逝きめぐりても逢はんとぞ思ふ【2:2:0】

出演人数:4~5人(男2女2 兼ね役可能1)

時間:60分(推定)

配役

◆柴夏彦/平野夏樹(しばなつひこ/ひらのなつき)

夏彦:田舎から上京した書生、黒羽家に奉公人として仕える。ヘタレ

夏樹:夏彦の来世の姿。真冬とは双子。シスコン

 

◆黒羽美冬/平野真冬(くろばみふゆ/ひらのまふゆ)

美冬:黒羽家の一人娘。裁縫が得意。外のことには疎く内気

真冬:美冬の来世の姿。夏樹とは双子。ブラコン

 

◆白金秋成/小野秋人(しろがねあきなり/おのあきと)

秋成:白金家の嫡男で美冬の婚約者。軍人

秋人:秋成の来世の姿。小春とは幼なじみ チャラくない

 

◆春乃/楠本小春(はるの/くすもとこはる)

春乃:黒羽家に仕える侍女。元気いっぱい

小春:春乃の来世の姿。秋人とは幼なじみ

 

◆父&同僚(兼ね役推奨)

 

 

 

* * *

 

夏彦:確かこの辺に…いや、一本向こうの道だったかな……

0:ぶつかる音

春乃:きゃっ!

 

夏彦:っ!すみません!お怪我は無いですか!?

 

春乃:いたたた…いえ、大丈夫ですよ。

 

夏彦:すみません。地図ばかり見てて前方不注意でした…

 

春乃:地図?なにかお探しですか?

 

夏彦:家を、お屋敷を探していて…黒羽(くろば)っていう家なんですけど…

 

春乃:そうだったんですか?なら奇遇ですね!こっちですよ。着いてきてください!

 

夏彦:ありがとうございます!

 

春乃:この辺りじゃ見かけないですよね?誰かのお使いか何かですか?

 

夏彦:いえ、近くの学校に通うために田舎から奉公に来たんです。

 

春乃:そうなんですね!遠いところからはるばるようこそ!

 

夏彦:ありがとうございます。地形が何も分からなくて困ってたんです。

 

春乃:少し難しいかもしれないですけど、すぐ慣れますよ。

春乃:着きました!ここです!

 

夏彦:わざわざ案内ありがとうございます。では僕はこれで…

 

春乃:ただいま戻りました!

 

夏彦:え、え!?

 

春乃:どうかしましたか?

 

夏彦:お屋敷の人だったんですか!?

 

春乃:あれ?言ってませんでしたっけ?ごめんなさい、ついうっかり。

 

夏彦:いえ、とても助かったので…。親切にありがとうございます。

 

春乃:いいんですよ!後輩に優しくするのは当たり前ですから!

 

夏彦:後輩?てことは貴方も奉公に来た人なんですか?

 

春乃:ちょっとだけ違います。私は幼い頃からこのお屋敷で働いてるんですよ!今ではお嬢様の専属侍女になるくらい成長したんですから!

 

夏彦:それは…とても凄いですね!

 

夏彦:あの、旦那様やお嬢様は僕みたいな田舎者を受け入れてくれるでしょうか…

 

春乃:大丈夫ですよ!旦那様もお嬢様も気にされる方ではありませんから!

 

美冬:あら、おかえり春乃。…そちらの方は?

 

春乃:美冬お嬢様!こちらは今日から奉公に来た書生(しょせい)さんです。柴さん、ご挨拶を。

 

夏彦:は、はいっ!柴夏彦(しばなつひこ)といいます!お世話になります!

 

美冬:まぁ、夏彦さんというのね、素敵なお名前。私(わたくし)は黒羽美冬と言います。どうぞよろしくね。

 

春乃:では柴さん、旦那様にもご挨拶をしに行きましょうか。

 

夏彦:はい……

 

春乃:柴さん?

 

夏彦:あっ、旦那様にですよね!はいっ!

 

美冬:よろしくね春乃。

 

春乃:失礼致します。

0:

夏彦:…とても、お綺麗な方でしたね。

 

春乃:当たり前です!美冬お嬢様は綺麗なだけじゃありません!所作や文字もとても美しいんですから!きっと良いお嫁さんになります!私は美冬お嬢様が結婚するまで死ねません…!

 

夏彦:春乃さんがいてお嬢様は幸せ者ですね。

 

春乃:そうですかね?だといいんですけど。

春乃:さて!行きますよ!ご挨拶しないといけないところは多いですからね!

 

* * *

 


夏彦:『9月4日。今日から黒羽家にお世話になる。大きい家で萎縮(いしゅく)してしまったけれど、みんな受け入れてくれて少し嬉しかった。到着後すぐにお嬢様にお会いした。美冬お嬢様は噂よりずっと美しくておもわず見とれてしま…』って、僕は一体何を書いて…!?お、落ち着け…、『侍女の春乃さんという方から仕事内容を教えて貰った。春乃さんは美冬お嬢様の侍女で、僕と同年代。長く仕えているらしいから美冬お嬢様の好みもよく知ってそう・・・』って!また僕は何を書いて!!?

