止まり木の館【3:4:0】

【あらすじ】

森の奥深くにある寂れた洋館。そこでは知る人ぞ知る、とあるサービスが受けられるそうだ。

ある日洋館にやってきた少女、飯塚千陽は言う。

曰く、「大勢に看取られながら死にたい」と。


出演人数:7人

時間:60分(推定)

配役

◆飯塚千陽(いいづか ちひろ)🚺 17歳 自殺願望者

◆紫(ゆかり)🚺 「止まり木」の店主 礼儀正しい

◆アラン🚹 「止まり木」の店員兼秘書 騒がしい

◆未夢(みゆ)🚺 「止まり木」の店員兼お世話係 妹ポジ

◆悠(はるか)🚹 「止まり木」の店員兼お世話係 弟ポジ

◆マリー🚹 「止まり木」の店員兼シェフ オネエ

(※男に戻る描写あり。男の場合の表記は『優馬(ゆうま)』)

◆木之本凛(きのもと りん)🚺 館に突然やってきた女性。強気

 

0:洋館

アラン:こちらが今月の収支になります

 

紫:ありがとう。そろそろ買い替えの時期にもなるわね。色々新しくしましょうか

 

悠:ご主人様〜、これここでいいですか…?

 

紫:いいわ。そこに置いておいて。御苦労さま。

 

0:ドアベルの音

 

紫:あらお客様?みんな1度下がってちょうだい。

 

悠:分かりました。

 

千陽:こんにちは……

 

紫:いらっしゃい。あら、これはまた随分と可愛らしいお嬢さんね。

 

千陽:あの、すみません勝手に入って…

 

紫:いいのよ。こちらへいらっしゃい。

 

千陽:・・・・・・(辺りを見回す)

 

紫:なにか珍しいものでもあった?

 

千陽:あっ、え、、と……ごめんなさい。

 

紫:謝らないで。こんな山奥に来る人は珍しくってついね。

 

千陽:そうですよね……

 

紫:それで、こんな寂れた洋館へなんの用かしら?捜し物?

 

千陽:捜し物というか、店を…。

 

紫:店?この辺りには店と言えるような建物は無いわ。

 

千陽:ここは?

 

紫:ここは私達の家よ。でもそうね、なにかお望みのものがあればできる限り協力しているわ。

 

千陽:じゃあ…「止まり木」って商品のこと知ってますか?

 

紫:あら、それで来たのね。なら確かに私のところで扱っていてよ。アラン!こちらへ。

 

アラン:お呼びですか?

 

紫:こちらのお嬢さんが止まり木をご所望なの。

 

アラン:本当ですか!?わかりました!すぐに準備しますね!

 

紫:騒がしくてごめんなさいね。ようこそいらっしゃいました。終末期サービス『止まり木』の店主、紫(ゆかり)と申します。

 

千陽:ここ、だったんですね…

 

紫:ええ。隠していてごめんなさいね。迷い込まれる方もいるから迂闊に口には出せないの。貴方、お名前は?

 

千陽:飯塚千陽、です…

 

紫:まぁ、そんなに緊張なさらないで。自分の家のようにくつろいで構わないわ。

 

千陽:はぁ…

 

アラン:お待たせしましたマスター!

 

紫:ありがとう。彼はアラン。私の秘書兼、『止まり木』の担当スタッフよ。

 

アラン:こんにちはお客様!気軽にアランとお呼びください!

 

千陽:飯塚千陽です。よろしくお願いします…

 

紫:じゃあアラン、私はマリーに連絡を入れてくるから、お客様のことをよろしくね。

 

アラン:承知致しました!

 

紫:では千陽さん、私はこれで。

 

0:紫退場

 

アラン:それではお客様!いくつかご質問させていただきます!

 

千陽:はい。

 

アラン:お名前は確か千陽様とおっしゃいましたよね?

 

千陽:はい、飯塚千陽です。

 

アラン:敬語は結構ですよ!僕はただの使用人で、貴方は大切なお客様ですから!もっと気楽に接してください!

 

千陽:そうですか…なるべく努力しますね…

 

アラン:では次にご自分の最期のお日にちですけれど、何かご希望はありますか?

 

千陽:希望?

 

アラン:はい!例えば祝日がいいだとか、仏滅のときがいいだとか、天気が雨のときがいいだとか!お客様のご希望に沿ってできますよ!

アラン:ただ、お日にちは原則丸1日お待ちいただく形にはなります。

 

千陽:そうなんだ…。できるだけ早めで。あとはなんでもいい。

 

アラン:承知しました。では2日後でご用意させていただきますね!

アラン:じゃあ次に…、お好きな死に方をお選びください!

 

千陽:し、死に方!?

 

アラン:?はい!死に方です!絞首だったり圧死だったり、マニアックな人だと切腹からの介錯!なんて人もいますよ!凄いですよねぇ

 

千陽:い、痛いのは嫌!楽に死ねる方法無いの?

 

アラン:楽にですか?なら、薬で安楽死ですかねー

 

千陽:できるの?この国ってほら、、そういうの禁止されてるんでしょ?

 

アラン:ん?いいんですよそういうことは!そもそもそんなこと気になってたらこのサービス自体、自殺幇助(ほうじょ)で即逮捕ですよ?気にせず行きましょう!

 

千陽:そっか…そうだよね。

 

アラン:はい!それでは死に方は安楽死っと…。他になにかご希望は?

 

千陽:うーんそうだな…

 

アラン:今思い浮かばなければ明日言ってもらっても構いませんよ?

 

千陽:いや、ある。

 

千陽:死ぬまでの間、ここでめいっぱい遊んでみたい。それで、死ぬ時はできるだけ大勢の人に看取られたいの。

 

アラン:大勢ですか!いいですね!どのくらい必要ですかね?100人とか?

 

千陽:ひゃく…って、そこまで求めてない。…5人とか10人、家族くらいの数で十分

 

アラン:なるほど……

 

千陽:ねぇ、さっきから何書いてるの?

 

アラン:これですか?カルテですよ!お客様1人1人ちゃんと書いてるんです!

 

千陽:…落書きじゃなくて?

 

アラン:カルテです!これは筆記体です

 

千陽:…もうそれでいいや。でもカルテ書いてもどうせみんな死ぬんだから意味無くない?

 

アラン:えーそうですかー?なら、これはボクの趣味ってことで!

 

千陽:はぁ...、変な趣味

 

アラン:ありがとうございます!

 

千陽:褒めてない

千陽:そうだ。私その、あんまりお金無くて…こういうサービスってやっぱり高いのかな?

