「逝きめぐりても逢はんとぞ思ふ」おまけ②

本文を読む前にこちらの作品をご一読ください。

ここでは本編で語られなかったそれぞれの視点の小話や来世でのわちゃわちゃスピンオフ、さらには制作秘話などをこぼしていきます。②はスピンオフ

 

 

【声劇版】

小春:秋人おまたせー!何読んでるの?

秋人:小春か、雑誌。

小春:秋人が雑誌なんて珍しいね。好きな記事でもあった?

秋人:まぁちょっとな。

小春:へぇー私にも見せてよ。

秋人:見ても面白いものなんてねぇよ。

小春:いいからいいから!んーっと……、時計店特集に、健康特集?なんか…渋いね?

秋人:そう思うなら返せ。

小春:待ってよ!まだ見るってば!

秋人:ったく、汚すんじゃねえぞ。

小春:そんな事しないって!

 

 

小春:でも秋人すっごい熱心にどこか読んでたけどな……。ん?これって…。なーんだ。そういうことか。秋人ってば、なんだかんだで恥ずかしがり屋なんだから。よし!なら私がお膳立てしてあげなくちゃね。

 

  

* * *

 

 

夏樹・真冬:スイーツバイキング?

小春:そ!みんなで一緒に行かない?

夏樹:なになに…、『男女ペアでさらにお得に』?

小春:そういうこと!みんなで一緒に行こうよ〜!ちょうど男女2人ずつで行けるじゃん?

真冬:確かに!とっても美味しそうだし、私も行ってみたいな。

夏樹:僕は甘いものはあんまり食べないんだけど…でも、真冬が行きたいなら僕も行くよ。

真冬:ありがとうお兄ちゃん!

小春:夏樹も行くんだから秋人もだよ!

秋人:俺もかよ…

小春:お願い!一生のお願い!

秋人:小春の一生のお願いとか、これで聞くの何回目だ?

小春:うぅ……

秋人:はぁ……、今回だけな。

小春:ほんと!?やった!ありがと秋人!大好き!

夏樹:なんだかんだで、秋人は小春ちゃんのお願い何時も聞いてるよね。

真冬:小野くんは優しいもの。本人は否定してるけど。

秋人:何か言ったか?

夏樹・真冬::ううん何にも?

秋人:お前ら双子は返事も揃うのな。

小春:みんな〜!早く日にち決めちゃおー?

秋人:いくらなんでも早いだろ…

夏樹:まぁまぁ。小春ちゃんの好きにさせてあげなよ

 

 

***

 

 

小春:あっ!夏樹ー!真冬ー!こっちこっち!

夏樹:おはよう2人とも。

秋人:……はよ。

真冬:あれ、なんだか小野くん眠そう…?

小春:あはは…、私が待ちきれなくて早めに秋人の家に行っちゃって…

秋人:小春早すぎんだよ…まぁ、俺が夜なかなか寝付けなかったってのもあるけど。

夏樹:てことは2人一緒に来たんだ。仲良しさんだね。

小春・秋人:幼なじみなんだし普通じゃない(か)?

夏樹:小春ちゃんと秋人もどこかズレてるんだよね…

真冬:2人が気にしてないならいいんじゃない…?

小春:早く行こ!ケーキ無くなっちゃう!

秋人:無くなんねぇから走るな、転んだらどうすんだ!

 

 

* * *

 

 

店員:4名でご予約の楠本様ですね。お席にご案内します。

真冬:わぁ!見て見てお兄ちゃん!ケーキがあんなに!可愛い…!

夏樹:ほんとだ。このサイズなら沢山食べられそうだね。

秋人:ケーキだけじゃなくて簡単な食事もあるんだな。飽きがこないようにってことか。

小春:3人ともこっちこっち!

 

 

小春:真冬!早く行こ!

真冬:待って小春。お兄ちゃん達は?

秋人:荷物見ててやるから好きに取ってこい。

夏樹:僕ももう少し後に行くから、2人でゆっくり見ておいで。

真冬:わかった。行こ小春。

小春:うん!