夏彦:はぁ…。初恋で、それも一目惚れなんて言えるはずないし…。そもそも美冬お嬢様は黒羽家の一人娘で、かたや僕はしがない書生(しょせい)・・・、釣り合う訳がないよね

 

 

* * *

 

 

夏彦:春乃さんこっち終わりました。

 

春乃:ありがとうございます!じゃあ次は……

 

同僚:春乃さん!旦那様がお呼びですよ!

 

春乃:今行きますね!じゃあ柴さんはお庭のお掃除お願いします!

 

夏彦:分かりました。

0:掃除する音

夏彦:よし。こんなものかな。

夏彦:もう1ヶ月か…。未だに雑用しかしてない僕は一体…。春乃さんはもっと重要なことを任されているのに、はぁ〜

夏彦:それにあれから1回も美冬お嬢様に会ってない。もっと会えるんじゃないかって思ってたのに…。も、もしかして嫌われてる!?絶対変な顔してたからだうわぁ僕ってやつはほんとに………はぁ。

 

美冬:あの、私がどうかしましたか?

 

夏彦:えぇ!?みみ、美冬お嬢様!?

 

美冬:ふふふ!驚きすぎですよ。夏彦さんは面白い人ですね。

 

夏彦:え、僕の名前覚えて…

 

美冬:覚えているに決まってるじゃありませんか。大切な奉公人さんですもの。

 

夏彦:ありがとうございます・・・!

 

美冬:ところで、もしかしてお仕事になにかご不満がありますか?

 

夏彦:へ!?いえいえ!むしろこんなのでいいのかなって思いまして!雑用だけでは住まわせていただいているのに分不相応だと・・・

 

美冬:そうだったのですね。夏彦さんは、何かお得意なものはありますか?

 

夏彦:僕は平凡な文学生なので得意なことはあまり…。好きという範疇(はんちゅう)ですが、和歌については割と得意です。

 

美冬:どんな和歌が好きなんですか?

 

夏彦:そうですね…、今の季節ならやっぱり詞花集(しかしゅう)の『いにしえの 奈良の都の 八重桜(やえざくら) 今日九重(きょうここのえ)に にほひぬるかな』でしょうか。

 

美冬:どういった意味なのですか?

 

夏彦:『遠い昔、奈良の都で咲き誇っていた八重桜が今日この宮中で美しく輝いています』っていう意味ですね。雅(みやび)だった宮中の様子が分かる美しい和歌で、僕はとても好きなんです。

 

美冬:素敵な歌。今まで和歌を見ても意味がなにも分からなかったのですが、そういったような意味だったのですか…。夏彦さんは物知りですね。

 

夏彦:そんな!僕よりお嬢様の方が色んなことを知ってそうですけど…

 

冬:私は学はあまり。女は勉学をする意味はないとお父様がおっしゃっていますから。でもお裁縫は得意です!って、そこまで威張れたものではありませんね・・・

 

夏彦:そんなことありません!僕は裁縫なんてこれっぽっちもできなくて、やろうとすれば手が傷だらけになります!でもお嬢様の手は傷一つなくて綺麗です!誇っていいことだと僕は思います!

 

美冬:っ!あ、あの、手が・・・!

 

夏彦:へ?うわぁ!!すみませんすみません!僕はお嬢様になんてことを…

 

美冬:いえ気にしないでください。少し驚いただけなので 

 

夏彦:はい…


美冬:・・・・・・

夏彦:・・・・・・

 

美冬:あ、あのっ!

 

夏彦:は、はいっ!

 

美冬:もし良ければその、もっと聞かせてくれませんか?和歌だけじゃなくて私の知らない、夏彦さんのような人達のお話を!

 

夏彦:へ?

 

美冬:どんなことをして過ごしているのかとか、学生の間ではどんな食べ物が人気なのか、とか。私はその、外に出ることがあまりないですから…どんなものが流行っているのだろうと。春乃は女の子ですしずっとここに居るのであまりそういう話は聞かなくて…

 

夏彦:任せてください!

 

美冬:本当ですか?

 

夏彦:もちろんです!僕なんかの話で良ければいくらでも話します!面白い話はできないかもしれませんが…でも!頑張ります!

 

美冬:ありがとうございます!では早速なのですが…

 

春乃:(遮る)美冬お嬢様ー?どちらにいらっしゃいますか?

 

美冬:あ……。こっちよ春乃。

 

春乃:お嬢様!あら、柴さんもご一緒だったんですね。お嬢様とは何を?

 

美冬:は、春乃!何か用があったのではないの?

 

春乃:そうでした!旦那様が美冬お嬢様をお呼びです。

 

美冬:お父様が?

