心臓がちょっと早く動くだけ【1:1:1】

【あらすじ】

この世界には「奇病」と呼ばれる病を患う者たちがいる。彼らは何を思い、どう生きていくのか

 

出演人数:3人(男1女1性別不問1)

時間:30分(推定)

配役

◆慧🚹: 相澤 慧(あいざわ けい) 奇病『アメミット病』の患者 高校生

◆萌🚺:真白萌(ましろ もえ) 奇病『変異型ダーウィン症候群』の患者 中学生

◆先生(性別不問):慧と萌の主治医

 おばさん:先生と兼役してください。性別変更可能


※性別不問のキャラは一人称・語尾変更可⭕️

 

 

0:病院

先生:血圧85の110、心拍数が113。うん、正常だね。お疲れ様。

 

慧:ありがとうございます

慧:(M) アメミット病。現代医療では治療法が確立されていない難病の中でも、『奇病』というカテゴリーに含まれる病気だ。花を吐くように、目から星が流れるように、背中に翼が生えるように、僕には心臓が2つ存在する。胸元と、大腿骨の下あたり。ありえない位置にあるものだから誰かの心臓を奪って食べたのだと、神話に出てくるらしいよく分からない生き物の病名が付けられたそうだ。

 

先生:いつも言ってるけど、アメミット病は死亡率が低いとは言え、心臓に負担がかかるのは間違いないんだから気をつけてね。

 

慧:分かってますって。自分の身体なんだし

 

先生:いや〜?私の方が知ってると思うけどねぇ?主治医だし

 

慧:そりゃそうでしょ。もう何年診てもらってると思ってるんですか

 

先生:なんだかんだ年越しも一緒に過ごしたことあるしね?あの時の慧くんは私にべったりくっついてきて可愛かったなぁ〜?

 

慧:ちょっ…!昔のこと引っ張り出してからかうのやめてくれます!?

 

先生:え〜?どうしよっかな〜

 

慧:その顔…また何か企んでますよね。そういう時、先生は絶対僕をからかうんですよ。

 

先生:おっ、ご明察〜。実はさ、慧くんにちょっとお願いしたいことあって

 

慧:とりあえず話は聞きますけど、なんですか?

 

先生:とある女の子と文通をして欲しいんだ。

 

慧:文通?しかも女の子と?ちょっと、もう少し詳しく教えてください。なんで僕なのかがイマイチよく分からないというか...

 

先生:彼女も奇病なんだ。君とは病名が違うけどね

 

慧:......!

 

先生:そして厄介なのが、この病気はすこぶる生存率が低いこと。

 

慧:そんなに、重いんですか......

 

先生:いや?病状自体は慧くんとさして変わらないよ。ただ、患者の自殺率が異様に高いんだ。

 

慧:自殺......?

 

先生:私が今まで見てきた中だと天寿を全うした人は一人も居ない。もちろん0人じゃないことは確かなんだけどね。それでも私が受け持った患者には一人もいなかった。

   そしてつい最近、彼女がその病を患った。私は同じ道を辿るのを止めたい。

 

慧:でも、なんで文通なんですか?ほら、実際に会って話したりとか...そっちの方が簡単じゃないですか

 

先生:彼女は、というよりこの病気の患者は、人と会いたくないってことが多いんだ。彼女も例外じゃない。だからまずは、『顔の見えない友達』を作るんだ。それに、

 

慧:それに?

 

先生:まだ中1になりたての女の子が急に高校生の男の子と会うことになって怖がらない子、いる?

 

慧:(M)そうして不思議な文通は始まった。「最初は慧くんから送るのがあたり前でしょ。」と念を押されてしまった僕は、とりあえず当たり障りのないことを書き連ねた。

  (M)「僕も奇病なんだ。良ければ君のことを教えて欲しい。」そういった内容の手紙に丁寧に封をして先生に手渡した。

  (M)返事は意外にも早く訪れた。いつもよりニコニコした先生が空色の可愛らしい便箋片手にやってきたのだ。

 

先生:萌ちゃんから返事来たよ〜!!

 

慧:萌ちゃんって言うんですね

 

先生:やば、本人より先に言っちゃった

 

慧:別にいいですけど、どんな反応でしたか?

 

先生:なにが?あ、もしかして返事来ないかもって気になっちゃってたやつだ?