 

 

 

小春:うわ〜!全部美味しそう!

真冬:何から食べようか迷っちゃうね。

小春:ん〜……、これと、これとこれと、あとこれも…!

真冬:こ、小春!ちょっと取りすぎなんじゃ…

小春:あ……えっと真冬、実は…

 

 

 

真冬:そういうことだったんだ。

小春:お願い!2人には内緒にしてて!

真冬:もちろん。小春は優しいね。そういうところ尊敬する。

小春:ううん。これだって自分勝手にやってるだけだし、ほんとに喜んでくれてるかどうかも分からないし…

真冬:そんなことないよ。小春の気持ち、きっとわかってくれてると思うな。

小春:……だったら、いいんだけど。

 

 

* * *

 

 

小春:お待たせ〜!

真冬:色んなのがあって迷っちゃった。

夏樹:おかえり2人とも。好きなのあった?

秋人:小春お前それな………

小春:き、気になったの取っていったらこんなになっちゃって!秋人もたべない!?

秋人:(深いため息)

小春:ご、ごめん……やっぱり迷惑だったよね…。ちゃんと全部食べるから、残したりなんかはしないから安心して…

秋人:誰が食わないって言った。スープ取ってくるから待ってろ。しょっぱいもの、あった方がいいだろ。

小春:………!うん!

 

 

* * *

 

 

真冬:はいお兄ちゃんあーん!

夏樹:真冬…?僕自分で食べれるから…

真冬:あーん!

夏樹:あ……、あー、ん…

真冬:んふふ!これするの小学生以来だね

夏樹:もう……。恥ずかしいからこれ以上はダメだよ。

真冬:はーい。

小春:ふふっ

真冬:小春?どうしたの?

小春:ほんとに仲良しだよね夏樹と真冬!周りのお客さん皆2人に注目してるよ。

夏樹:えっ!?そんな恥ずかしいな…

秋人:無自覚に見せつけんな。こっちが恥ずかしくなんだろ。

夏樹:秋人まで見てたの!?忘れてよ…

秋人:忘れたくても忘れられねぇよ。ほら小春

小春:ありがと秋人。あ!これ私の好きなやつ!覚えててくれたんだ!

秋人:毎回好きだ好きだ言ってたら嫌でも覚えるわ

小春:えへへ…

 

 

小春:ん!これ美味しいよ秋人!食べてみない?

秋人:ん?………あぁ、たしかに美味いな。

小春:でしょ!気になったのあったら言ってね!持ってくるから!

 

 

夏樹:2人だって人のこと言えないじゃん…………

真冬:自然すぎて違和感なかったね。なんだか微笑ましい。ほら見て、お客さんが今はみんな小春達に注目してる。

夏樹:それに気づいてないのは、2人らしいけどね。

 

 

* * *

 

 

小春:はぁ〜!おいしかった〜!!!

真冬:さすがに全種類は食べられなかったけど、全部美味しかったね。

秋人:女子ってなんであんなにケーキ食えんだろうな…

夏樹:そういう秋人だって結構色々食べてたよね。この中じゃ1番食べた方じゃない?

秋人:俺はケーキ以外にも色々食ったからな。ケーキだけをあんなに食えるのが驚きだわ。

夏樹:まぁ…それはそうかもね…

秋人:夏樹はあんま食ってなかったな。

夏樹:僕は真冬が食べてるところ見てたら結構お腹いっぱいで…

秋人:お前皮と骨しかないんだからもっと食えよ。じゃないと何時か倒れるぞ。

夏樹:うん…頑張ってみる。

小春:秋人ー?置いてくよ?

秋人:すぐ行くから待ってろ!じゃあな夏樹。

夏樹:うん。またね。

小春:じゃあね真冬!夏樹も!

真冬:うん。また学校で。

秋人:じゃあな平野。

 

 

夏樹:僕達も帰ろっか。

真冬:うん。また行こうね。今度は2人ででも!