 

アラン:そのあたりに関してはお気になさらず!お客様の死亡が確認され次第、こちらがご遺体を検体として買い取ります!そちらでお支払いされたという認識になります。

アラン:勿論、それが嫌という方のために別のお支払い方法もありますよ

 

千陽:いや、それでいいよ。どうせ、私が死んでもあの人たちは困らないし…

 

アラン:あの人たちってなんですか?

 

千陽:なんでもない。あとは何かあるの?

 

アラン:そうですねぇ…今のところありません!お客様も何かあればその都度言ってくださいね!

 

千陽:じゃあその、『お客様』って言うのやめて欲しい。

 

アラン:そうですか?じゃあ飯塚様

 

千陽:それもダメ。千陽って呼んで。様付けもなしで。

 

アラン:分かりました。それでは千陽さん!こちらの契約書にサインをお願いします!

 

千陽:えっと、ここか………はい。

 

アラン:ありがとうございます!じゃあこちらが控えです。もしキャンセルする場合はこちらをお持ちいただいて、破り捨てることで契約破棄になります!

 

千陽:キャンセルなんてしないから要らない。君が持ってて

 

アラン:いやいや、そういう訳にも行かないんです!ちゃんとしないとボクがマスターに怒られるじゃないですか!はい!

 

千陽:えぇ……

 

アラン:では!これで契約は完了です!それじゃあ次は屋敷の案内ですね。悠(はるか)くん!未夢(みゆ)ちゃん!

 

悠:お呼びですかアランさん。

 

アラン:千陽さんに屋敷を案内してあげてください!それからゲストルームにお通ししてお着替えも!

 

未夢:わかりました

 

千陽:案内?着替え?

 

アラン:こちらは千陽さんの身の回りのお世話をする悠くんと未夢ちゃんです!何かあったらこの2人に言ってください!

 

悠:悠(はるか)です…

 

未夢:未夢(みゆ)です

 

千陽:千陽って言います。よろしく。

 

悠:よろしくお願いします…

 

未夢:悠どこから回る?お庭から?

 

悠:着替えてからの方がいい気もするけど…

 

未夢:わかった。お姉さんこっちに来て。案内します

 

千陽:う、うん…

 

アラン:そうだ悠くん!千陽さんのお着替えなんですけど…(耳打ち)

 

悠:はい、はい…分かりました。未夢に伝えておきます。

 

アラン:よろしくお願いしますね!

 

0:悠退場

 

紫:終わったアラン?

 

アラン:はい!いくつかお聞きしたところ、このような回答が

 

紫:大勢に看取られて、ね…

 

アラン:はい。でもそこまで要らない。5人、家族位の人数で十分。と言われました

 

紫:大勢と言う割に数は少ないわね…

 

アラン:ですよね?ボクもそう思います。

 

紫:まぁその件は後々考えましょう。今あの子は?

 

アラン:悠くんと未夢ちゃんに屋敷の案内をさせています。それとお召しかえも!

 

紫:あらそう?確かにあの子の身なりは問題だったわね。よく気づいたわアラン

 

アラン:お褒め頂き光栄です!

 

紫:その調子で最後までよろしく頼むわ。

 

アラン:仰せのままに、マスター!

 

紫:…マスターって呼ばれるの、ちょっとむず痒いのだけれど…

 

アラン:なんでですか!?割と好きですよボク。

 

紫:そういうことじゃないわ。ほら、千陽さんの要望通りに準備するわよ。着いていらっしゃい。

 

アラン:悠達だけで大丈夫ですか?

 

紫:マリーもいるし問題ないわ。何かあれば伝えるよう言ってあるし。

 

アラン:承知しました!

 

0:アラン紫退場

 

マリー:ご主人〜?ご主人〜!あら居ない。お客様のこと、もおっと知りたかったのに…。残念だわ

マリー:あら、悠ちゃんじゃない。ご主人見なかったぁ?

 

悠:マリーさん。いや、見てませんね、アランさんと一緒にどこかへ行かれたのでは?

 

マリー:あらあらぁ。アランちゃんだけご主人を独り占めなんてずるいわァ!

 

悠:仕方ないですよ。そうだ、もうすぐお客様がこちらに戻って来ますから、マリーさんはまだ隠れててくださいね

 

マリー:随分つれないことをするのね?

 

悠:ご主人様からの指示です。マリーさんを今のお客様の前に出せばびっくりして失神しちゃいますよ!

 

マリー:あらそう?なら仕方ないわね。あの子がここに慣れた時にでも顔出すわ。それまでそっちでよろしくね?

 

悠:マリーさんもよろしくお願いしますね!ほんとに!

 

マリー:分かってるわよ。

 

0:マリー退場

 

悠:(深いため息)そろそろかな…

 

未夢:………

 

悠:あ未夢、お客様は?

 

未夢:それが、恥ずかしくて出て来れないって言ってるの…

 

悠:えぇ?

 

未夢:見立ては間違いないと思うんだけど…

 

悠:こういう時褒めるのはアランさんの得意分野だけど…今ちょうどいないし…

 

未夢:…とりあえず、未夢達だけで頑張ってみよう?

 

悠:そうだね。…うん、頑張ろう。それで、お客様は今どこに?

 

未夢:まだ部屋に……あ、出てきてそこに隠れてる。

 

悠:じゃ、じゃあ僕が説得してみるから、未夢は飲み物の準備をお願い。

 

未夢:分かった。

 

悠:(咳払い)お客様?ほらこっちです。僕たち以外誰もいませんから。

 

千陽:……

 

悠:ほ、ほら!こっちで一緒におやつでも食べましょう?

 

千陽:……

 

悠:(涙目)お、おきゃくさまぁ…

 

千陽:わ、わかった!わかったから…

 

千陽:うぅ…スカートなんて初めて穿いた…変な感じ

 

悠:お、お似合いです…よ………

 

千陽:別に、無理してお世辞言わなくていいよ?

 

悠:あ…いや、ち、違くて…。僕はその…人を褒めるのが得意ではなくて…でもその、本当にとてもお似合いです……

 

千陽:ありがと...。なんか照れる

 

悠:あ、どうぞここに座ってください。今未夢が飲み物を取りに行ってて…

 

千陽:確かにちょっと疲れちゃったかも。ありがとう。

 

悠:いえ…お礼なら未夢に……

 

未夢:お姉さん、ココアで良かったですか?

 

千陽:うん。ありがとう。

千陽:?これも食べていいの?