 

慧:うっさいな。やめますよ文通

 

先生:それは困る!ちょっとした冗談だよ冗談。

   はい!ちゃんと読みなよ?萌ちゃん結構真剣な顔して書いてたし

 

慧:分かってますよ。僕だって顔は知らないけど関わった人が死ぬのは寝覚めが悪いですし

慧:(M)手紙には丸っこい字体で「真白萌です。」と書かれていた。そして、僕の病にいたく興味津々だった。いつから発症したのか、学校には行っているのか、辛かったことは無いか、など質問ばかりだった。

慧:なんていうか.........普段学生生活とかの楽しいことは聞いてこないんですか?この子

 

先生:いや?学校ではどんな生活をしてるのかとか、学校行事にはどんなものがあるのか、とか結構質問攻めだよ?何?なんか変なことでも書いてた?

 

慧:いや...変では、無いんですけど.........

 

0:数週間後、病院

 

先生:萌ちゃんお疲れ様。検査終わった?

 

萌:あともう1回採血。ねぇ、さっきの看護師さんちょっと下手くそで痛かった

 

先生:それはごめんね。新人さんだからあんまり強く言わないでくれると嬉しいなぁ。

 

萌:次から先生が採血してよ。その方が時短でしょ?

 

先生:うーん......この部屋じゃ採血しちゃいけない決まりなんだ。だからごめんね。でも、痛いの我慢したんでしょ?すごいね!萌ちゃんは強い子だ

 

萌:別に...このくらいなんともないよ

  それより......あれの返事、まだ?

 

先生:返事?あぁ慧くんからのか。届いてるよ

 

萌:!!早くみせて!

 

先生:ははっ、はじめは「文通なんて」って言ってたのに、変わったねぇ

 

萌:うるさいな

   ...!慧お兄さん、本読むのが好きなんだって!スポーツとかは心臓が弱いから出来ないみたい。体育もあんまり参加しないって。へへ、一緒だ......

 

先生:おっ、じゃあ慧くんにオススメの本とか聞いてみたら?

 

萌:でも、向こうは私よりずっと年上でしょ?難しい本紹介されたら困っちゃうよ

 

先生:じゃああんまり難しい本にしないでってお願いして書けばいいよ。

 

萌:そっか!返事書く!

 

先生:あちょっと!まだ検査中だからどっか行かないで!書くならここで書いて!

 

萌:はーい。ね、慧お兄さんって先生から見たらどんな人?

 

先生:慧くん?そうだね〜、最近ちょっと生意気になった。昔は可愛かったのに〜

 

萌:そんなに長くいるの?

 

先生:そうだよ。もう関わって10年は経ったんじゃないかな。最初の頃は入院してた時期もあるし。でも高校生くらいになってからまぁ冷たくなって!私をなんだと思ってるんだ!ってね

 

萌:私より大変なんだね、慧お兄さん...

 

先生:んー、まぁ今はだいぶ落ち着いてるから大丈夫だよ。

   それより、萌ちゃんはまだ話さない?萌ちゃんの病気のこと。

 

萌:.........うん。奇病って言うだけで十分だよ。私のはほら、変だから。それに!『顔の見えない友達』でしょ?だから言わなくて平気

 

先生:そっか。でももし会いたくなったら言ってね。いつでもセッティングするからさ。

 

萌:うん。ありがとう先生

 

 

萌:(手紙)『部活入ってるの?あと、オススメの本があったら教えて!』

 

慧:(手紙)『部活は入ってない。検診があるからしょっちゅう休んじゃうことになるし。オススメは銀河鉄道の夜』

 

萌:(手紙)『私も毎回検診大変!看護師さんの中で採血下手な人いるのに先生がやってくれないの!やっぱりこういう病気だと学校生活送りにくいよね』

 

慧:(手紙)『小学生の頃からだからもう慣れちゃったかな。それに学校では病気のことも結構隠してる。変な目で見られるのは苦手だから』

 

萌:(手紙)『お兄さんの病気確か太ももにもう1個心臓あるんだっけ。確かに面倒くさくなるのは嫌だなぁ。ねぇ、慧お兄さんって......』

 

慧:「慧お兄さんの高校ってバイトできるの?」か......。なんでこの質問?

 

先生:あっ!私がちょっと離れてる隙に読んでる!

 

慧:いやだって、貰ったら読むでしょ

 

先生:どんな反応だったか分かんないじゃん!萌ちゃんから教えてって言われてるのに!