夏樹:はいはい。真冬の仰せのままに。

 

  

 

秋人:小春、今日はありがとな。

小春:え?な、何のこと?

秋人:俺があそこに行きたかったけど行きずらそうなの知っててわざと誘ったんだろ。

小春:なんでわかって…

秋人:小春が取ってきたケーキ、俺の好きなやつばっかりだった。そんなんさすがに気づくわ。

小春:あはは…バレバレだったんだ…。

秋人:でも嬉しかった。俺の好きな物、小春はなんでも知ってるんだな。

小春:秋人だって私の好きな物なんでも知ってるじゃん。

秋人:んなの、幼なじみなんだから分かるだろ。

小春:でしょ?私もそういうことなの。

秋人:……そうかよ。

小春:…また行こうね。一緒に!

秋人:ったく、仕方ねぇな。

 

 

Fin

  

 


 

 

 

【小説版】クオリティは低いの許して

 

下校前のチャイムが鳴り響く廊下から、女子生徒がパタパタと音を立てて教室に入ってくる。額に薄く汗をかき、息遣いが少しだけ早くなった小春は、一度落ち着かせるためにドア前で止まり呼吸を整えた。

彼女の目的は幼なじみである秋人と共に帰ること。待たせている身であるから早く見つけねばと思っていたが、幼なじみを見つけるのは至極容易だった。

人気の無くなった放課後の教室にぽつんと一人秋人が座っている。初夏の涼しい風が窓辺から柔らかく入り込んでいた。少し強い風にあおられて、秋人が手にしていた雑誌の重ね合った部分がパラパラと音を立てた。

余程集中していたのか、秋人はその音すら耳に入っていないほど、雑誌の中にあったとある記事を凝視している。だが、小春からは秋人の背中がちょうど被っていて中身が何なのかは分からなかった。

この様子だと走ってきたことも気づいていないだろう。と小春は歩きながら秋人に声をかけた。

 

「秋人お待たせー!何読んでるの?」

 

小春が呼ぶと秋人が少しだけ体をビクつかせた後ゆっくりと振り向いた。同時に雑誌は反対にすぐさま閉じられる。

 

「小春か、雑誌だよ。」

「秋人が雑誌なんて珍しいね?見たい記事でもあったの?」

「まぁちょっとな。」

「へぇー、私にも見せてよ。」

 

秋人は活字をよく読んでいるイメージが強く、写真の多い雑誌を読んでいる姿をほとんど見たことがなかった。そのため小春は秋人がベージがめくれる音も自分が出した靴音も気づかぬほど見つめていた記事が気になって仕方がない。

見ても面白いものなんてねぇぞと秋人が言うが小春はいいから!とやや強引にその雑誌を取り上げた。表紙から数ページめくり特集の部分を見ると、おおよそ男子高校生が読むとは予想がつかないくらいに読者の年齢層が高そうな記事ばかりだった。

 

「時計特集に……健康特集?なんか、渋いね…?」

「そう思うなら返せ」

 

思ったことがそのまま口に出た小春に秋人は呆れ顔で小春と雑誌を引き剥がそうと手を伸ばした。

 

「待ってよ!まだ見るってば!」

「ったく……汚すんじゃねえぞ。」

「そんな事しないって。」

 

小春の押しに弱いのか、秋人は呆れながらも雑誌を取り上げようとするのをやめた。帰んぞ、と自分の荷物をとって教室を出ていこうとする。小春は忘れ物取ってから行くから先に行ってて、と秋人を教室から出した。

小春はもう一度雑誌のページを開き、秋人が凝視していた記事を探し始めた。あれだけ秋人が興味を持っていたのだ。自分だって気になる。と小春は少しワクワクしていた。

 

「ん?これって…。」

 

何ページがめくり、ふととある小見出しに目がいった。それは秋人をよく知る幼なじみの小春にしか分からない小さな引っかかりのようなもので、けれど秋人をよく知る小春からすれば、そこから答えを導き出すのはひどく簡単だった。

 