 

春乃:はい。すぐに来られるようにと。

 

美冬:そう…分かったわ。すぐに行きます。夏彦さん、私はこれで。

 

夏彦:はい

 

 

* * *

 

 

美冬:お父様、お呼びでしょうか

 

父:ああ、お前と白金家の息子との婚約が決まってな

 

美冬:えっ!?お父様それは…

 

父:近々お会いにやってくるそうだ。何時でも出迎えられるよう準備しておきなさい 

 

美冬:はい。分かりました。

 

父:話は以上だ

 

美冬:……失礼致します

0:

0:

春乃:あ、美冬お嬢様おかえりなさい!どうかしましたか?顔色が優れないようですが…

 

美冬:春乃、貴方好きな人はいる?

 

春乃:わっ私ですか!?私はそういった人はまだ…

 

美冬:そう……。やっぱり自分が好きな人と結婚したい?

 

春乃:もちろんです!そうだ聞いてください!今侍女たちの間で身分差の恋物語が流行ってるんです!最後は2人で心中しちゃうんですけど…でも!両想いでいられるのは素敵なことですよね!

 

美冬:そう、やっぱりそうよね…

 

春乃:美冬お嬢様?

 

美冬:実はね、お父様から縁談のお話があったの。

 

春乃:まぁ!お相手はどなたですか!?

 

美冬:白金家のご長男だそうよ。

 

春乃:白金家って・・・!ご当主様が陸軍大佐を務めてらっしゃる超有名なお家じゃないですか!!しかもその御子息も軍人として活躍していらっしゃるとか!良かったですね美冬お嬢様!

 

美冬:『良かった』、、ね。そう、よね。やっぱりそう思うわよね…

 

春乃:お嬢様…?

 

美冬:華族の家と結婚して、跡継ぎである子を設けることが私の役目だもの。私はこの家の娘としての義務を果たさなくちゃ。でも、そんな生活はとても窮屈(きゅうくつ)ね…

 

春乃:・・・・・・

 

美冬:ううん!なんでもないわ!そうだ春乃、買ってきて欲しい本があるのだけれど……

 

 

* * *

 

 

夏彦:『10月25日。今日は1ヶ月ぶりにお嬢様とお話した。とりあえず嫌われてはないみたいで安心した。僕のつまらない話もちゃんと聞いてくれてもっと聞きたいって言ってくれた。今度はお嬢様の名前にも入ってる冬を題材にした和歌の話をしよう。詳しくはわからないけれど、色々悩みがあるみたい。励まそうとしたら思わず美冬お嬢様の手を握ってしまっ、、』た…、はぁ〜

夏彦:なんであんなことしちゃったんだろう。美冬お嬢様の手、小さかったな…って!ぼぼぼ僕は何を!?そういえば今日の日記、美冬お嬢様のことしか書いてない!はぁ〜、しっかりしろよ僕。

 

 

* * *

 

 

夏彦:戻りました。…っくしゅ!寒くなってきたかな…

 

美冬:あっ、夏彦さん。

 

夏彦:み美冬お嬢様ぁ!?すみませんお見苦しい所を!

 

美冬:いえこちらこそ!また驚かせちゃいました…

 

夏彦:いえいえいえ!!僕が勝手に驚いてるだけなので!

 

美冬:そう、ですか…ならよかったです。

 

美冬:学校の帰りですよね。お疲れ様です。 

 

夏彦:これが本分ですしね。田舎から来てる分頑張らないと…。ところでお嬢様はなぜこちらに?

 

美冬:夏彦さんのご実家からのお手紙が来ていたのでそれを届けに。あと……

 

夏彦:?なんですか?

 

美冬:えっと、、これ………

 

夏彦:それ…!和歌の本ですか?

 

美冬:や、やっぱり変ですよね!女が勉学など・・・すみませんすぐ処分しますね!

 

夏彦:待ってください!

 

夏彦:僕、嬉しかったんです・・・!こんな僕の話を聞いてくれて、興味を持ってくれたのが。 

 

美冬:夏彦さん…

 

夏彦:変なことじゃありません!僕は、僕はとても嬉しかった!だから、捨てないで持っていてください。

 

美冬:…はい。分かりました

 

夏彦:すみません、怒鳴ったりして。

 

美冬:いいえ。あの、もし良ければ、私に教えてくれませんか?本は買ったんですけど分からなくて…

 

夏彦:はい!!実は僕もお嬢様に似合う歌をみつけたんです!

0:

0: 複数人の声

夏彦:なんだか騒がしいですね。今日何かありましたっけ?

 

美冬:お父様への客人かしら?

 

夏彦:僕ちょっと見てきますね。

 

 

* * *

 

 

春乃:申し訳ございません。もう少しだけお待ちいただけますか?

 

秋成:もちろん。急に押しかけてしまってすまないな

 

夏彦:春乃さん、どうかされましたか?…その人は?

 

春乃:柴さん!その人なんて言っちゃダメです!こちらの方は白金(しろがね)家の御長男、白金秋成(しろがねあきなり)様ですよ!