   なんか高校上がった時からそっけないよね〜。ねえなんで?なんで慧くーん?

 

慧:・・・・・・そうだー、萌ちゃんに先生は血が苦手で採血出来ないってバラそうー

 

先生:ちょっ、タンマタンマ!!萌ちゃんの前ではカッコイイ先生で通してるんだから!

 

慧:僕だってもう18なので態度が変わるのも当たり前ですよ。先生の中で僕っていつまでも小学生ですよね

 

先生:そんなこと、、ないよ?

 

慧:その間は信用できないですよ

 

先生:でも!なんだかんだ萌ちゃんとは続いてて私は嬉しいよ

 

慧:なんか、年下の女の子と話すのは結構新鮮です。萌ちゃんは知識欲がすごいですし年齢の割に大人びてますね。けど.....

 

先生:けど?

 

慧:いや、なんでもないです。

  

0:数ヶ月後 病院

  

萌:......会ってみたいな

  

先生:え!?萌ちゃん今なんて言った!?

  

萌:...!やっぱなんでもない!

  

先生:いやいや!会いたいってもしかしなくても慧くんのことでしょ!!やっとその気になってくれたんだ!

  

萌:思っただけだし!でも、お兄さんも奇病だし、私を見ても驚かない気がするから、会ってみてもいいかなって、それだけ……

 

先生:うんうん!なら私が慧くんに言っとくからさ!病院の中でいい?部屋空けとくね!

 

萌:う、うん……

 

先生:てなわけで、面会が決まったよ!

 

慧:『顔の見えない友達』って言ってたのはどこに行ったんですか

 

先生:いいじゃん!これはすごい進歩だよ。文通があの奇病の問題に少しでも意味があるのなら対処療法として学会に報告できる!慧くんのおかげだよ!

 

慧:あの…1個聞きたいんですけど、萌ちゃんの病状ってなんなんですか?本人に聞いても教えてくれなくて……

 

先生:それは…………本人の口から聞いた方がいいかも。慧くんも萌ちゃんも症状は見たら分かるものだし。会ったらすぐ分かると思うよ。

  

慧:それもそうですね。一応怖がらせないようにはしないと……

 

先生:あとこれ、萌ちゃんから手紙

 

慧:ありがとうございます。

慧:(M)手紙を開くと一言だけ

 

萌:(手紙)私を見ても驚かないで

 

慧:(M)それだけが書かれていた

慧:あの先生、先生ってこの手紙見ました?

 

先生:いや?普段から見てないよ。手紙はプライバシーだからね

 

慧:そうですか...

慧:(M)よく分からないまま時は過ぎていき、あの時の疑問が薄れかけてきた頃に当日になった。

 

先生:来てくれてありがとう。萌ちゃんはもう部屋に入ってるから、ちゃんとノックしてから入ってね。

 

慧:はい。先生は部屋には?

 

先生:一応扉の前にいようとは思うけど、なるべく2人きりにしようかなって。私がいちゃ話しずらいこともあるだろうし。

 

慧:了解です。

慧:(ノック音)失礼します

 

萌:慧お兄さん?

 

慧:こんにちは萌ちゃ......ん

 

慧:(M)今思えば、それは失敗だったと思う。

  (M)彼女は言った。「私を見ても驚かないで」と。だから、驚いたとしても顔に出すつもりはなかった。

  (M)けれど一瞬でも言葉を失ってしまったのは、彼女の目が異質だったから

  (M)まぶたの中に、おびただしいほどの目があった。おたまじゃくしの卵のような大量の目玉が、彼女の小さな瞳の中で蠢いていたのだ。

  (M)アリの集団みたいに塊として動くそれらを見まいと、咄嗟に彼女の眉間あたりに視線を外す

 

慧:顔を合わせるのは初めまして。相澤 慧です。今日は時間を作ってくれてありがとう。

 

萌:真白 萌です。あの、お手紙ありがとう。嬉しかった

 

慧:僕も。文通なんてしたこと無かったから返事貰えるのが毎回嬉しくて。どうして会おうと思ってくれたの?

 

萌:いっしょ、だから

 

慧:一緒?

 

萌:変な病気で、治んなくて、学校でもやれないことがあって、いっつも検査とかがあって、みんなから変な目で見られるの

 

慧:あぁ......確かに一緒だね。僕もほら、こっちの心臓は形が分かるくらいには出っ張ってるから色々大変。寝返りとか打てないし。

 

萌:学校にはどれくらいで行ってるの?