「なーんだ。そういうことか。秋人ってば、なんだかんだで恥ずかしがり屋なんだから。

よし!なら私がお膳立てしてあげなくちゃね。」

 

小春が見つけたページには、美しく彩られた_____

 

 

* * *

 

 

「「スイーツバイキング?」」

 

金曜日の放課後、文学部の部室に集まっていた夏樹と真冬は、小春から見せられたチラシを見て同時に答えた。

小春が持っていたものは来月近所のショッピングモールに新しくオープンするというスイーツバイキングのチラシだ。

 

「そ!みんなで一緒に行かない?」

 

ほらここ見て!と小春は夏樹に右下に小さく書かれた吹き出しを見るよう指を指す。

 

「なになに…、『男女ペアでさらにお得に』?」

「そういうこと!みんなで一緒に行こうよ〜!ちょうど男女2人ずつで行けるじゃん?」

「確かに!とっても美味しそうだし、私も行ってみたいな。」

 

初めに食いついたのは真冬だった。やはり女子の多くはスイーツに目がないのか、チラシに写っていたケーキ達を見つめる瞳が爛々と輝いている。

ね、お兄ちゃん。とねだるような上目遣いを自身の実兄である夏樹に送る。このようにポーズを決めてお願いするのは、真冬が本当に行きたい証拠だった。無論真冬の脳内では夏樹と共に行くことが既に決定している。夏樹もそれをわかっていたし男女ペアはお得になるそうだから断る理由は特になかった。

 

「僕は甘いものはあんまり食べれないんだけど…でも、真冬が行きたいなら僕も行くよ。」

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

妹に甘い兄。夏樹は真冬のおねがいを断ったことがほとんどない。時間を置かずに快諾した夏樹に真冬は満足そうな表情を見せた。

2人の勧誘に成功した小春は、次いで真後ろで本を読んでいた秋人に声をかけた。

 

「夏樹も行くんだから秋人もだよ!」

「俺もかよ…」

 

勧誘する小春はやけに熱心に秋人を誘う。面倒くさそうな声を出して呆れながら秋人は本を閉じてチラシを見る。

なんで俺?男女ペアでお得になるじゃん!てことは俺は単なる数合わせか?そんなことないよ!?などと会話を続ける。あえて嫌味っぽく言う秋人に、夏樹は拗ねてるんだなと気づいてクスリと笑った。

 

「とにかくお願い!一生のお願い!」

「小春の一生のお願いとか、これで聞くの何回目だ?」

「うぅ……」

 

小さい時から同じように頼み事をしていたのか、まんまと揚げ足を取られた小春はぐうの音も出ないのか、ただ唸ることしか出来なかった。

そんな小春の様子に、秋人は罪悪感を感じてんん……と唸った。今にも泣きそうになっている小春を目の前に、秋人は大きなため息をついた。

 

「…………今回だけな。」

「ほんと!?やった!ありがと秋人!大好き!」

 

はしゃいで喜ぶ小春に、ったく。と呆れながらも笑う秋人。陽だまりのようなぽかぽかした空間に、夏樹と真冬も思わず笑みをこぼした。

 

「なんだかんだで、秋人は小春ちゃんのお願い何時も聞いてるよね。」

「小野くんは優しいもの。本人は否定してるけど。」

「何か言ったか?」

「「ううん何にも?」」

「…お前ら双子は返事も揃うのな。」

 

秋人は言葉こそきつい時はあれど、小春のことをとても大切にしている。それは今までの言動で夏樹も真冬も理解していた。本人は否定するが、秋人はとても優しい人なのだ。

秋人が親のように微笑む2人になんだと問いかけるが、双子の息ぴったりな回答に毒気を抜かれ大きな息をついて肩をおろした。

 

「みんな〜!早く日にち決めちゃおー?」

「いくらなんでも早いだろ……」

「まぁまぁ秋人。小春ちゃんの好きにさせてあげなよ。」

 