 

未夢:はい。お客様用のお茶菓子なので。

 

悠:他にも、要望や質問があれば遠慮なく言ってください

 

千陽:あ、じゃあちょっと質問なんだけど、2人って兄妹なの?

 

悠:まぁ……はい

 

千陽:『まぁ』?

 

未夢:未夢と悠は血が繋がってないんです。マスター達に引き取られたことで兄妹っていう関係に落ち着いてます。

 

悠:同い年なので余計に兄妹っぽく……

 

千陽:なるほどね。何歳なの?

 

悠:15です

 

千陽:っ!じゃあ私より年下だ…

千陽:ねぇ2人とも。よかったらなんだけど、私の事お姉ちゃんだと思って接してくれない?

 

悠:お客様を、ですか…?

 

千陽:憧れてたの。自分を慕ってくれる弟や妹が居ないかなって。やりたいことがあったら言ってって言ってくれたよね?お願い!

 

千陽:だめ、かな…?

 

未夢:だめじゃないですよ

 

悠:はい。お客様が最期までにやりたいことを叶えるのが僕たちの使命ですから。

 

千陽:そっか…。ありがとう。

 

未夢:それでは未夢は『千陽お姉ちゃん』と呼ばせて頂きますね。

 

悠:じゃあ僕は『姉さん』で。

 

千陽:うん!ありがとう2人とも!敬語も外して気楽に接して!

 

未夢:わかった。千陽お姉ちゃん。

 

千陽:えへへ、変な感じ。そうだ!2人も一緒に食べようよ。それで、色々お話したい。

 

悠:…姉さんがそう望むなら。

 

未夢:じゃあ未夢と悠の分も淹れてくるね。

 

悠:ありがとう。姉さん、遠慮なく食べてくださいね。

 

千陽:じゃあ、、いただきます。

千陽:ん!美味しい!

 

悠:それは良かった。

 

未夢:おまたせ、悠は甘めね。

 

悠:ありがとう。

 

千陽:悠は甘いのが好きなの?

 

悠:はい……未夢は反対に苦めが好みです

 

千陽:へぇーそうなんだ。大人だね。

 

未夢:別に…。マスターはブラックが好みだから…それで一緒になっただけだもん…。

 

千陽:未夢が照れるの可愛い。ねね、もっと未夢のこと教えてよ。

 

未夢:えっ

 

千陽:だめ?なら悠教えて?

 

悠:えっ、べ、別にいいですけど……

 

未夢:悠!?

 

悠:でも、僕から言えることはみんな知ってる情報しかないですよ。紅茶を入れるのが得意で、時々お菓子も手作りするんですよ。どっちも此処に来てから頑張ってできるようになったんです。

 

千陽:へぇー。頑張り屋さんなんだね未夢は。

 

未夢:べ、別にそんなこと…。それに!まだまだ上手に作れないし、今回のだって……あ。

 

千陽:今回の?もしかして、このクッキー作ったのも未夢なの?

 

未夢:う、うん……

 

千陽:すごいすごい!とっても美味しかったよ!未夢は本当になんでも出来る子なんだね!

 

悠:ご主人様にも褒められてるし、僕も尊敬してる。

 

未夢:……ふたりとも、褒めすぎ。

 

千陽:んふふ、かわい……

 

マリー:(遮る)あ〜〜〜〜っ!可愛い!可愛いわ未夢ちゃんっ!

 

千陽:え!?だっ、誰!?不審者!?

 

未夢:……マリーさん、お姉ちゃんが驚いてます。離してください。

 

マリー:あらつれない。

 

悠:あの姉さん…この方は不審者じゃなくて……ええと……

 

マリー:ごめんなさいね。アタシはマリー。この屋敷の厨房担当よ。

 

千陽:…………おネエ?

 

マリー:はぁー…。確かに世間一般的にアタシはそう呼ばれるわね。でも別におネエだからって料理は不味くならないわよ

 

千陽:あっ、、ご、ごめんなさい……

 

未夢:マリーさんがお姉ちゃん泣かせた……

 

マリー:あらやだ!言い方がキツかったのかしら!?どうしましょどうしましょ!?ご主人に見られたら絶対怒られるわね!?落ち着いて欲しいわお嬢ちゃん!アタシ別に怒ってないわよ!?

 

千陽:な、泣いてないです!泣いてないですから!

 

マリー:そう……?ごめんなさいね。悠ちゃんにもびっくりさせちゃうって言われてたのに…、アタシってダメね。

 

千陽:いえいえ!少し驚いただけですし!ほんとに大丈夫なので!

 

悠:大丈夫ですか姉さん

 

千陽:うん…。ありがとう悠。その、マリーさんも本当に気にしないでください

 

マリー:お嬢ちゃんを驚かせること自体駄目なのよ!

マリー:でも、さっきはごめんなさいね。あまりにも未夢ちゃんが可愛らしくて止まらなかっただけなの。未夢ちゃんがここに来てしばらくはあんまり感情を表に出さない子だったから、なんだか嬉しくもなって…

 

未夢:マリーさんそれは…

 

千陽:そうだったの?

 

マリー:そうなのよ。この子はね、実は2年前に…

 

未夢:(遮る)やめてマリーさん!!!

 

千陽:未夢…?

 

マリー:あ、あらごめんなさい。他人から勝手に話すのは無粋だったわね…。

 

未夢:………未夢の話なんてどうでもいいんです。今はお姉ちゃんの話を聞きたいので。

 

マリー:そうよね。そうだわ!アタシお嬢ちゃんのこと色々知りたかったのよ!

マリー:まずは呼び方よね!『お嬢ちゃん』だとちょっと他人行儀だもの。なんて呼べばいいかしら?

 

千陽:じゃあ…千陽で。

 

マリー:わかったわ!千陽ちゃんね!

マリー:じゃあ早速聞くんだけれど、千陽ちゃんがここで過ごすにあたって一番大事なことって食事でしょう?

 

千陽:…別にそんなことも無い気が…

 

マリー:(遮る)食事でしょう?

 

千陽:……はい。

 

マリー:だからね、せっかくここに来てくれたんだもの。せめて千陽ちゃんの好きな物を食べさせてあげたいと思ってるのよ!今日のお夕飯はビーフシチューの予定になってるんだけど、貴方の好みも聞いておくべきでしょう?何が食べたい?

 

千陽:……急には、思いつかないですね

 

マリー:なら、好きなお料理のジャンルは?和食より洋食?パスタは好き?それとも嫌いかしら?

