「フラワーリング・デザート Another 花追い人」
【読み方】 「フラワーリング・デザート アナザー はなおいびと」
【あらすじ】
亜人の孤児であるアエラスは、ある日突然メリッサという人間に話しかけられる。差別されてきた彼を溶かしたのは、花を追うミツバチだった
出演人数:2人(男1女1)
時間:20分(推定)
配役
◆アエラス:【男】 スラム街を生きる亜人の子供
◆メリッサ:【女】 元気な人間の女性。アエラスを拾う
0:(以下、本文)
メリッサ:「そう辛気臭い顔をするな、こっちが加害者みたくなるだろう?」
アエラス:「別に、貴女のせいじゃないですよ」
メリッサ:「私はつまらない顔は嫌いなんだ。だから少年、君に問おう。」
アエラス:「はあ」
アエラス:(M)その出会いは、まるで砂漠に人喰いザメが出たかのように強烈だった
メリッサ:「君はどんな修羅場が好みかな?」
アエラス:「はい?」
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アエラス:(タイトルコール)『フラワーリング・デザート Another 花追い人』
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アエラス:修羅場…ですか?
メリッサ:そう修羅場。…修羅場って知ってる?
アエラス:言葉としてなら。いや好みの修羅場ってなんですか
メリッサ:ちなみに私の好みは、記念日パーティーにサプライズで彼女が彼氏の浮気相手と共に現れるシチュだ。冷静になった女性達は怖いぞ
アエラス:こっわ。浮気した方が100悪いけど怖すぎ
メリッサ:ああ、本当に、怖かった………………
アエラス:実体験!?
メリッサ:そんなわけない。私は全ての女性を等しく愛している。失礼だぞ
アエラス:そっちなの!?
メリッサ:っく、くははは!欲しい通りの反応をするな!女性だけじゃない。私は全ての人類を愛している
メリッサ:愛しているから、笑顔以外の顔は嫌いなんだ
メリッサ:少年。なぜ君は今、笑っていない?
0:長い間
アエラス:さあ?人間サマに言っても分からないんじゃないですか?
メリッサ:私が人間だと断定する理由は?
アエラス:そんな傲岸不遜な態度を取っていたら嫌でも
メリッサ:そういう君は亜人だね?人間を嫌い、敵対視するその目、血の気に満ちていて実に私好みさ
メリッサ:名前は?
アエラス:……教えたくありません
メリッサ:そうか私の名乗りがまだだったな!
メリッサ:私はメリッサ。メリッサ・ゼフィーロだ。君の言う通り、私は人間だよ。種族の壁を気にしたことは無いけどね
アエラス:………………
メリッサ:どうした?私の次は君が、と相場は決まっているだろう?
アエラス:…貴方が教えたからと言って、僕が答える理由はないです
メリッサ:はっはーん。反抗期だ。年頃といえば年頃だもんな
アエラス:そんなわけないじゃないですか!初対面の知らない人に名前を聞かれてホイホイ言うわけが無いでしょう
メリッサ:ふむ
メリッサ:私は名乗った、君と話した談笑もした。
メリッサ:なら、私と君はもう友達だ!友達なら名乗らないと、ね?
アエラス:…………(ため息)無い。名前なんか
メリッサ:ふむふむ、君の面倒を見てくれる人や、よく話す友人は?
アエラス:……それもいない
アエラス:もういいですか?僕のことを見下して笑って、満足したでしょ。今すぐ目の前から……
メリッサ:(遮る)じゃあ何も問題ないな!ほら、行くぞ!
アエラス:は?いきなりなんですか。
メリッサ:ん?だから、私と一緒に帰ろう
メリッサ:帰ろう…はちょっと違うか……?いやでも私の家だしな……
アエラス:なんですか。まさか奴隷として僕を売ろうとでも?流石、高尚な方は考え方が僕たちとは違う
メリッサ:売る?どうしてそう考えるんだ?
メリッサ:私はただ、君と家族になろうと思ってるだけだよ
メリッサ:ああいや、いきなり家族は馴れ馴れしすぎたかな。じゃあ友達!友達でいいから!
アエラス:馬鹿馬鹿しい。亜人と友達になろうなんてこと言う人間どこにもいませんよ
メリッサ:私がいるだろ。そんなおかしいこと?
アエラス:だから、普通人間が亜人と友達になんか……
メリッサ:その「普通」ってさ、何を基準にしてるの?