 

夏彦:白金って…

 

秋成:君は?

 

夏彦:柴夏彦です。この家で奉公をさせていただいております。

 

秋成:へぇ…。学校はどこへ?何を学びに?

 

夏彦:すぐそこの学校で、文学を

 

秋成:そうか。俺は白金秋成。陸軍で大尉(たいい)の位を頂いている。

 

夏彦:そんなすごい人が何故ここへ・・・?

 

春乃:そうです!!柴さん、美冬お嬢様を知りませんか?

 

夏彦:美冬お嬢様ならさっきまで庭先に…

 

春乃:分かりました! 

 

秋成:『美冬お嬢様』か…。君は美冬さんと随分仲がいいようだね。

 

夏彦:それってどういう…

 

美冬:春乃どうしたのそんなに慌てて・・・あら夏彦さんも・・・っ!白金、様・・・

 

秋成:やぁ美冬さん、急に押しかけてしまってすみません。なにぶん父が急かすものですから。

 

夏彦:白金さんは、美冬お嬢様とどういうご関係なんですか?

 

秋成:聞いていないんですか?俺と美冬さんは婚約者同士です。

 

夏彦:え…?

 

秋成:美冬さん。よろしければ何処か落ち着いた場所でお話しませんか?婚約の話も進めなければいけませんし。

 

美冬:そう、ですね……

 

秋成:では行きましょう。

 

春乃:はぁ〜!やっぱり白金様は素敵なお方ですね!お嬢様は不安そうでしたけど、きっと大丈夫ですね!あれ、柴さん?

 

夏彦:お嬢様に、婚約者が…?

 

 

* * *

 

 

美冬:あの、、白金様

 

秋成:秋成で結構です。これからは夫婦になるんですから。ね?美冬さん。

 

美冬:はい…あの、私が来るまでになにかご不便なことはありませんでしたか? 

 

秋成:何もありませんよ。春乃さんという方が対応してくださいました。礼儀正しくて教養もある。少しお転婆なところはあるが…彼女はとても良い侍女ですね。

 

美冬:ありがとうございます!春乃は小さい時からここにいて、家族みたいな存在なんです。

 

秋成:それは素晴らしい。ですがもう1人、たしか柴くんと言いましたっけ?彼はあまり良くない。

 

美冬:え?

 

秋成:特段頭が良いこともない。身体も脆弱(ぜいじゃく)そうだ。かといって特筆するところもない。彼に黒羽家は分不相応だ。

 

美冬:で、ですが 

 

秋成:美冬さん。我々は華族として、ふさわしい振る舞いをしなければなりません。それはもちろん奉公人の采配も。

 

美冬:……

 

秋成:それに彼は貴女の事を『美冬お嬢様』と呼んでいた。主人の、それも異性に対して随分親しげですね。そして貴方も彼のことを『夏彦さん』と呼んでいる。随分と仲が良さそうだ。

秋成:ひとつ忠告をしておきましょう。身分が下のものと対等に話すな、品性を疑われるぞ。

秋成:賢い貴方ならばお分かりですよね?

 

美冬:・・・

 

秋成:分かっていただけで何よりです。おや、これは美冬さんのものですか?

 

美冬:それは…

 

秋成:こんなもの美冬さんには合わないでしょう。あの少年が押し付けてきましたか?

 

美冬:いえあの!

 

秋成:(遮る)全く迷惑な人だ。これは私が責任をもって処分しておきますので安心してください。

秋成:本日はこれで失礼します。婚約の話に関してはまたおいおい

 

 

* * *

 

 

春乃:…ということで、白金家と黒羽家は昔から関係が深いんですよ。

 

夏彦:つまり、美冬お嬢様は黒羽家と白金家をより強く繋ぐために政略結婚をするってことですか!?

 

春乃:はい。でも政略結婚なんて言っても白金様はとてもお優しくて朗(ほが)らかだと聞いてます!きっとお嬢様を大事にしてくれるはずです!

 

秋成:嬉しいことを言ってくれるね

 

春乃:白金様!

 

秋成:美冬さんが君のことをとても褒めていたよ。確か春乃さんと言ったね。これからも美冬さんをよろしく

 

春乃:お褒めいただき光栄です!美冬お嬢様はこの命に変えてもお守り致します!

 

秋成:それは頼もしい。では、俺はこれで失礼するよ。

秋成:(夏彦にしか聞こえないように)そうだ、柴くんと言ったね。君は大した教養もなければ最低限の礼儀もない。美冬さんにとって害でしかないな。早急に立ち去ることをお勧めする。

こんなドブネズミがうろついているとは…黒羽家も堕ちたものだな。

 

夏彦:え……

 

秋成:それでは、失礼。

0:

春乃:はぁ〜!とってもお優しい人でしたね柴さん!・・・柴さん?

