アイのカタチ【朗読】

この作品は『未来童話』という企画で書かせていただいた作品になります。登場人物は複数人いますがすべて同じ人が演じていただいて一向にかまいません。


時間:10分(推定)

 

 

* * *

 

【アイノカタチ】

 

とある銀河の、とある宇宙のすみっこの星に、1人の子どもと、ひとつの大きな石がありました。石は子どもの背たけよりすこし大きく、まるくてすべすべしています。

そこには子どもと岩だけで、あとは誰もいません、お花もないし、動物たちもいません。

それでも子どもはさみしくありませんでした。となりにいつも石がいてくれたからです。

起きている時も、寝ている時も、子どもと石はずっと一緒でした。

 

「今日はなにを教えてくれるの?」

「そうさなぁ、何にしようかなぁ」

 

子どもは毎日ひとつ、石から色々なことを教えてもらいます。石はずっと前におそらから降ってきたので、子どもよりもずっとたくさんのことを知っていました。

 

「今日は『愛』について教えよう」

「アイ?それってどんなものなの?」

「僕もよく知らないけれど、とてもあたたかいものさ。」

「あたたかいもの?」

 

子どもは「あい、アイ、愛!」と教えてもらった言葉を繰り返します。けれど、それがどういうものなのかはよくわかりませんでした。

 

「愛がしりたい!愛ってなんだろう!」

 

子どもは愛が何なのか、気になって気になって仕方がありません。

するとある日、子どものいる星にひとつの宇宙船が着陸しました。

中から子どもと同じような人が出ていて言います。

 

「こんにちは!私たちは愛を広めにきました!」

「愛が何か知ってるの?」

 

子どもは知りたい!とはしゃぎます!そうして彼らが乗ってきた宇宙船に入ります。

宇宙船が飛び立ち、子どもはしばらく窓の外を興味深そうに眺めています。

ふと、とある星を見て言います。

 

「あれは何をしているの?」

 

子どもの視線の先には子どもを崖から突き落とすお母さんライオンがいました。

 

「あれはね、子どもが将来困らないように親が辛いことを経験させているんだ。お母さんの愛だよ。」

「あれが愛なの?」

「あぁ、愛だよ。」

 

子どもは「ふーん」ともういちど窓を見ます。子どものライオンは悲しそうな目をしていましたが、すぐに見えなくなりました。

 

「次はあれを見てごらん。」

 

そう言われて反対側の窓を覗きます。今度はパンダの子どもがいました。周りには笹がぐるっと子どもを取り囲むように置かれています。パンダの子どもは座ったまま手を伸ばしてもぐもぐと笹を食べています。

 

「あれは?」

「あれはね、危険な目にあって欲しくないから大事に大事に子どもを育てているんだ。」

「あれも愛なの?」

「そうだよ。」

「でも、さっきと違うよ?」

「さっきのも今のも愛なんだよ。」

「そうなんだ。愛ってむずかしいんだね。」

 

子どもはまた「ふーん」という顔をして窓から離れます。

 

「今度はあれだよ。見てごらん」

 

また言われて奥の窓をのぞき込みます。

今度は子どもと同じ歳くらいの女の子でした。女の子はしきりにお母さんに話しかけますが、お母さんは聞こえないのか女の子の方を振り返りません。

 

「あれも愛?」

「そうだよ。あれはね、子どもが自分で考えて行動ができるように、余計なことを話さないようにしているんだ。」

「でもあの子、ちょっと悲しそうだよ?愛はあたたかいものじゃないの?」

「大人になったら愛に気づくのさ。今は子どもだから気づかないだけなんだよ。」

 

子どもはちょっぴりヘンな顔をして、また窓から離れました。

 

「どうだった?愛について分かったかな?」

「あんまり分からなかった。たくさんの愛があって何が正解か分からなかったよ」

「全部正解なんだよ。愛はひとつじゃない。たくさんの愛の形があるんだ。愛は、誰かに与えるものなんだよ。誰かにする優しさの行動なんだ。」

「誰かに、与えるもの…」

 

子どもが考え込んでいたちょうどその時、宇宙船は子どもの星に戻ってきていました。

 

「見てきたものをここの星の人たちに広めてね」

「これからどうするの?」

「別の人たちに愛を広めに行くのさ。」

 

そう言って宇宙船はまたたくまに飛んでいってしまいました。

子どもは歩き出しました。何も無い星の上をてくてく、てくてく歩いて、やがて目の前に大きな何かが見えた時、子どもは走り出しました。

 

「ただいま!」

「おかえり。愛についてわかった?」

「わかった!愛はね、誰かに与えるものなんだよ!」

「へぇ。僕にはよく分からないや。」

「教えてあげる!」

 

そう言って子どもは石を抱きしめました。抱きしめながら、石は始めはもっとごつごつしていたことを思い出してちょっぴり胸があたたかくなりました。

 

「これが愛なの?」

 

子どもは答えます

 

「うん。これが、愛だよ」




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