 

千陽:どれも同じくらい好きですね。これといって特段好きな物は

 

マリー:あらそう?なら少し考えておいて貰えるかしら。一応、サービスとしてお客様がリクエストしたものを作るっていう決まりになってるから。

 

千陽:はい……

 

マリー:じゃあアタシはこれで失礼するわね。また会いましょ♪

 

0:マリー退場

 

悠:姉さん、その…すみません。

 

千陽:なんで悠が謝るの。びっくりしたのは事実だけど大丈夫だって。

 

悠:そうではなくて、その…、こんなことを聞いて良いのか分かりませんが、姉さんはいつもそうなんですか?

 

千陽:悠……?

 

悠:姉さんからは、これがしたいっていう願望というか、意志を感じませんでした。今だって、要望という要望を聞いていないですし…

悠:教えてくれませんか?僕は姉さんのことを知りたいです。

 

千陽:……じゃあちょっとだけ話そうかな。っていっても、私にはそういうのがあんまりないっていうのが事実になっちゃうんだけどね。

 

未夢:ないの…?

 

千陽:なんかもう、どうでもいいや〜って思うことが多くって。でも、一つだけちゃんとある。ひとりぼっちになるのだけは、嫌。

 

未夢:………大丈夫。未夢と悠は一緒にいるよ。お姉ちゃんが死ぬまでずっと一緒。

 

千陽:……ありがとう。

 

未夢:ううん。

 

千陽:2人は、問い詰めたりしないんだね。

 

悠:だって、姉さんはそうされることを望んでないでしょう?

 

千陽:正解。なんで分かっちゃうのかな………。あの人たちは、今まで1度だって気づいてくれたことなんてないのに。

 

悠:僕たちは、姉さんが話そうと思えるまで待ちます………。だから、もし話せる時が来たら話して欲しいです

 

千陽:ありがとう。そう言ってくれるだけで気持ちが楽だよ

千陽:さて!暗い雰囲気はおしまい!楽しい話に戻ろ!

 

悠:そうですね

 

未夢:うん。

 

千陽:未夢は他にどんなお菓子が作れるの?

 

未夢:んっと、この前はカップケーキで…

 

悠:その前はブラウニー作ってくれたよね

 

千陽:なんでも作れるんだ!やっぱりすごいね

 

未夢:そんなこと…

 

アラン:御三方とも楽しそうですね!何よりです!

 

悠:アランさん。おかえりなさい

 

アラン:はい!ただいま戻りました!あー!!

 

千陽:きゃっ!?

 

アラン:千陽さん!とってもお可愛らしい格好じゃないですか!似合ってますよ!素敵ですねぇ!

 

千陽:えっ、あ、あの……!?

 

アラン:うんうん!女の子!って感じがしてとても可愛らしいですよ!やっぱりスカート似合いますね!ボクの見立てに間違いはなかったです!

 

千陽:え、あ、ありがとう......

 

アラン:過ごしてみてどうですか?不便なことや不満があればボクに言ってくださいね!もちろんやりたいことでもいいですし!

アラン:何がいいですかねぇ?死ぬまでなら本だって読み放題ですし、料理だって作り放題ですし、外でも遊び放題ですよ!何からやりたいですか?なんでも出来ますよ!

 

千陽:あ、あの…

 

悠:アランさん。姉さんが怯えて…

 

アラン:『姉さん』!?いつの間にそんな呼び方になったんですか!?詳しく教えてくださいよ!もしかして未夢ちゃんもですか!?

 

未夢:っ、うん

 

アラン:そうですかそうですか!いいじゃないですか姉弟!ボクにはいなかったから憧れちゃいますね!どうぞそのままで!

 

千陽:はぁ……。にしても何がしたいかか…。正直ちゃんと決まってないっていうか...。

 

アラン:そうですか…今までの方は無理難題言ってくる人が多かったので、無いって言われると逆にボクも困りましたね

 

未夢:あ、じゃあお姉ちゃん、明日は未夢と一緒にお菓子作らない?

 

千陽:それいいかも。未夢と一緒に色々したいし。

 

アラン:名案じゃないですか!未夢ちゃんは流石ですね!

 

未夢:そんなこと…

 

千陽:じゃあ何作るか早速考えよう?

 

未夢:うん。悠も

 

悠:え、僕も?

 

千陽:そうだよ!悠も一緒にやろ!えっと、じゃあアランさん…

 

アラン:呼び捨てで結構ですよ!承知しました!明日作れるよう材料と器具を準備しておきますね!

 

千陽:ありがとう

 

アラン:じゃあ未夢ちゃん、作るものが決まったらボクに言ってください。

 

未夢:分かった

 

マリー:みんなご飯できたわよ!って、アランちゃん帰ってたのね。おかえりなさい。

 

アラン:はい。ただいま戻りました!

 

悠:もうそんな時間ですか…。行きましょう姉さん。お菓子は後で決めましょうか

 

千陽:わかった。実はちょっとお腹減ってたんだ。

 

アラン:じゃあボクここ片付けておきますから、マリーさんと先に行っててください!

 

マリー:了解♪

 

0:ドアベル

 

紫:ただいま

 

アラン:おかえりなさいマスター!報告したいことがありまして。

 

紫:あらそう?千陽さんのことかしら。 

 

アラン:はい。何度か話してみて思ったんですが、本人自身の欲があまりないみたいなんですよね…。もっと言うなら、別に何でもいいと思ってるというか、好き嫌いという概念がないというか…

 

紫:なるほどね…。自己肯定感や意思表示が弱いってことかしら

 

アラン:それは少なからずあると思います。ただ、そういう人って…

 

紫:対応が難しいわね。

 

アラン:そうなんです!今の時点で満足してるのかしてないのかも分かりずらくて!

 

紫:まだ判断するのは時期尚早よ。それに、意見は色んな人から聞かないとね。

 

アラン:それもそうですね

 

マリー:あら、ご主人おかえりなさい。夕飯できてるけど後にする?

 

紫:マリーいい所に。こっちへ来て。話したいことがあるの。

 

マリー:あら嬉しい。でも2人っきりじゃなくて残念だわ。それで?意見って?

 

紫:千陽さんのことよ。彼女、なにか隠してそうなのよね。

 

マリー:千陽ちゃん?アタシはいい子だと思うわよ?久しぶりに未夢ちゃんが照れてるところ見たわ。千陽ちゃんが引き出したのねきっと。

 

アラン:へぇーそんなことが?