 

夏彦:・・・・・・

 

 

* * *

 

 

夏彦:『11月2日。お嬢様の婚約者の方が来られた。白金家の長男、僕よりずっと美冬お嬢様にふさわしい人だ。そして、僕がこの家にふさわしくないことも』

夏彦:白金さんの言う通りだ。僕は頭がいい訳じゃないし、運動が得意なわけじゃない。そもそも此処へだって…。手紙が来たってことは、もうバレるのも時間の問題かな…。なんにせよ、奉公に来たこと自体間違いだったのかも。

…何泣いてんだよ。泣く資格すら、僕には無いのに

0:ホトトギスの鳴き声

夏彦:ホトトギス・・・?ははっ…『五月山(さつきやま) こずえをたかみ ホトトギス なくね空なる 恋もするかな』か。全く、タイミング良すぎだよ…。

 

 

* * *

 

 

春乃:あ、柴さんおかえりなさい!

 

夏彦:遅くなってすみません。少し事情がありまして。そうだ。これ帰りに買ってきたんですけど良かったらどうぞ

 

春乃:わあ!あんぱんですか!ありがとうございます!

 

夏彦:ここのものは美味しいらしいので是非

 

春乃:はい!お嬢様も食べるかな・・・

 

夏彦:お、お嬢様にですか・・・?

 

春乃:はい。どうかしましたか?

 

夏彦:いやその・・・

 

美冬:春乃ー?

 

春乃:美冬お嬢様?はい!なんでしょう?

 

夏彦:あっあの!僕掃除に行ってきます!

 

春乃:えっ、柴さん!?

 

美冬:あら?話し声が聞こえた気がしたけれど春乃一人?

 

春乃:さっきまで柴さんが居ましたけど…急いだ様子で掃除に行ってしまって

 

美冬:夏彦さんが?そう・・・・・・

 

春乃:なにかあったんですか?

 

美冬:なんでもないの。ただ、最近避けられているというか、なんというか・・・

 

春乃:そうなんですか?大丈夫ですよ!きっとすぐに元に戻りますって!

 

美冬:・・・ありがとう春乃。

 

 

* * *

 

 

夏彦:・・・・・・

夏彦:美冬お嬢様のことが好きだ。でもそれは、奉公人の書生風情が持っちゃいけない感情で、美冬お嬢様には婚約者がいる・・・。そうだよ、初めから叶わない願いだったんだ。僕には分不相応な、傲慢な願い。それに、美冬お嬢様だってこんな冴えなくて、何も無い男に好かれるなんて迷惑でしかないだろうし、白金様の言う通り、僕は黒羽家にとって害でしかない。

旦那様に暇(いとま)をお願いしよう。それが一番、みんなが幸せになる方法だから・・・

夏彦:・・・痛いなぁ。失恋って、こんなに痛かったんだ。

0:

美冬:夏彦さん!?大丈夫ですか!?

 

夏彦:お嬢様・・・

 

美冬:体調でも悪いのですか?目元が赤いですし、とりあえず部屋に・・・

 

夏彦:大丈夫です!

 

美冬:夏彦さん・・・?

 

夏彦:僕は大丈夫なので!お嬢様は気にしないでください。ほら!あまり僕と話していると白金様が勘違いをしてしまいます!せっかくいい人と結ばれるのですから僕のことなど気にかけないでください

 

美冬:ですが・・・

 

夏彦:失礼します!

 

美冬:待って!!

0:

0:

美冬:もう、元には戻れないのですか?私は、一体どうしたら・・・

 

 

* * *

 

 

秋成:こんにちは

 

春乃:白金様!

 

秋成:秋成で結構だ。堅苦しいのは苦手なんでな。

 

春乃:承知致しました秋成様。それで本日は?もしかしてお嬢様に会いにこられたのですか!!

 

秋成:ああ。俺としたことが気持ちが先走りつい早く着いてしまったようだ。邪魔でないのならばどこかで待たせてくれるか?

 

春乃:もちろんです!

 

秋成:ありがとう春乃さん。

 

春乃:私の名前、覚えていてくださったのですか?

 

秋成:そんなのいずれ俺も世話になるのだから、皆の名前を覚えることくらい当然だろう?

 

春乃:ありがとうございます・・・!

 

秋成:案内を頼む。

 

春乃:はいっ!どうぞこちらへ!

 

 

* * *

 

 

夏彦:貴重なお時間ありがとうございました。失礼します

 

春乃:柴さん?旦那様の部屋からどうして?

 

夏彦:春乃さん?に、白金様・・・こんにちは

 

秋成:やぁ柴くん。美冬さんに会いに来たのだが少し早く来てしまってな。君はどうしたんだ?当主の部屋から出てきたようだったが

 

夏彦:・・・実は、暇(いとま)を出させていただくことになりました。

 

春乃:えぇ!?