 

慧:昔は週に1回行けたらいい方だったけど、今はだいぶ落ち着いて一応毎日。検査があるから朝からは行けない日もあるけど

 

萌:そっか......私は最近行けてない。

 

慧:そんなに深刻に考えなくてもいいと思うよ。僕も時々痛んで休む時あるし

 

萌:なんて言う名前の病気?

 

慧:アメミット病。神話の生き物から付けたらしいよ。萌ちゃんは?

 

萌:『変異型ダーウィン症候群』っていうの。ダーウィンなんて初めて聞いたからよく分かんなかった

 

慧:科学者のダーウィンからかな。聞いたことない病名だ

 

萌:萌も!糖尿病とかなら分かるのによくわかんない名前で!

 

慧:(M)その日は比較的穏やかな時が流れた。あまり長い会話は出来なかったけれど、それでも彼女の表情が柔らかかったことに安堵した。

  (M)それからも手紙のやり取りが続いて、慧お兄さんから慧くんに呼び方が変わり始めた、ある日の事だった。

 

先生:突然だけど今日は萌ちゃんも来てるから一緒に院内のコンビニで何か買って食べようよ

 

慧:突然すぎますよ。最近慣れてちょっとダレてきてるでしょ

 

先生:いや〜思ったより経過が順調でさ。萌ちゃんにも元気が戻ってきたし、ここいらで一緒になにかをするっていうのアリじゃないかなって。

 

慧:でも、あの症状だと病院内だとしても危ないんじゃ...

 

先生:大丈夫だよ。今日は平日だし、通院患者も少ない。萌ちゃんと顔見知りの看護師さんも多いし、大丈夫だと思うよ。

 

慧:分かりました......。じゃあ、はい

 

先生:ん?何その手

 

慧:いや、お金。未成年からむしり取る気ですか

 

先生:ちゃっかりしてるんだから。はい

 

萌:慧くん!先生!

 

先生:おー、萌ちゃん検査お疲れ様。

 

慧:お疲れ様、萌ちゃん

 

萌:慧くんも来てたんだね。学校は?

 

慧:今日は午前で終わりだったんだ。

 

先生:萌ちゃん。今から慧くんコンビニに行くんだけど萌ちゃんもどう?私のお金で買っていいよ。

 

萌:いいの?行く!

 

先生:じゃあ私部屋で待ってるから2人で行っておいで〜

 

慧:何にする?

 

萌:暑いからアイス!でもお腹すいたから何か食べたいな

 

慧:先生からしっかり貰ったから遠慮せずに行こう

 

萌:慧くん悪い顔してるじゃん。先生のこと脅したの?

 

慧:いや、まさか貰えるとは思ってなくて......

 

0:慧とおばさんの肩がぶつかる

 

慧:っ、すみません。大丈夫ですか?

 

おばさん:あら、ごめんねぇ。私も見てなかったわ。お嬢ちゃんもごめんなさいね

 

萌:いえ...私は...

 

おばさん:どうしたの?そんなに俯いちゃって......ひっ!?

     何その顔...!バケモノよバケモノ!

 

萌:っ......

 

おばさん:人間じゃないわ...!気色の悪い!

 

慧:すみません、お言葉ですが……!

 

萌:っいや!!

 

慧:萌ちゃん!?萌ちゃん大丈夫!?

 

萌:言わないで......やめて......ごめんなさい...

 

慧:ちょっ、萌ちゃん落ち着いて!っ……!

慧:(M)突然しゃがみこんだ彼女の瞳は破裂せんばかりに大量に増殖していて、駆け寄った瞬間、目と目が、合ってしまった

 

萌:なん、で...?

 

慧:っ、ごめん。なんでもな……

 

萌:(遮る)嘘つき!!驚かないって言ったじゃん!一緒だって言ったのに!!

 

慧:ちがっ...

 

萌:やっぱり私が気持ち悪いんでしょ!?目につきやすいから咄嗟に隠せない!人とちゃんと向かって話せない!皆と同じ「普通」じゃない!

  慧くんなら大丈夫だと思ってた。私たちは一緒の「普通じゃない人」だと思ってた。

  でも、学校の話する時もなんか楽しそうで、病気に対して嫌だなって気持ちもなくて、だんだん慧くんが「普通」の人に見えてきて、余計に私が惨めに見えて...