 

マリー:でも、あの子自分のことに関しては何も話してくれないわね。アタシの質問にも明確な答えは出してくれなかったし。

 

紫:マリーも特に何か分かったわけじゃないのね…。

 

アラン:………

 

紫:となると、頼みの綱は悠と未夢ね…

 

悠:どうかしましたか?

 

紫:悠。千陽さんは?

 

悠:未夢と一緒に部屋へ。そうだアランさん、これ未夢からです

 

アラン:お菓子の件ですね。了解しました!準備しておきますので未夢ちゃんによろしく伝えてください!

アラン:そうだ!悠くんに聞こうとしてたことがあるんです!

 

悠:はい、なんでしょう…?

 

アラン:悠くんと未夢ちゃんが千陽さんのことを『お姉ちゃん』と呼んでいるのは千陽さんからのお願いでですか?

 

悠:そうです。姉さんから頼まれて。特にダメという訳でもないのでそう呼んでます…

 

紫:そんなことになっていたの?

 

悠:なんでも弟や妹に憧れているそうです。姉さんはあまり自分のことを話してくれなかったので、実はちょっと嬉しくて...

 

紫:憧れ?でもあの子には……あぁ、そういうこと。

 

アラン:なんですか?

 

紫:いえ、決めつけるのはまだ早いわね。確信が持てたら話すわ。みんなはそのまま千陽さんに接して。

 

悠:分かりました。それと未夢なんですけど…、少し昔のことを思い出して落ち込んでるので、様子を見てやってください。

 

マリー:ごめんなさいね。アタシが余計なこと言ったからなの。

 

紫:分かったわ。アラン、未夢のこといつもより見ていてあげて。

 

アラン:了解ですマスター。

 

紫:それじゃあ私達もご飯にしましょうか。

 

翌朝(なにか音流します)

 

千陽:お疲れ様、悠。

 

悠:姉さん。食事は済みましたか...?

 

千陽:うん!美味しかったよ。ただ…ちょっと食べすぎてお腹キツイかも

 

悠:座ってゆっくりしてください。食後にすぐ動くと気持ち悪くなる人もいますから。

 

千陽:ありがと

 

悠:そうだ。アランさんが材料の準備を済ませてくれたみたいです。片付けが終わったら厨房も使わせてくれるそうなので、もう少しこのままでいましょう。

 

千陽:早いね。

 

悠:夜間の対応をしてくれたのはアランさんですし、今日も朝早くから買い物に…

 

千陽:…………いつ寝てるのそれ?

 

悠:僕もあまり分からなくて…。いつも元気そうなので普段気づかないんですよね…

 

千陽:なんかちょっと悪いことした気分だな

 

悠:姉さんは気にしなくていいですよ。

 

未夢:片付け終わった。もう始められるよ。

 

千陽:ありがとう未夢。ごめんね手伝えなくて

 

未夢:いいの。お姉ちゃんはお客様なんだから。

 

千陽:...そっか。わざわざありがとうね。

 

悠:行きましょう姉さん。体調は大丈夫ですか?

 

千陽:うん。ちょっと休んだら元気になった。ありがとう悠。

 

未夢:あ。未夢、本とって来なきゃ。お姉ちゃんたち先に行ってて。

 

千陽:分かった

 

0:ドアベル音

 

未夢:?はい、どちら様ですか…

 

凛:(遮る)未夢!やっと見つけた!

 

未夢:え………お、ねぇちゃ…

 

凛:どこに行ったかと思ってたのよ!さ、早く私と一緒に…!

 

未夢:やだ!触らないで!

 

凛:未夢...?冗談やめてよ。あんたを見つけるのに何年かかったか...!

 

未夢:痛っ...!

 

凛:帰るよ未夢!

 

未夢:っ!!やだ!やめて!

 

悠:大きな音がしたけどどうした……っ!未夢!?

 

凛:なにすんの

 

悠:あの、なにか御用でしょうか

 

凛:どいて。私は未夢に用があるの

 

悠:僕はっ...、怯えている未夢を貴方に渡すことこそ良くないと思いますが。

 

未夢:悠...

 

悠:ごめん未夢。ご主人様を呼んできて。

 

未夢:......うん。

 

悠:貴方、未夢に一体なんの用ですか?

 

凛:それあんたにいう必要あるの?

 

悠:えぇ。僕と未夢は兄妹ですから。この屋敷ではみんな家族です。

 

凛:家族、ねぇ...

 

紫:悠。

 

悠:すみません、お手を煩わせて...

 

紫:いいえ。とりあえず、お客様を立たせておく訳には行かないわ。悠、お茶の準備を。

 

悠:分かりました

 

紫:それで?貴方は未夢になんの用かしら?

 

凛:あんたがこの家の主人?

 

紫:えぇそうよ。どうぞ紫と呼んでちょうだい。

 

凛:そういうのいいから。さっさと本題に入るけど、私は未夢を連れて帰りに来たの。

 

紫:...というと?

 

凛:未夢がこんなところで働いてるだなんて信じられない。まだ15歳なのよ、分かってるの?

 

紫:.........

 

凛:私はあの子の姉として、血の繋がった家族として見過ごす訳には行かないわ。だから未夢を返してちょうだい。あの子もきっと帰りたがってるはずだもの。

 

紫:帰りたがってるはず、ね...

 

凛:何?言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。

 

紫:随分当然の事のように答えるのね。けれど、それは貴方が言えたことなの?

 

凛:は?

 

紫:貴方たちが未夢を捨てたんでしょう?2年前にここで。まだ年端(としは)もいかない女の子を捨てたのは他ならない貴方たち家族よ。

 

凛:それは...

 

千陽:はぁ!?

 

悠:姉さん!?なんでここに…!落ち着いてください!

 

千陽:でも!

 

悠:あの人と姉さんは無関係なんです!ヘタに介入してはかえって姉さんにもご迷惑が...!

 

千陽:未夢のことなんでしょ!?ならほっとけないじゃん!未夢!

 

未夢:お姉ちゃん!

 

凛:は?待って...、待ってよ未夢!あんたのお姉ちゃんは私でしょ!?

 

千陽:やめなよ。少し落ち着いたらどうなの?未夢をこんなに怖がらせて...

 

凛:未夢.........

 

千陽:そもそも、家族だって証拠もなくて、名乗ってもない人に対してその言葉が本当に信じられるの?

 

凛:私は木之本凛。スマホに未夢と撮った写真があるからそれが証拠。これでいい?

 

千陽:...わかった。とりあえず信じる。でもだったらなんで2年間も未夢のこと放っておいたわけ?しんじられない

 

凛:それは......!