秋成:ほう…

 

夏彦:今までありがとうございました。あと2日ほどですがよろしくお願いします

 

秋成:次の奉公先は決まっているのか?良ければ俺が君に合う奉公先へ紹介状でも出そう。そうさな、稲作をしている知り合いはどうだ?きみにも好都合だろう。

 

夏彦:何故それを…。いえ、ありがたい申し出ですが、遠慮しておきます。もうこの辺りにも居られないですから

 

春乃:え?それってどういう・・・

 

夏彦:(遮る)失礼します

 

春乃:そっか。柴さん居なくなっちゃうんですね・・・

 

秋成:寂しい?

 

春乃:初めてできた後輩だったので、少し名残惜しいです

 

秋成:そうか。大丈夫だ、春乃さんが気にする事はない

 

春乃:ありがとうございます

0:

美冬:白金様

 

秋成:やぁ美冬さん。早く来てしまって申し訳ありません。気持ちが急いてしまったようで。

 

美冬:お気になさらず。春乃、部屋にご案内して

 

春乃:はい!

 

秋成:俺は大丈夫ですよ。春乃さんは美冬さんに彼のことを。この様子だとまだ知らないようなので

 

春乃:しかしそれでは秋成様が・・・

 

秋成:この前と同じところでしょう?場所がわかるから大丈夫です。君は美冬さんのところに

 

春乃:承知致しました

 

秋成:それでは

0:

美冬:ねぇ春乃どういうこと?私がまだ知らないって・・・

 

春乃:美冬お嬢様、、実は柴さんが暇を取るそうなんです…

 

美冬:なんですって!?

 

春乃:え!?お嬢様!?どこ行くんですか!?

0:

0:

美冬:白金様!一体どういうことですか!

 

秋成:秋成でよろしいと言ったはずですが?

 

美冬:誤魔化さないでください白金様!

 

秋成:やれやれ強情(ごうじょう)ですね。それで?一体どういうこととは?

 

美冬:夏彦さんの件です。突然辞めるだなんて、あまりにも不自然です

 

秋成:俺が彼になにか言ったとでも?

 

美冬:それは・・・

 

秋成:仮にそうだとしても、最終的に彼が決めたことでしょう?美冬さんが口を出すべきではありません

 

美冬:だとしても・・・!

秋成:貴方は随分と柴くんに執心ですね。奉公人の書生(しょせい)が一人変わるだけでしょう?どちらにせよ、時間が過ぎればいずれ居なくなる者をどうしてそう気にかけるんです。あの少年にそこまでの価値があるとは思えない

秋成:彼のことを少し調べさせてもらいました。地方の農村出身だそうですよ。農法を学ぶために来たかと思えば文学と…、ずいぶんといい身分だと思いませんか?彼が文学を学ぶにふさわしいとは思えません。

 

美冬:夏彦さんには価値があります!そんなこと言わないでください!

 

秋成:あなたは…、夏彦さん夏彦さんと!いつまで平民の名を連(つら)ねれば気が済む!夢を見るのはもうやめろ!

秋成:いいか!我々は華族だ!その血に生まれた役割を、我々は果たさなければならないんです!

 

美冬:・・・・・・

 

秋成:失礼、言いすぎました。今日は失礼します。

 

 

* * *

 

 

夏彦:『12月6日。今日ここを出ていく。家族にとうとうバレてしまった。学校にも、黒羽家にも居られない僕は一体どこに行けばいいだろうか。何も分からない。ただ、僕はここにいちゃいけない。美冬お嬢様から離れなければ。僕が完全に傷ついて壊れてしまう前に。』

夏彦:よし、荷物もまとめたしこれでもう大丈夫…

 

美冬:あの、夏彦さん。美冬です。少しよろしいでしょうか・・・

 

夏彦:お嬢様?はい。どうぞ

 

美冬:お見送りをしようと思って。

 

夏彦:それはありがとうございます。あの、今までお世話になりました。お嬢様のお幸せを陰ながら願っていま・・・

 

美冬:(遮る)どうして急に出ていくのですか?

 

夏彦:それは・・・

 

美冬:教えてください!何も言わずにさよならは嫌です。それともこの家に、私に、何か問題がありましたか・・・?

 

夏彦:っそんなの!あるわけが無いでしょう!?問題があるのは、むしろ僕の方です・・・

 

美冬:え・・・?

 

夏彦:僕、元々は農業を学ぶためにここへ来ました。でも、文学への興味を失いきれず学校を変えました。この間、それが父親にバレたんです。

夏彦:学校は退学になりました。当たり前ですよね。親から貰ったなけなしのお金をこんなくだらないことに使ったんですから。家からも勘当されました。だから僕は、ここで奉公する資格も、権利も失ったんです。だからここを出ていきます

 

美冬:出ていきますって・・・!出ていって一体どうするんですか!?

 

夏彦:分かりません

 

美冬:なら!この家で奉公を続けながら別の場所で学んでもいいじゃないですか!私がお父様にお願いしますから、だから・・・!