  それでも「普通じゃない」人同士だったら私を受け入れてくれるって!私を「普通」として見てくれるって!そう思ったのに!

  嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つき!!

 

慧:萌ちゃん!!

 

先生:ちょっ、萌ちゃん!?何があったの!?

 

慧:僕が萌ちゃんの姿に驚いて、距離を取ってしまったから...

  萌ちゃんはずっと悩んでたはずなのに、僕が自分の病気をなんともないように言ってて、それがむしろ萌ちゃんを傷付けてたかもしれません...

  すみません、全部僕のせいです......

 

先生:いや、私のせいでもある。経過が順調すぎて忘れていた。あの子位の年代はとても多感なんだ。その事に今の今まで気づいてやれなかった私の落ち度だよ。慧くんは気にしなくていい。

   とりあえず私は萌ちゃんを追うよ。慧くんは念の為あの部屋で待機しておいて。君の病気はストレスが1番の毒なんだから。

 

慧:......分かりました

慧:(M)その日から、萌ちゃんからの手紙が送られてくることは無かった

 

慧:『顔の見えない友達』は、顔が見えないままで良かったのかもしれない、か…

  でも、そんなの寂しすぎるだろ…、だって、萌ちゃんは……

 

 

* * *

 

 

先生:萌ちゃん

 

萌:なに

 

先生:これ、慧くんから

 

萌:いらない

 

先生:返事書かなくていいからさ

 

萌:うるさいな、いらないって

 

先生:ちなみにあと5通あるよ。多分まだ増える

 

萌:.........

 

先生:読むだけでいいから、ね?

 

萌:......読むだけだから

 

先生:ありがとう

 

萌:「今度の週末、夜7時に病院前に来て」か。どう...しようかな...

萌:どうしたら正解なんだろう。謝るのが「普通」なのかな...?何をしたら、私は「普通」になれるのかな......

 

0:週末、病院前

 

先生:花火?

 

慧:せっかくなら夏らしいことしたくて。夜なら萌ちゃんの目も気にしなくていいかなって。

 

先生:慧くんなりに色々考えたわけだ。その短パンも考えた結果?

 

慧:まぁ...僕の方が目立てば多少は緩和されるかなって、そういうことです

 

先生:そう。来てくれるかな、萌ちゃん

 

慧:手紙は受け取って貰えたんですよね

 

先生:まぁね。

 

慧:なら、きっと来てくれるって僕は信じます。

 

先生:...来てくれるといいね。

 

慧:はい

 

先生:......私たちだけで先にやっとく?

 

慧:そう、ですね......

 

萌:慧くん!!

 

慧:っ!萌ちゃん!

 

萌:ごめん、遅れた

 

慧:全然。来てくれてありがとう。

 

萌:あの、さ......えっ、と...

 

先生:あぁ。私、席外そっか?

 

慧:お願いします。

 

先生:りょうかーい

 

0:先生が手を振りながら離れる

 

萌:それでさ、、その......、ごめ

 

慧:(被せる)ごめんね傷つかせて。本当はもう話してくれないかもって思ってた。だから今日ここに来てくれて嬉しい

 

萌:そんなこと...!私もその、ごめん...

 

慧:萌ちゃんに言われたこと、自分の中で考えてみたんだ。「普通」じゃないことってなんなんだろうって。

  僕は心臓が2個あって、心拍数が人の2倍あるけど、それ以外は他の人と変わらない。誰かの心臓を食べようなんてしないし、心臓がどっちか止まったら死んじゃうし、そもそも肉より魚の方が好きだし。

  それにこうして、夏は花火がしたいって「普通」に思うのが僕だ。

  萌ちゃんだって同じじゃない?初対面の人とは緊張して、夏はアイスが食べたくて、友達と気まずくなったらおろおろして、勇気を出してここに来てくれた。それは「普通」以外の何物でもない。

  変異型ダーウィン症候群は身体の一部分が異常進化を果たす症状なんだってね。そのせいで普段気にしなかったものが見えたり聞こえたりする。

  でもそれだけ。だから僕はこの病気ことを「普通じゃない」じゃなくて、「個性」って呼ぶことにしたんだ。

  僕は心臓がちょっと早く動くだけ、萌ちゃんは人より動体視力がちょっと良いだけ。それ以外はみんなと同じ。

  だから萌ちゃん、「普通」なことを求めすぎなくてもいいよ。僕は最初からずっと、君を普通の女の子として見てる。

 

萌:慧、くん...