 

紫:そこまでよ2人とも。千陽さん、こういうのは当人同士で話し合わないといけないものなの。

 

千陽:でも...

 

紫:未夢を守ってくれたこと感謝するわ。だけれど、今は少し席を外してくれる?

 

千陽:......分かりました。

 

紫:さて、もちろん話してくれるのよね?凛さん。

 

凛:......えぇ。

凛:2年前の私はちょうど出張で海外にいたの。だから、両親が未夢を捨てたのを知ったのはつい最近のこと。家に帰った時は驚いたわ。未夢がいた痕跡すらあの家にはなかった。いっそ気持ち悪くなるくらいにね。

 

紫:だから迎えに来るのが遅くなった。

 

凛:えぇ。両親を問い詰めてやっとここまで来たの。だから手ぶらで帰るわけには行かない。

 

紫:貴方の言い分は理解したわ。けれど、大切なのは未夢の意思でしょう?

 

凛:それはそうよ。でもこんな店で働かせてるなんて未夢が可哀想。未夢だって本当は嫌々従ってるはずよ。

 

紫:『こんな店』ですって?

 

凛:えぇ、調べたの。一見寂れた洋館だけど、裏じゃ相当きな臭いことをしてるんだってね。犯罪まがいのことをしてる所でまだ15の未夢が労働をしてるのよ?捕まってもおかしくないくらいだわ。

 

未夢:そんなこと...っ!

 

凛:それに、来た時に会った男の子が自分たちは家族だ~なんて言ってたわね。馬鹿馬鹿しい。血の繋がりもないのに兄妹だなんて笑っちゃう。

 

未夢:...めてください

 

紫:未夢?

 

未夢:未夢の家族をそんなふうに言うのやめてください!

 

凛:み、みゆ...?

 

未夢:何も知らないくせに!未夢があの日捨てられて!どれだけ怖くて心細かったか!急にひとりぼっちになった未夢の気持ちなんかお姉ちゃんに分かるわけない!

未夢:マスター達は未夢を受け入れてくれました!何も持っていない未夢を愛してくれました!未夢は!未夢を捨てたパパもママも、今更姉ヅラするお姉ちゃんも嫌いです!大嫌いです!

未夢:......帰ってください。未夢はあの家に戻る気はありません。

 

凛:みゆ.........

 

未夢:ご主人様ごめんなさい。未夢はこれで失礼します。

 

紫:......ごめんなさいね

 

凛:別に

 

紫:少し未夢の様子を見てくるわ。そこで待っていてくれるかしら。

 

凛:分かった。......ごめん。貴方たちの関係性を馬鹿にして。未夢の信頼を裏切ったのは私たち家族の方なのにね。

 

紫:そう思うに至っただけで充分だわ。

 

  

千陽:あの、、

 

紫:あら千陽さん

 

千陽:お話終わりました...?未夢は...

 

紫:ひとまずはね。未夢は少し考えを整理する時間が必要だからそっとしておいてあげて。

 

千陽:分かりました...

 

 

千陽:あ..................あの、いや……

 

凛:......何

 

千陽:ごめん。実は私、影から全部聞いてた。最初から全部

 

凛:...そう

 

千陽:それでね。聞いてたら、羨ましいなって思えてきちゃって

 

凛:羨ましい?

 

千陽:そう。兄弟喧嘩ができるっていいなって。

千陽:私ね、弟がいるの。今年で15歳になる弟。でも私はあの子とほとんど話したことない。

 

凛:そんなこと別の家に住んでるとかじゃないとありえないでしょ?少なくても15年は一緒に暮らしてたんだから

 

千陽:そう。でも話さなかった。話せなかった。私は、あの人たちの『家族』じゃなかったから。

千陽:私ね、望まれて生まれた子じゃないんだ。両親はずっと男の子が欲しかったの。だから女の私は邪魔な子供、いらない子供。弟が生まれてそれがさらに顕著になった。結構耐えてたけど、疲れちゃったんだ。

 

凛:貴方もしかして.........ここに依頼した自殺志願者なの?

 

千陽:そうだよ。ここはすごいね。スカートだってここに来て初めてはいたんだよ。今までは弟にお下がりがいくようにスカートなんて買ってもらったことなかったから。弟や妹もできたの。やりたいことをなんでもさせてくれたの。

千陽:でもね、ちゃんと意見が言えるひとって、やっぱり羨ましいって思えちゃう。私は言えないで諦めた人だから。

 

凛:弟もあんたのこと嫌ってるの?

 

千陽:話したことないから分からない。仲良くはなりたかったけど、両親がそうさせてくれなかったし...

 

凛:なんだ。じゃあ私と違ってあんたはまだやり直せるわよ。

 

千陽:え?

 

凛:だって、弟に嫌われてるわけじゃないんでしょ?

 

千陽:それは、そうだけど......

 

凛:だったらまだなんとかなる。その弟くんだって貴方に直接的な悪意を向けて来てないなら、親の洗脳にかかってない可能性の方が強い。

 

千陽:洗脳ってそんな............

 

凛:最初から気になってたけど、あんたって死にたいんじゃなくて、あの人たちから離れたい、遠くに行きたいって思ってるだけなんじゃないの?

 

千陽:で、でも私は死にたくて、自分の意志でここに来た!

 

凛:馬鹿ね。ここに来て、やりたいことをして、赤の他人のために動いてる人なんて、本気で死のうとしてる人じゃないわ。本気で自殺する人は、ある日突然居なくなるから。何も考えず、突発的にそれに走る。

凛:断言するわ。そんなみみっちい死に方するくらいなら止めなさい。絶対に後悔する

 

千陽:でも!ここでは未夢達がいる!私の妹と弟がいるの!

 

凛:そういえば姉さんって呼ばれてたわね。でも、あんただって気づいてるんでしょ?お姉ちゃんって言われてても、あの子たちはあんたを1人の客として見てるって。

 

千陽:そんなこと!そんな、こと.........

 

凛:心当たりあるのね。

凛:ねぇ、私が言うのもなんだけど、家族ってそんなに必要?

 

千陽:は?何言って...

 

凛:私、未夢のことは大好きだけど、両親のことは好きじゃないわ。当たり前よね、あんなことする親だもの。

凛:そりゃあ、成長するまでに親っていう存在は必要不可欠だけど、だからって執着するほどじゃないと思う。

 

千陽:...............