小春はもう待ちきれなさそうだ。オープンするのは来月なのに行く日を決めようと催促する。呆れる秋人に夏樹が笑う。真冬も既にスイーツモードのようだ。

4人の華やぐ声は、下校チャイムが鳴り響く直前まで、部室の中で続いていた。

 

 

* * *

 

 

「あっ!夏樹ー!真冬ー!こっちこっち!」

 

1ヶ月が経過してとある休日、4人は約束していたスイーツバイキングに行くため集合していた。夏樹達が集合場所に来た時には既に小春と秋人が待ち構えていた。

小春は白いTシャツに黒のサロペット姿、秋人はパーカーに緩めのズボンといったなにかと動きやすい服装だ。

一方夏樹と真冬は白と黒のシミラールック。アクセントとして小物にそれぞれ緑と青が入っていて華やかにまとめあげている。

 

「おはよう2人とも。」

「……はよ。」

「あれ、なんだか小野くん眠そう…?」

 

目元が重いのか、秋人は先程から何度か目をこすっている。真冬が気づいて不思議そうにしていると小春が苦そうに笑った。

 

「あはは…、私が待ちきれなくて早めに秋人の家に行っちゃって…」

「小春早すぎんだよ…まぁ、俺が夜なかなか寝付けなかったってのもあるけど。」

 

にしても早いわ、何時に寝た、んで何時起きだ小春。と秋人はジト目で小春を睨む。あ、あはは〜と小春は明後日の方向を見た。どうやらあまり寝ていないらしい。表情でバレバレだ。

 

「ったく……、だから歩いてる最中も反応薄かったのかよ。ちゃんと寝ろ。」

「秋人だって人のこと言えないじゃん!」

「2人とも落ち着いて」

「てことは2人一緒に来たんだ。仲良しさんだね。」

 

親のように叱る秋人と、むーっ!と睨んでいるとは到底思えないようなまんまるな目を秋人に向ける小春。本人たちは至って真剣のようだが周りからはじゃれあいにしか見えない。真冬たちが笑いながら止める。夏樹が少しからかうように小春達へ仲がいいんだなと告げた。その言葉に、2人は小競り合いを止めてさも不思議そうに答えた。

 

「え??幼なじみなんだし普通じゃない?/か?」

 

その言葉と同時に2人は全く同じタイミングで首を横にこてんと動かした。兄妹のやり取りのようなそれに、夏樹も真冬も思わず吹き出しそうになる。

何故笑いを堪えているのか甚だ疑問のようだった2人だが、小春がハッと何かを思い出し、ショッピングモールの方向へ走り出そうとした。

 

「早く行こ!ケーキ無くなっちゃう!」

「無くなんねぇから走るな、転んだらどうすんだ!」

 

バイキングなのだから無くなるわけがないのだが、それすら心配なのか早く行こうとする小春。それに秋人が心配しながら後を追う。

おいてけぼりにされた夏樹と真冬は2人同時にプッと小さく吹き出した。

 

「小春ちゃんと秋人も割とズレてるんだよね。」

「2人が気にしてないならいいんじゃない?」

 

自覚していないのが2人らしいと思いつつ、もう2人の背が小さくなっていることに気づいた夏樹達は小走りで駆けだした。

 

 

* * *

 

 

「4名でご予約の楠本様ですね。こちらへどうぞ。」

 

受付を済ませた4人は店員に案内されるまま店に入った。入口から見え隠れするケーキのショーウィンドウにチョコレートフォンデュのタワー、パスタなどの簡単な食べ物にその他果物など様々だ。

 

「わぁ!見て見てお兄ちゃん!ケーキがあんなに!可愛い…!」

「ほんとだ。このサイズなら沢山食べられそうだね。」

「ケーキだけじゃなくて軽い食事もあるんだな。飽きがこないようにってことか。」

「3人ともこっちこっち!」

 

カウンターを見ながら歩いていると既に席に案内された小春が早く早くと3人を急かす。よほど楽しみにしていたのか顔にスイーツとでかでかと書かれているような表情だ。その圧に押されて秋人達も直ぐに席に着いた。

 