 

夏彦:(遮る)駄目なんです!!!ここに居れば、耐えることはできないから・・・

 

美冬:それってどういう・・・

 

夏彦:好きなんです!お嬢様のことが!

 

美冬:えっ・・・!?

 

夏彦:初めて会った時から好きでした。でも言えなかった。貴方を困らせるだけだから!

夏彦:でも貴方には白金様が居ます。僕なんかよりずっとふさわしい人が居ます。ここに居続けたら、きっと僕は耐えられないから・・・だからさようなら、美冬お嬢様

0:

夏彦:どうか、お幸せに

0:

0:

美冬:嫌…いやよ…!夏彦さん…

 

春乃:お嬢様?

 

美冬:春乃…。ごめんなさい少し出かけてくるわね。

 

春乃:お嬢様

 

美冬:は、春乃?離して頂戴

 

春乃:嫌、、です。なんだかこの手を離してしまったら、お嬢様ともう二度と会えなくなるような気がして・・・

 

美冬:春乃・・・

 

春乃:わたしっ!これからもお嬢様の傍に居たいです。お嬢様と、秋成様を支える侍女で居たいです!

 

美冬:・・・ごめんなさい春乃!

 

春乃:お嬢様!!!

 

 

* * *

 

 

0:滝の音

夏彦:これからどうしようかな・・・やる事もないし、いっその事好きな場所で死ぬっていうのも・・・うん、それがいいかもしれないな

0:

美冬:夏彦さん!!!

 

夏彦:美冬お嬢様・・・!?

 

美冬:私も連れていってください

 

夏彦:何馬鹿なこと言ってるんですか!お嬢様は黒羽家の大切な・・・

 

美冬:(遮る)ずっと!!

美冬:ずっと窮屈(きゅうくつ)でした。あの家で、私が落ち着く場所なんてどこにもなかった。縛られて抑えられて何も出来なかった私に、外のことを教えてくれたのは夏彦さん、貴方だった。

美冬:夏彦さんが好き。笑っている顔も、泣きそうな顔も、好きなことを語っている時の表情も、全部が好きだった。だから貴方が居なくなるって知った時、心が張り裂けそうなくらい痛かった!

もう戻るなんて嫌。貴方がどこかに行こうと言うのなら、私もついて行きます。貴方が死のうというのなら、私も一緒に死にます。お願い!貴方とずっと共に居させて!

 

0:

夏彦:っ!!!!貴方は…!悪い人だ…。そんなことを言われたら、僕は貴方を手放せなくなります。それでもいいんですか?

 

美冬:ええもちろん。ねぇ夏彦さん、今世で心中した男女は来世で一緒になれるそうです。春乃が読んでいた本を少しだけ読んだのですが・・・もし本当なら、とても素敵でしょう?

 

夏彦:確かめてみますか?

 

美冬:貴方となら喜んで

0:

夏彦:もう離しません。たとえ生まれ変わっても、僕はずっと貴方のそばに居ます

 

美冬:えぇ。ずっと居てください。しわが増えても、貴方と2人で!

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

小春:でさー…ねぇ、聞いてる秋人?

 

秋人:聞いてる聞いてる。てか、お前の友達の惚気話とか俺知らねえし。むしろ聞く必要なくね?

 

小春:いいじゃん!私だって憧れてるの!友達に惚気話して、いいなぁ〜!って言われたいじゃん!

 

秋人:女子って分かんねぇ。てか、そんなにしたいなら別のやつ好きになれよ。俺なんかじゃなくてさ

 

小春:・・・それは駄目。自分の気持ちにウソついてまで彼氏作りたい訳じゃない

 

秋人:ったく、小春も変わりモンだよな。初めて会った時からずっと俺に告白し続けて、その度に俺に振られて・・・。振ってる俺が言うのもなんだけどさ、なんで俺なわけ?

 

小春:私にもよく分かんない。でも秋人と初めて会った時から、あぁ〜好きだな〜!って気持ちでいっぱいになるの。声に出さないと溢れちゃうくらい

 

秋人:・・・悪いけど、俺がお前の気持ちに応える日は多分来ないよ

 

小春:知ってる。ずっと好きな人がいるんでしょ?幼なじみなんだから、秋人のことなら大体わかる

 

秋人:・・・ごめん

 

小春:謝ることじゃないよ。秋人には幸せになって欲しいし。…でもさ、好きって言い続けることは止めないで欲しいな。私の気持ちが偽物なんかじゃないって証明させて欲しい

 

秋人:小春がそれでいいなら

 

小春:ありがとう。そうだ!恋人といえばね!

 

秋人:今度はなんだ?

 

小春:秋人知ってる?『男女の双子は、前世で心中した恋人同士だ』っていう噂!

 

秋人:ほんとに噂好きだよなお前。で?それがどうかしたのか?

 

小春:ロマンあると思わない?心中するほど想いあった2人が来世でも一緒になれるなんてさ!