 

凛:あんたの両親は、あんたが命を捨ててまで振り向いて欲しい存在なの?さっき話を聞いたばかりだからまだよく知らないけど、クソよ。あんたの両親。

 

千陽:そこまでバッサリ...

 

凛:あら悪い?自分のお腹を痛めて産んだ子供にそんな仕打ちする親なんて、かけてやる慈悲ないわよ。

凛:見捨てなさいそんな親。あんたにはその権利があるわ

 

千陽:...ほんとにいいのかな。それに、今の私に1人で生きてく力なんて...

 

凛:じゃあ私が力を貸してあげる。

 

千陽:え?

 

凛:私達って毒親っていう共通点は同じでしょ?手を貸す理由になると思わない?あんたの両親についても、何かできるかもしれないし。

 

千陽:凛さん...

 

凛:親のせいで死ぬより、自分のために生きた方がずっと有意義でしょ?自分勝手に生きてみなさいよ。

 

千陽:...もしここで私が勇気を出せば、弟と話せるかな?仲良く、なれるかな...?

 

凛:それはあんたの努力次第ね。でも、きっとできるって私は信じてる。

 

千陽:......わかった。なら私、もう少しこの世界で足掻いてみる。私を信じてくれた貴方に報いるためにも。

 

凛:そこは自分のためにって言いなさいよ。

 

千陽:あはは、たしかに。

千陽:...ほんとはね、心のどこかで誰かに止めて欲しかったのかもしれない。未夢や悠、ここの人達は私のことを認めてくれた。だけど、肯定しかしてくれなかった。怒らないの。ただ頷いて、言いよって言うだけ。ても、凛さんは私の話を聞いて、否定してくれて、一緒に考えてくれた。私が本当に欲しかったのは、『生きろ』っていう言葉そのものだったんだね。

千陽:ありがとう凛さん。貴方のおかげで決心が着いた。臆病な私はここで死んだ。死にたい私の物語は、これでおしまいにする!

 

0:ガラスが割れる音。千陽が倒れる

 

凛:え!?千陽!?

凛:ね、ねぇちょっと!大丈夫!?千陽!!

 

未夢:大丈夫。千陽さんは気を失ってるだけ。

 

凛:未夢?

 

紫:千陽さんについては心配しなくても大丈夫よ。あれは、副作用みたいなものだから。

 

凛:副作用...?

 

悠:ええ。千陽さんはお代を支払っただけです。命に別状はありません。

 

凛:お代?あんた達一体何言って...

 

アラン:すみません、言うのを忘れていましたね。うっかり失念していました。

 

凛:あんた、、夜の…

 

アラン:みんなもう大丈夫ですよ。お疲れ様。

 

未夢:っ!マスター!

 

悠:あっ、未夢ずる!俺も!

 

アラン:おっと。ははっ、2人ともお転婆ですね

 

未夢:マスター!未夢上手だったでしょ!?頑張ったの!

 

悠:はっ!未夢なんていつもと変わらなかっただろ?マスターは俺の方が頑張ったって思いますよね!

 

未夢:は?調子乗らないでよ猫かぶり

 

悠:は?喧嘩なら買うよ?

 

アラン:こらこら2人とも。

 

凛:...なにこれ、ほんとに未夢なの...?

 

未夢:『木之本未夢』は捨てられた時に死んだの。今の未夢はただの未夢。マスター達の家族です。

 

アラン:巻き込んでしまってすみません凛さん。ですが、千陽さんには貴方の言葉が1番響くと思ったので。深夜急に押しかけてきたことはびっくりしましたけど、おかげで上手く行きました。

アラン:嬉しかったでしょう?自分の言葉で他人を救えたこと。

 

凛:ちょっと待って.........状況が読み込めない。そもそもマスターってあの紫って女の人じゃ...

 

紫:私(わたくし)がマスターなど、おこがましいにも程がありますわ。まぁ今回はマスターからのご指名でしたので、のくにのききれなかったですけれど。

 

アラン:ボクは楽しかったですよ?マスターの秘書になれたこと!

 

紫:やめてくださいませマスター!私(わたくし)は貴方様にマスターと呼ばれること自体、とてもむず痒かったですのよ!

 

アラン:ふふっ、紫は反応が可愛いからついからかいたくなる。

 

紫:もう......!

 

アラン:優馬も。色々気難しい役回りをさせちゃったよね。ごめんね?

 

優馬:いいよ。でも次はおネエ以外がいいかな。さすがにキツイものがあるよ...

 

悠:優馬のマリー、こっちは笑いを堪えるので大変だったからね。『可愛いわ未夢ちゃーん!』ってさw

 

優馬:それ以上からかわないで貰えると嬉しいなぁ〜悠?

 

悠:うるさい。じゃんけんで負けたんだから文句言わないでよね

 

凛:もう訳わかんない......頭痛くなってきた...

 

アラン:あはは、すみません。では手伝ってくれたお礼に1つ、なんでもご質問に答えますよ。

 

凛:…ここは、自殺願望者に死に際を提供する場所じゃないの?本当の目的は何?

 

アラン:おや、そこが気になりますか?守秘義務があるのですが…、なんでも答えると言ったのはボクですしね。いいでしょう。

アラン:ここは確かに自殺願望者に死を提供する場所ですよ。『死にたいと言う人』を殺すためのね。千陽さんが先程倒れたのは、お代を支払ったからです。

 

凛:お代?

 

アラン:えぇ。『死にたい』という千陽さんを殺しましたから。お代として、『死にたいと願った飯塚千陽の命』をいただきました。目が覚めた時には、自殺願望は無くなっていることでしょう。

 

凛:そんな魔法使いみたいな芸当出来るわけが...いや、さっき目の前で見たんだった。

 

アラン:ご納得いただけたようで何よりです。

 

凛:じゃあ、あんた達のよく分からない演技にもなにか意味があるわけ?

 

アラン:答えたいところですが、回答するのは1つだけという約束なのでそれについてはノーコメントです。

 

凛:分かった。未夢も、あんた達のやってる事に納得して一緒にいるのよね。

 

未夢:うん。未夢はマスターが拾ってくれた時から、マスターのために生きるって決めたから。後悔してない。

 

凛:...そう。なら、私が無理やり連れ戻しちゃ駄目だね。未夢はもう、私達とは違う家族を見つけたから。

 

未夢:でも忘れないで、『木之本未夢』は、確かに木之本凛の家族だったから。

 

凛:そっか...。それが聞けただけで十分。今までありがとう、そしてさようなら。未夢。

 

未夢:うん。元気でね、『お姉ちゃん』

 

千陽:(目が覚める)......あれ、私なにして...