 

慧:そう考えちゃ駄目かな?

 

萌:......ううん、良い。それがいい。

  ごめん、ごめんね。酷いこといっぱい言ってごめん...!

 

慧:ううん。来てくれてありがとう。せっかくだから一緒に花火してくれる?夏の思い出作ろう

 

萌:うん!する!

 

0:共に花火をする2人

 

萌:私ね、夏が嫌いなの。夏はずうっと太陽が出てて、私の目がはっきり見えちゃうから。暑いから前髪を上げたいけどこんな目じゃまともに髪を上げることも出来ない。

  夏らしいことする相手なんていなかった。私が病気になってからパパとママは喧嘩ばっかりで、毎日家と病院の往復だけ付き添って、それ以外は私を見もしてくれない。

  親子でもそんなんになるんだもん、だからもう私が生きてちゃダメなんだって。私が「普通」じゃないからパパとママは私を愛してくれないんだって。誰にも愛されない世界、1秒だっていたくない。

  でも、今は違うよ。慧くんと一緒にする花火、楽しいよ。ずっとやってたいくらい。

 

慧:それは、、本当に良かった

 

0:先生が離れたところから戻ってくる。

 

先生:お話終わった?おふたりさん

 

萌:先生。うん、もう大丈夫。嫌な態度取ってごめんなさい

 

先生:全然。萌ちゃんが元気になったんなら私はそれだけで嬉しいよ。

   ほら、泣きすぎておめめ溶けちゃうよ〜。

 

0:先生が萌の涙を拭う。水分が無くなったまぶたには、綺麗な青の瞳がひとつずつ収まっていた

 

先生:あれ...萌ちゃんの目が、1つに戻ってる...!?

 

慧:え!?ちょっと、萌ちゃんこっち見て!

 

萌:わっ!慧くん...?

 

慧:本当だ...、どうして

 

先生:私、手鏡持ってくるね!

 

萌:慧くん。私の目、ほんとに1つ...?

 

慧:うん、綺麗な空色の目だよ。宝石みたい

 

萌:そっか、そっかぁ...!私の目、治ってるんだ...!

 

慧:また泣いちゃった。でも、良かった、本当に

 

0:後日、病院

 

先生:慧くん

 

慧:先生、萌ちゃんどうでした?

 

先生:それがね、あれから症候群の病状が出なくなったんだ。理由はまだ解析中だけど、萌ちゃん自身が自分と世界に向き合えたことが主な要因かも。

 

慧:治るものだったんですね...良かった。

 

先生:まぁまだ経過観察は必要だけどね。暫くは通院してもらって様子を見る感じ。

   まさか私の患者から出るとは思わなかったけど、これも慧くんのおかげだね。

 

慧:始まりは先生の頼みからでしたよ。だから先生のおかげでもあると僕は思います。

 

先生:そう?やっぱり私天才だったのかな?

 

慧:調子に乗らないでください

 

先生:あはは、それもそうだよね。

   慧くんはこれから定期検診だったよね?また後で

 

慧:はい。

 

萌:先生!慧くん!

 

慧:萌ちゃん。調子どう?

 

萌:ちゃんと元気だよ!絶対あの日一緒に花火したおかげ!ありがとう慧くん!

 

慧:萌ちゃんが諦めなかった結果だよ。僕は何も。

  治って本当に良かった。頑張ったね。

 

萌:う、うん......

 

先生:検査終わった?それじゃ、萌ちゃんは私と診察室行くよ

 

萌:はーい。じゃあね慧くん!バイバイ!

 

慧:バイバイ

 

0:診察室

 

先生:それじゃ最後に血圧測るね。

 

萌:はーい!

 

先生:元気だねぇ。慧くんに会えて嬉しかった?

 

萌:なっ!?まぁ、そうだけど......

 

先生:そっか。

   おっ、終わった終わった

   えーと、血圧が78の118。心拍数が...あれ?90超えてる?萌ちゃん直前に何か運動した?

 

萌:えっ、これは、その......

  

萌:これは...心臓がちょっと早く動いてるだけ!

 

花より桜餅

さくらもちの台本置き場 未完結ものアリ〼

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