「真冬!早く行こ!」

「待って小春。お兄ちゃん達は?」

 

席に着くやいなや早速取りに行こうと立ち上がった。真冬は夏樹達はどうするのかと聞く。

 

「荷物見ててやるから好きに取ってこい。」

「僕ももう少し後に行くから、2人でゆっくり見ておいで。」

「わかった。行こ小春。」

「うん!」

 

荷物番をかってでた夏樹達に甘え、小春と真冬は一直線にケーキコーナーへと向かう。

ショーケースの中には真四角の小さめのケーキがずらりと並んでいる。下の段には三角に切られたこれまた小さめのケーキ。種類はショートケーキからタルト、ムースまで様々だ。

 

「うわ〜!全部美味しそう!」

「何から食べようか迷っちゃうね。」

「ん〜……、これと、これとこれと、あとこれも…!」

 

目の中に星屑が入り込んでいるとおもうほどに目を輝かせながら、小春は皿へ次々とケーキを乗せていく。小春の顔より大きい皿がもう見えなくなるほどの勢いと取るケーキの多さに真冬は心配して止めに入った。いくら食べたいものが多くても残すことは客側のご法度だ。

 

「こ、小春!ちょっと取りすぎなんじゃ…」

「あ……えっと真冬、実は…」

 

真冬に止められた小春は、目線を真冬と自身の持つ皿とを移動した後、気まずそうに下を向いた。どうしたの?と真冬が尋ねると周りを気にしながら小さな声で真冬に耳打ちをした。

 

「……そういうことだったんだ。」

「2人を口実に使っちゃってごめん…」

「そんなこと気にしなくていいのに。私も行ってみたかったしね。」

「ありがとう。あと…、出来れば2人には内緒にしててほしくて……」

「もちろん。小春は優しいね。そういうところ尊敬する。」

「ううん。これだって自分勝手にやってるだけだし、ほんとに喜んでくれてるかどうかも分からないし…」

 

皿一面に盛られたケーキ皿を見ながら小春はいびつに笑った。心配そうに見つめる真冬に小春は、ううん、大丈夫だよ!とすぐに元の笑顔に戻る。クリームが熱で若干緩くなっていることに気づいた真冬は、急いで取って戻ろっかと小春に提案した。

 

「でも、絶対大丈夫よ。小春の気持ち、小野くんもきっとわかってくれてると思うな。」

「……だったら、いいんだけど。」

 

先程より笑顔が戻った小春と一緒に、真冬もケーキをいくつか選んで席に戻った。

 

「お待たせ〜!」

「色んなのがあって迷っちゃった。」

「おかえり2人とも。好きなのあった?」

「小春お前それな………」

 

もりもりに盛られたケーキ皿を目の前にして、秋人は呆れた様子を小春に向ける。その様子を見た小春がワタワタしながらしどろもどろに答えた。

 

「き、気になったの取っていったらこんなになっちゃって!秋人もたべない!?」

「はぁ…………」

 

深くため息をついた秋人は音を立てながら椅子から立ち上がる。秋人の荒っぽい行動に小春は身体をビクつかせた。こみ上がるものを必死に抑えながら必死に明るく振る舞う。その声は微かに震えていた。

 

「ご、ごめん……やっぱり迷惑だったよね…。ちゃんと全部食べるから、残したりなんかはしないから安心して…」

「誰が食わないって言った。スープ取ってくるから待ってろ。しょっぱいもの、あった方がいいだろ。」

「っ……!うん!」

 

春乃の予想とは真逆の優しい声が頭上から聞こえた。見上げると不機嫌そうな顔をしているようには全く見えない、呆れながらも少し柔和した顔が視界に入った。秋人が何時も小春に向ける顔だ。怒っていない上に共に食べてくれることを理解した小春は、白くなっていた頬を赤く染めあげ、噛み締めるように頷いた。

 

秋人が席を立って少しすると、小春の隣から迷惑にならない位の声で楽しそうにはしゃぐ真冬たちの会話が聞こえてきた。

 