 

アラン:(テンションを戻して)あっ!お目覚めになりましたか千陽さん!

 

千陽:うそ...私寝てた!?ごめん凛さん!

 

凛:別に......

 

千陽:そうだ!あの紫さん。今更おこがましいかもしれないんですけど、私もう少し生きてみようかなって...

 

紫:そうなの?なにか心境の変化でもあった?

 

千陽:もう少しだけこの世界で足掻いてみたくて...。色々準備してくれたのに本当にごめんなさい!

紫:貴方の人生なんだから、貴方の選択は何も間違ってないし、誰も文句を言う権利はないわ。頑張ってね。

 

千陽:ありがとうございます!未夢も悠もごめんね...

 

悠:姉さんが...いや、千陽さんがそう言ってくれて少し嬉しくなってる僕もいますから。

 

千陽:ありがとう。なんか変な感じ。なんだか自分が生まれ変わったみたいなんだ。憑き物が取れたって言うか、すっきりした気がする。

 

凛:じゃあ行くわ。ちゃんと千陽も連れてくから。

 

千陽:ありがとうございました!

 

紫:ええ。それじゃあ。

 

アラン:達者で〜!

 

 

 

優馬:…あの子たち、元気に過ごしてくれるといいね。

 

アラン:そうだね。

アラン:じゃあ今回はこれにて閉幕。みんなお疲れ様。次はどうしようか?

 

未夢:はいはい!次は未夢がマスターする!

 

悠:未夢にマスターの代わりが務まるとは思えないけど?

 

未夢:悠だって務まんないと思うけど?『姉さん』だって!笑いこらえるの大変だったんだから。あの悠がおどおどしてるとか!思い出すだけでも笑いが...!ぷぷっ!

 

アラン:こらこら、それくらい悠の演技が上手だったってことだよ。さすがだね悠。

 

悠:でしょマスター!!ふふん

 

未夢:んむむ......ふんっ!

 

紫:私(わたくし)はどうしましょう…

 

アラン:今までのカルテを確認してみる?まだやった事のないタイプの性格が残ってるんじゃない?

 

紫:…マスター。その、そろそろお戻りになっては?その、いつものマスターではなくてずっと反応に困っているのです。

 

アラン:紫は、この姿のボクは愛せない?

 

紫:そうは言ってませんわよ!どんな姿のマスターだって私(わたくし)のマスターなのですから!

 

アラン:ごめんごめん。からかい甲斐があるからついね。でもそろそろ彼にも悪いし、名残惜しいけど戻ろうか。

  

0:アランが12歳程の身体に変わる。煙が出てる感じ。音があると良

 

アラン:(ここから声若干幼くしてくれると◎)ふぅ…!ありがとうね。少し無理させたすぎたかな。

 

優馬:死にたがり秘書の魂であんなはっちゃけられるのアランくらいだけどな。表情筋とか大変だっただろ。

 

アラン:確かに少し笑いづらかったかなぁ。次はよく笑う子にしよっか。

アラン:そうだ!千陽さんの魂を使ってみよっか!笑った顔は実に可愛らしかったよ!

 

悠:はいストップマスター。

 

未夢:年頃の女の子使うの、めっ

 

アラン:そう?いい案だと思ったんだけどなぁ。

 

紫:これで30人目。随分と集まりましたわね。

 

未夢:うん。未夢たちが頑張って、色んな人を助けた、未来を救った数。

 

アラン:でもまだこれだけ。もっともっと救える人はいるはず。

アラン:この世には死にたくなくても死を選ぶ人で溢れてる。それを無くすのがボク達の使命だ。

 

紫:今ある生をめいっぱい、ですわね

 

悠:面白くないこともいっぱいあるけど、でも、マスターと優馬が決めたことなら

 

未夢:うん。マスターがそうするって決めたなら、未夢達はそれについて行くよ。

 

紫:ええ。それが救われた私(わたくし)たちができる精一杯のお返しですもの。

 

優馬:俺たちはお前の脚本に従うよ。それが役者の仕事ってもんだろ?

 

アラン:優馬、未夢の過去を掘り下げたのも脚本のひとつだったっけ?

 

優馬:それは…いいじゃん別に!結局いい方向に転んだんだし!

 

アラン:嘘嘘、そこまで怒ってない。それに今考えれば、あれが未夢にとって最良の選択だったわけだし。僕は未夢が後悔してないなら

 

未夢:マスター。さっきも言ったけど、未夢は今、皆と一緒にいるほうが幸せだからね。悠はそんなことないかもだけど…

 

悠:は?別に未夢が居てもいなくても変わんないし

 

優馬:でも居た方がいいんでしょ?

 

悠:……うるさい!

 

優馬:素直じゃないなぁ。

優馬:とりあえず!今日の公演は大成功だったってことで!打ち上げしよっか!何食べたい?

 

アラン:僕はなんでも。1番の功労者は悠と未夢だから、今日は2人のリクエストに沿ったげてよ

 

悠:肉

 

未夢:未夢はえっと、、ピザが食べたい!

 

優馬:了解。すぐに取り掛かるからみんなはゆっくりしておいで

 

紫:手伝いますわ

 

優馬:ほんと?ありがとう

 

未夢:未夢着替えてくるね。

 

悠:僕も。新しく買ってもらった服汚したくないし

 

紫:私(わたくし)もエプロンを取りに行ってきますわ

 

優馬:行ってらっしゃい

 

 

アラン:…優馬、凛さんにこの館のことを話したの、失敗だったかな

 

優馬:まぁ確かに、いつものお前らしからぬ行動だったな。いくら未夢ちゃんの姉だっていっても部外者なことに変わりはないんだし。

 

アラン:だよね………。あぁ!やっぱあそこで閉め出しとけば良かったかも!脚本も少し狂ったし……。

 

優馬:でも、『全員救う』っていうお前の信念には沿えてたんじゃないの?

 

アラン:……そっか。優馬はそう捉えてくれるんだね。それならまぁ…いっか。

 

優馬:ああ。お前はずっとそれでいいよ。

優馬:で?1番の功労者様は何が食べたかったんだ?遠慮せず言ってみろ

 

アラン:………疲れたから甘いもの。

 

優馬:ブラック派のお前が?

 

アラン:なんでも言って良いんでしょ?ホールケーキにしてよ。3段の

 

優馬:3段て、、お前なぁ…

優馬:はいはい、仰せのままに、マスター?

花より桜餅

さくらもちの台本置き場 未完結ものアリ〼

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