうさ。俺もそう思って生きている。
ワルデン:終末か。そんな悲壮な現実、俺は正面から否定する。それが俺の持つリアリティそのものだ。
ワルデン:面白い。世界と勝負と行こうじゃないか。
0:ワルデン絵に集中する。
メノウ:誰も見た事ない『理想』を『現実』だと言い張る、か...。面白い。実に面白いねワルデン。
メノウ:君の名はきっと後世に語り継がれるだろう。これは『理想』なんかじゃない。紛うことなき『現実』さ。
メノウ:なら僕は、誰も想像しなかった君を彫ろう。過去の君をぶち破って、新たに生まれ落ちた君を。
メノウ:タイトルはそうだな......。(フッと笑う)うん、これで行こう。
メノウ:タイトルは、『終末の描き方』
Fin
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