「はいお兄ちゃんあーん!」

「真冬…?僕自分で食べれるから…」

「あーん!」

「あ……、あー、ん…」

「んふふ!これするの小学生以来だね」

「もう……。恥ずかしいからこれ以上はダメだよ。」

「はーい。」

 

隣では真冬がフォークに乗せたケーキを夏樹の口元へ運んでいた。運ばれているのは夏樹がケーキの中でも好みのコーヒー風味のケーキだ。

楽しそうに運ぶ真冬に、恥じらいながらも夏樹は小さく口を開けた。クリームが口元の端に軽く付いているのを見て、満足気に真冬が微笑む。ついてるよと教えると夏樹は照れながら指で口元を拭った。

その様子を見ていた小春は、楽しそうに二人の一連の様子を眺めニコニコと笑っている。

 

「小春?」

「ほんとに仲良しだよね夏樹と真冬!周りのお客さん皆2人に注目してるよ。」

「えっ!?そんな恥ずかしいな…」

 

小春に言われて周囲の人たちから見られているということを自覚した夏樹は一瞬で耳まで林檎のように真っ赤に染まった。恥ずかしそうに手で顔を隠していると、秋人が両手にスープカップを持ちながら肘で夏樹の頭を軽く小突いた。

 

「無自覚に見せつけんな。こっちが恥ずかしくなんだろ。」

「秋人まで見てたの!?忘れてよ…」

「忘れたくても忘れられねぇよ。」

 

少し苦そうな顔をしながら秋人は隣の自身の席に向かい、小春にスープカップを差し出した。

 

「ほら」

「ありがと秋人。あ!これ私の好きなやつ!覚えててくれたんだ!」

「毎回好きだ好きだ言ってたら嫌でも覚えるわ」

「えへへ…」

 

小春の好物であるコーンスープを飲み、嬉しそうに笑う小春に秋人は肩を下ろしてくしゃりと笑った。席に着いて小春の皿からケーキを取って食べ始める。

 

「ん!これ美味しいよ秋人!食べてみない?」

 

小春がひときわ美味しいとはしゃいだケーキをフォークごと秋人に手渡した。秋人はフォークを受け取って自分の口元へと運ぶ。口に入れた瞬間、秋人の目がいつもより少し見開いた。

 

「ん?………あぁ、たしかに美味いな。」

「でしょ!気になったのあったら言ってね!持ってくるから!」

 

秋人が美味しいと言葉に出すことが稀なのか、秋人のその言葉に春乃は自分の事のように喜んだ。和気あいあいと話していると、夏樹達の声も周りの視線も聞こえないほどに、自分たちの空間が形成されていく。それは夏樹達だけでなく、完全なる他人の目から見ても明らかだった。

 

「2人だって人のこと言えないじゃん…………」

「なんだか微笑ましいね。ほら見て、お客さんが今はみんな小春達に注目してる。」

「それに気づいてないのは、2人らしいけどね。」

 

拗ねる夏樹の声も聞こえないのか、秋人と小春はバイキングが終わるまでひとつの皿をシェアし続けていた。

 

 

* * *

 

 

「はぁ〜!おいしかった〜!!!」

「さすがに全種類は食べられなかったけど、全部美味しかったね。」

「女子ってなんであんなにケーキ食えんだろうな…」

 

帰り道、すっかり満腹になった小春達は夕日を背に帰路についていた。先頭を歩く小春と真冬を後ろに見ながら、秋人は腹をさすりながら歩く。女子のスイーツ胃袋に至極疑問のようだ。不可解な顔をして小春達を見ている。

 

「そういう秋人だって結構色々食べてたよね。この中じゃ1番食べた方じゃない?」

「俺はケーキ以外にも色々食ったからな。ケーキだけをあんなに食えるのが驚きだわ。」

「まぁ…それはそうかもね…」

「夏樹はあんま食ってなかったな。」

「僕は真冬が食べてるところ見てたら結構お腹いっぱいで…」

「お前皮と骨しかないんだからもっと食えよ。じゃないと何時か倒れるぞ。」

「うん…頑張ってみる。」

 