 

秋人:・・・・・・まあな

 

小春:何その反応。あ、もしかして秋人信じてないでしょ

 

秋人:んな事ねぇよ・・・

 

小春:ん?何か言った?

 

秋人:なんにも。そういえばその噂で言うと、あいつらなんかそうだよな

 

小春:そうだよ!男女の双子!もしかしたらそうかもしれない!よし!そうと決まれば早速聞いてみなきゃ!

 

秋人:聞いたところで前世の記憶なんてないだろ

 

小春:あー、それもそっか

 

夏樹:何の話?

 

秋人:夏樹

 

小春:前世の話してた!真冬は?

 

夏樹:飲み物買ってから来るって。で、前世の話だっけ?

 

秋人:聞かない方がいいぞ。小春の妄想劇場が始まっちまう

 

小春:なにそれ酷くない!?

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真冬:お待たせお兄ちゃん!

 

小春:お疲れ〜真冬!

 

真冬:お疲れ様小春。小野くんもお疲れ様。

 

秋人:あぁお疲れ。じゃあみんな揃ったし始めるか

 

小春:文学部秋の展示決め!

 

夏樹:確か短編小説を書くか和歌集を作るかにしようってところで終わってたよね?

 

真冬:どっちにするか決めた?

 

小春:はいはい!私短編小説がいい!秋人は?

 

秋人:悪いが俺は和歌集だ

 

夏樹:僕も和歌集がいいかな

 

小春:嘘じゃん!真冬〜!真冬はどっち!?

 

真冬:わ、私もお兄ちゃんと一緒で和歌集、かな・・・

 

小春:完敗じゃん!なんでなんで?和歌作るの大変だよ?

 

秋人:テーマとか決めればいいだろ

 

真冬:元々ある和歌を参考にしてみてもいいかも

 

夏樹:部内で歌合(うたあわせ)してみるのは?その時に出来たものを和歌集として載せる。それなら少ないテーマでもたくさん作れるんじゃない?

 

小春:なるほどね!夏樹すごい!

 

真冬:お兄ちゃんだもの、当たり前よ

 

夏樹:真冬はなんで僕より自慢げなの

 

真冬:お兄ちゃんは自分を過小評価しすぎるもの。和歌ならこの中で一番詳しいんだから

 

夏樹:そういえば真冬も和歌に詳しくなってきたよね

 

真冬:お兄ちゃんの妹だもの。勉強するのは当たり前!

 

夏樹:はは、偉い偉い

 

小春:本当に2人仲良いよね。男女の兄妹って仲悪い人が多いのに

 

秋人:てか2人ともブラコンシスコンなんだよ。くっつくな暑苦しい

 

真冬:離れたくないから嫌

 

秋人:ったく・・・。夏樹もなんか言ってやれ

 

夏樹:あー、なんかもういいかなって・・・

 

秋人:諦めんなよ!

 

真冬:とにかく!今年の展示は和歌集ってことで決まりでいい?

 

秋人:ああ

 

小春:和歌かぁ〜。私百人一首くらいしか知らない。恋の歌とかロマンチックで好き!『忍ぶれど』とか!

 

夏樹:『忍ぶれど』かぁ。そういえば真冬は『瀬をはやみ』が好きだっけ

 

真冬:うん。たとえ別れてもまた会えるってところが私は好き

 

秋人:言っとくが俺らが作るんだからな。パクリ禁止だぞ。特に小春

 

小春:失礼な!

 

夏樹:まあまあ2人とも。とりあえず今日はこれで終わりでいい?

 

秋人:まぁ詳しいことは次決めればいいだろ。お前ら、それぞれでテーマ考えてくるってことで。今日は解散

 

小春:了解〜!秋人カフェ寄って帰ろ〜

 

秋人:先行っとけ。荷物まとめてから行く

 

夏樹:真冬、本屋寄って帰る?

 

真冬:うん!

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秋人:少し時間いいか平野

 

真冬:いいよ。何?

 

秋人:お前さ、好きな奴いるのか?

 

真冬:どうしたの急に

 

秋人:『瀬をはやみ』別れてもまた会えるなんて詠んだ和歌が好きだなんて、そうなのかなって思うだろ?

 

真冬:なにそれ変なの。でもまぁ、いるよ。好きな人。ずっと、ずっと好きな人。産まれる前から、好きな人

 

秋人:・・・そうか

 

真冬:それだけ?なら私はこれで・・・

 

秋人:(遮る)これは昔の話だが、女と心中した男が持っていた日記の1ページだけがやけにくたびれていた。何度もページをめくった跡のある場所には、ひとつの和歌が書かれていたそうだ

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秋人:『下の帯(おび)の 道はかたがた 別(わか)るとも ゆきめぐりても 逢はむ(わん)とぞ思ふ』

秋人:大事な奴には会えたか?・・・美冬さん

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真冬:えぇ。大好きな人に!

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秋人:…ははっ、敵わない、か。今世でも貴方は、俺を選んではくれないのですね


 

ー了ー


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