メリッサ:私より前に出会った人がそうだったから普通なの?出会った人の半数がそうだから「普通」なの?私がどんな言葉や態度をとっても、「普通そう考えるから」で私を決めつけるの?
アエラス:それは……
メリッサ:私が見たことない人と同じ思想と思われているのは非常に心外なんだが。少なくとも私は君のことが気に入ってるよ?
アエラス:変な人
メリッサ:知ってる!
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メリッサ:さて、なんにしてもまずは君の名前からだ。そうだな…………
メリッサ:アエラス!アエラスにしよう!風って意味、私のゼフィーロと同じ意味だ!
アエラス:アエラス…………
メリッサ:嬉しそうな顔してるからこれで決定!
メリッサ:アエラスは今までどんな生活を送ってきた?
アエラス:……スラムの生活は知ってますか?
メリッサ:聞いたことはあるよ。廃棄された食べ物を食べたり、井戸の水で体を洗ったり、だったかな
アエラス:その生活の方がまだマシですよ。まともな食べ物なんて食べられない。その辺に生えている雑草が主食でした。身体だって、雨が降らないと洗えない
メリッサ:じゃあとりあえず、帰ったらお風呂とご飯だな!肉にしようか!ああでも、いきなり入れると胃がびっくりするか
メリッサ:スープにパンを浸したものならどう?
アエラス:僕に選ぶ権利なんて
メリッサ:あるんだよ!それが普通であるべきなんだ!それともお肉の方が食べたい?
アエラス:…………白パンが、食べてみたい
メリッサ:もちろん!美味しい店を知ってるんだ!たくさん買って帰ろうな!
アエラス:白パンは高いと聞きました!僕なんかのために買ってもらう訳には
メリッサ:アエラス
メリッサ:そういう時は、「ありがとう」だ
メリッサ:断られるより、感謝された方が私は嬉しい
アエラス:………………ありがとうございます
メリッサ:うん!いい子だ
アエラス:(M)やや乱暴に頭をかき混ぜる手も、その感触に温かいと感じたのも、初めてだった
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メリッサ:アエラス!風呂は湯を使えと言っただろう!暑いとはいえ身体が冷えるぞ
アエラス:でも、僕にお湯はもったいないです
メリッサ:勿体なくあるか!使えるものはなんっでも使っておけ!我慢するのは私が頭を抱えだしてからでいい!
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メリッサ:今日はアエラスがうちに来て1ヶ月の記念日だ!ほらほら〜、奮発して良い肉を買ってきたぞ〜!!
アエラス:こんなに食べきれません
メリッサ:残った分は私が食べるから!ちなみにまだあるから、残そうなんて遠慮はいらないよ
アエラス:…………いただきます
メリッサ:たんと食え!
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アエラス:今度はどこに?
メリッサ:ずっと西の方の海鮮が美味しいらしいんだ!久しぶりに魚を食べまくるぞー!
アエラス:……あの
メリッサ:ん?
アエラス:メリッサはどうして旅商人なのに僕を拾ったんですか
メリッサ:なんで?
アエラス:なんではこっちのセリフです。日によって稼げる額の差もあるし、旅商人なら国を渡り歩いて過ごしてるはずなのに、どうしてか定住する家がある。
アエラス:……変なんです。変だとどうしても思ってしまう。
メリッサ:(即答するように)だって帰る家欲しいじゃん
アエラス:え
メリッサ:「行ってきます」って言ったら「行ってらっしゃい」って返ってきて、「ただいま」って言ったら「おかえり」って返してくれる。そんな人生がいい。
メリッサ:それはさ、必ずしも人じゃなくていいんだ。無条件に自分を受けいれてくれる所が欲しいだけ。家や家族、友人、色んな「返事」があって成り立ってる。その場所を、私は大切にしたい。
メリッサ:もちろん旅はいいよ?知らないものに、場所に、人に出会える。
メリッサ:でもそれはとても刹那的だから。商人である以上、旅をしている以上、別れというものは必ず訪れる。絶対にもらえる返事が欲しいんだ。
アエラス:(M)「私は寂しがり屋だからね。」
アエラス:(M)だから僕なんかを拾ったのか。そう答えるのは*憚《はばか》られた。言えばメリッサが悲しむのが分かりきっていたから
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アエラス:メリッサは、ミツバチっていう意味なんですって。さっきのお客さんが言ってました。
メリッサ:私は花追い人だからね
アエラス:どういう意味ですかそれ?
メリッサ:額面通り、花を探してる。でもそれは言葉通りの花じゃない
アエラス:???