4人の中でスイーツも食事も食べた秋人とは裏腹に、夏樹は真冬から出されたもの以外はほとんど何も食べておらず、飲み物を飲みながら真冬の話に相づちを打っていた。秋人はそんな夏樹の薄い腹を見ながら彼の体調を心底心配していた。ただでさえ貧血がちな彼だ。食べるものも食べないとたちまちに倒れてしまう。せめて自分がなにか取ってくればよかったな、と秋人は一人反省をした。

ちゃんと食え、と言っても夏樹は平均的な食事よりも少ない量しか食べないだろう。今度一緒に何か食べに行かせるべきかな。と一人計画を立てた。

 

「秋人ー?置いてくよ?」

「すぐ行くから待ってろ!じゃあな夏樹。」

「うん。またね。」

 

夏樹と話しているうちに女子組と距離が空いてしまっていたらしい。先程よりも小さくなった小春が手を振って秋人を呼ぶ。見れば夏樹達の家が近かった。秋人は小走りで小春たちの元へ向かう。

 

「じゃあね真冬!夏樹も!」

「うん。また学校で。」

「じゃあな平野。」

 

小春と秋人は真冬達に別れを告げて、二人並んでまた歩き始めた。見送る真冬に追いついた夏樹は、真冬と共に自宅へと進む脇道へ入る。

 

「僕達も帰ろっか。」

「うん。また行こうね。今度は2人ででも!」

「もちろん。可愛い妹の仰せのままに。」

 

お嬢様に傅く執事のように、女王に忠誠を誓う騎士のように、恭しくお辞儀をしながら夏樹は真冬にそう告げた。

 

 

* * *

 

 

「小春、今日はありがとな。」

 

秋人と小春の帰り道、お互いに会話という会話はなく、水平線に沈む夕日に照らされ、遠くから蝉の鳴く音だけが響いている中、秋人がぽつりと小春にしか聞こえない声で呟いた。紡がれる言の葉は感謝の意を示す。

 

「え?な、何のこと?」

「俺があそこに行きたかったけど行きづらそうなの知っててわざと誘ったんだろ。」

「なんでわかって…」

 

図星をつかれた小春はしどろもどろにすっとぼけるが、秋人は小春が今日のバイキングに皆を誘った理由が自分のためだということを既に理解していた。小春がそれに驚いていると、秋人は浅く笑って冗談を言うように話し始めた。

 

「小春が取ってきたケーキ、俺の好きなやつばっかりだった。そんなんさすがに気づくわ。」

「あはは…バレバレだったんだ…。」

「でも嬉しかった。俺の好きな物、小春はなんでも知ってるんだな。」

 

喜んで欲しかった。いつも隠してばかりの秋人に、心から楽しんで欲しかった。見返りなんていらない。好きな人が喜ぶ顔が見れるだけで良かった。

けれど、秋人は気づいてくれた。それだけでもう、十分にお返しをくれたと小春は思う。

真っ直ぐなその言葉に、小春は顔が赤く染まっていくのを肌で感じた。幸い、夕焼けのおかげで秋人にはバレていないようだった。ふい、と下を向いて、小春が秋人よりもぎこちなく笑いながら答えた。

 

「秋人だって私の好きな物なんでも知ってるじゃん。」

「んなの、幼なじみなんだから分かるだろ。」

「でしょ?私もそういうことなの。」

「……そうかよ。」

 

お互いがお互いのことをなんでも分かっている。今はそれでいい。それがいい。たとえこの想いが届かないとしても、小春はずっと想いを変えることは無いだろう。変えられることは、ないだろう。だって一日だって、一分一秒だって、彼を想うこの気持ちは、留まることを知らないから。

 

「………っ、また行こうね。一緒に!」

「ったく、仕方ねぇな。」

 

 

だから、ずっと笑っていてよ。その顔が見れれば、私はなんでも出来ちゃう気がするから。

 

 

Fin

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