メリッサ:花はお前だ。アエラス
メリッサ:この世界は、環境のせいで咲けない子達が多い。亜人と人間なんて、目の色が違うくらいだろう?
メリッサ:私がそういう子達を咲かせてあげたい。そのために生まれて、この名を授かったと思っている
メリッサ:……なんて、ちょっとカッコつけすぎたか?
アエラス:いや、メリッサらしいと思う。それに、そういうメリッサに僕は助けられた
メリッサ:助けたとは思ってないよ。私のわがままに付き合ってくれた。傍から見ればほぼ拉致みたいなもんだろう。それでも君は私について来てくれた。お礼を言うのは私のほうさ
アエラス:どういたしまして
メリッサ:なんだそのどもったような言い方は!さては照れてるんだろ。照れてるんだな?ふぅん?
アエラス:うざ!言わなきゃ良かった!
* * *
0:冬、アエラスが風邪をひいて寝込む
アエラス:……………ごほっ
メリッサ:大丈夫かアエラス。水は飲めるか?
アエラス:はい…………。
アエラス:僕に構わず行って。ご贔屓様でしょ?行かないと大損になる
メリッサ:北の最果てだ。少なくとも行き帰りで半年かかる。長い間お前を置いて行くのは……
アエラス:いいから!こんな風邪、寝ればすぐに良くなるよ。メリッサは今ある商談を優先するべきだ
アエラス:路地で何年も生きてきた奴が、風邪ごときで死ぬと思わないでよね
メリッサ:………………
メリッサ:絶対に、無理はするな
アエラス:了解
アエラス:(M)宣言とは裏腹に、熱は日に日に高くなった
アエラス:(M)全身が焼けるように熱く、身体の芯は凍えるように冷たい。節々が痛む、視界が霞む
アエラス:(M)あぁ、1人はもう慣れていたはずなのに
アエラス:(M)どうしようもなく寂しいと感じる
アエラス:……………早く戻ってきてよ、メリッサ
アエラス:(M)その言葉は、とうの昔に飲み込んだはずなのに
0:* * *
アエラス:(M)次に目が覚めると、己の身体が別人に変わったかのようだった。己の知らない何かが備わった、そんな感覚。
アエラス:(M)街中では、1つの話題で持ち切りだった。「亜人が力を得た」と。
アエラス:(M)己に降りかかった事象は、亜人全てに起こったものらしい。曰く、高熱に犯され目が覚めると、何かしらの能力を手にしていたと。
アエラス:(M)ある者は腕力を、ある者は歌声を、ある者は成長を、僕は記憶を。己の欲しいままにできる能力を授かった。
アエラス:(M)亜人が力を得ることはすなわち、立場関係の向上にほかならない。その能力を金を稼げる手段とできる
アエラス:稼げる……?僕もメリッサの力になれる…!
アエラス:(M)次帰ってきた時に驚かせてやろう。少しでもこの天からの授かり物の力を使えるようになっておこうと、必死に努力した。
アエラス:(M)能力がある程度使えるようになったら記憶の買い取りを始めた。良い感情の記憶は買い取り、悲しい記憶には金を貰った。失恋や死別での痛みは高値で売ってもらえた。
アエラス:(M)換算したら1週間の生活費にもならない。でも、自分で稼げるという事実がどうしようもなく嬉しかった。
0:ドアが開く音
アエラス:!メリッサ!!おかえり!僕………
メリッサ:や、やぁ…ただ、いま…………
アエラス:………………え?
メリッサ:ごめん………ちょっとしくじった
アエラス:メリッサ…?矢が………誰がこんな…、急いで手当…いや、すぐ神殿に!
メリッサ:ごめん……ごめんな、アエラス……
0:* * *
アエラス:お金が、足りない……?
メリッサ:矢は抜いてもらえたし、縫合もできたけど、そこが限界だったみたいだ。これでも結構やって貰えたんだよ
アエラス:あとどれくらい必要なの。
メリッサ:……………
アエラス:ねえ!いくら!
メリッサ:1年分
メリッサ:都市の生活費の、1年分だ。こっちより相場が6割程高い
アエラス:なん、で………………
メリッサ:…毒だ。矢には毒が塗られてあったんだよ
アエラス:なっ……誰がそんなこと!
メリッサ:分からない。どこだか分からない場所から射られたんだ。得意先の土地だったから油断していた。あそこは、亜人差別が酷いところだった。少し前に起きた騒動で余計にヒリついていたらしい。
アエラス:じゃあ、メリッサが襲われたのは、僕を拾ったからなんじゃ………
メリッサ:(遮る)いいや!それは違う。それは違うよ、アエラス。きっと流れ弾に当たっただけだ。
アエラス:でも!肩を狙ったってことは明確な悪意がある!
メリッサ:違うよ、違う。そんな苦しそうな顔をしないでくれ。
メリッサ:大丈夫だ。寝れば治る。神殿も、やれる限り力は尽くしてくれたんだ。きっと
0:* * *
アエラス:何が寝れば治るだよ。どんどん悪くなっていくじゃん……
メリッサ:いや………、今日はよく話せそうな気がする。大丈夫だ
メリッサ:それよりも、自分の力で稼げるようになったんだって?すごいじゃないか
アエラス:治療費の1割にも満たないはした金だ。こんなの意味無いよ
メリッサ:意味が無いわけが無い。金は大事だ。生きていく上でどうしても必要になる
アエラス:でも!今メリッサを助けられなければ意味が無い!!
メリッサ:あるよ。稼ぐ手段を学んだ。それだけで意味があるんだ。お前が生きるために必要なことを学んだんだ。本当は私が教えなければいけなかったんだがな……
メリッサ:大丈夫だ。アエラスは私が居なくてもちゃんと生きていける。
アエラス:何それ。勝手に居なくなってもとか言わないでよ。早く治してよ、行かなきゃいけない場所まだあるよ、今度海を渡った向こう側に連れてってくれるって約束したじゃん!!!
メリッサ:泣くな…………
アエラス:泣いてない!
メリッサ:こんな時に、バレバレの嘘をつくんじゃないよ………。笑え。笑った顔が私は好きなんだ。
0:(震えながら必死に笑みを浮かべる)
アエラス:……………
メリッサ:……ははっ、へったくそだ、なぁ…!
アエラス:(M)久しぶりに笑った顔を見た。
アエラス:(M)違う、見ようとしなかっただけでいつも僕の前では笑顔でいようとしていた。それが痛々しくて、見れなかっただけだ。
アエラス:(M)逃げたのは、紛れもなく僕だった
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アエラス:ただいま。ごめん、今日も全然ダメだった。
アエラス:村のみんなってばさ、酷いんだよ。亜人がする商売はやっぱりきな臭いって。スキルが僕たちを変えてくれたと思ったけどさ、それでも変わんないみたい
アエラス:稼げなきゃ、こんなスキルあったって仕方ないのにね
アエラス:次はもう少し離れたところに行ってくるよ。メガネもさ、買ってみようかな。目の色さえ変えたら気づかれないんじゃないかなって思うんだ。それ以外はほとんど何一つ変わらないんだしさ
メリッサ:・・・・・・
アエラス:ねぇメリッサ
メリッサ:・・・・・・
アエラス:返事してよ
メリッサ:・・・・・・・・・
アエラス:僕を、置いていかないでよ……!!
アエラス:ねぇ!メリッサ………!!!
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アエラス:(M)交配をしてくれるミツバチはもう居ない
アエラス:(M)こんな気持ちになるのなら、初めから出会わなければ良かった
アエラス:(M)出会わなければ、温かさを知らずに過ごせたのに
アエラス:(M)こんな気持ちになるのなら、こんな思いを*遺《のこ》していくのなら、
アエラス:そんな記憶なんて、もういらない。
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アエラス:(M)悲しみも、苦しみも、怒りも、全部消して楽しい記憶だけにすれば、そうすればずっと笑っていられる。
アエラス:(M)定住することなく移動し続ければ、特定の誰かに思い入れを持つこともない。
アエラス:(M)笑え。笑え。彼女がずっとそうしてきたように、笑顔以外の記憶など売ってしまえばいい。それすら金に変えたらいい。
アエラス:(M)彼女もきっと、それを望んでる
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アエラス:大丈夫ですか?お疲れのご様子でしたからつい。僕でよければなにか力になりますよ
アエラス:申し遅れました。僕の名前はアエラス・ゼフィーロ。しがない、ただの旅商人ですよ
アエラス:ところで、どうやら貴方は亜人のご様子。まとまったお金が欲しくはありませんか?
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アエラス:(M)枯れて砂と化した花は、もう咲くことは無いだろう。
アエラス:(M)けれどもし、もっと貴方と共に在れたならば、僕も花を追う人になれたのだろうか
アエラス:(M)誰かを咲かせられる、水になれたのだろうか
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