三途の川は時代遅れ!!【1:0:1】

【あらすじ】

船主「運賃の六文銭よこせ」男「PayPayでいい?」


出演人数:2人(男1性別不問1)

時間:10分(推定)

配役

◆船主(性別不問)

◆男

 

※都合により船主の口調が男寄りになっています。変更可

 

***

  

船主:はい次、通行料出して

 

男:ん。

 

船主:ん?通行料、早く。

 

男:いやだから、はい。

 

船主:はぁ?六文(ろくもん)だよ六文。出せなきゃ1番後ろにまわれ。

 

男:はぁ!?30分くらい待ってんだけど!?いいから早くしてよ!

 

船主:だめだと言ってるだろ!いいから早くどけ、後ろがつっかえてんだ

 

男:だから言ってんじゃん払うって!そっちこそ話聞いてないよね?

 

船主:馬鹿か?お前よくわかんない四角いやつ以外何も持ってねぇよな?

 

男:だから払うってこれで!

 

船主:なにで?

 

男:いやだから、PayPay

 

船主:・・・は?

 

男:あ、もしかしてPayPay使えない感じ?楽天payならいける?

 

船主:いや

 

男:えーそれもダメ?じゃあ交通系ICは?

 

船主:あいしー...?

 

男:マジかよド田舎じゃん。

 

船主:とにかく、通行料が支払えないんなら早く後ろに回れ。ジジババがずっと待ってるの、早く船に乗せて座らせなきゃ運ぶ前に倒れちゃうの!

 

男:いやそもそもさぁ、こんなちっぽけな船に運賃取るとか馬鹿じゃないの?しかも浅瀬だし。

 

船主:ジジババはこれでも溺れちゃうの!しょうがないの!

 

男:じゃあもういいや、俺歩いて渡るからこれ預かっといて

 

船主:やだ。よく分かんないものに触りたくない。

 

男:これスマホ!訳わかんなくない!

 

船主:すまほ...?

 

男:スマホも分かんないの?アンタ若そうに見えるけど実は老人だったりする?めちゃめちゃ若見えするタイプ?

 

船主:褒められてるのか貶(けな)されてるのか分かんないけどなんか腹立つ

 

男:今どきスマホないと死ぬよ?連絡とかどうしてんの?

 

船主:え、向こうから文(ふみ)持ってきて、こっちになんかあったら送ってもらう。 

 

男:なにで?

 

船主:なにで?飛脚(ひきゃく)が運んでくれる。

 

男:ひきゃくぅ〜?電波は?赤外線は!?

 

船主:そんなんない。知らない

 

男:やばいよそれ。孤独死まっしぐらだよ。せめて携帯くらいは持とうよ!!

 

船主:知らん知らん!困ってないから別にいい!

 

男:なんでそんな縄文時代みたいなことやってる訳?ここにいる人たちもみんな着物?だしさあ

 

船主:そんなこと言われても、、お前の格好の方がよっぽど変。何それ、首吊りでもする気?

 

男:もしかしてネクタイのこと?違うよこれスーツ

 

船主:すーつ?

 

男:なんでそれも知んないの!!

 

船主:なんでずっと喧嘩腰なの

 

男:なんかその服臭そうじゃない?風呂入ってる?洗濯してんの?

 

船主:風呂?手が空いたらするけど…

 

男:手が空かなかったらしないってこと?不衛生〜

 

船主:しゃあねぇだろずっと並んでんだもん!!!

 

男:ずっと〜?帰る前にぴゃぴゃっとそこの川で洗いなよ。替えだって家帰ったらあるっしょ

 

船主:ないよ

 

男:またまた。それ1着だけとかありえんし

 

船主:や、それもないけど、帰るとこもないよ。ずっとここ

 

男:へ?

 

船主:だから、帰る家、ない。それにそんな時間もない

 

男:休みは?

 

船主:ない

 

男:いつ寝てんのそれ

 

船主:寝てないよ。寝る必要ないし

 

男:何それなんてブラック企業!?辞めよ今すぐ辞めよ。人間疑問持たなくなったら末期だから

 

船主:いやでも、これが仕事だし...

 

男:金額も訳わかんないしさ。いくらだっけ?

 

船主:六文

 

男:出た!そんな単位今の日本にありませーん!もう持ってる人居ないんだから変えた方がいいよ。

 

船主:いや持ってる人しか居ないから。お前がおかしいだけだから。

船主:なぁそこのじぃちゃん!それ!それ貸して。

船主:ほらこれ!六文銭!これみんな持ってるから!

 

男:あ、博物館で見たやつだ。そういやあの時ユウジがさぁ・・・

 

船主:思い出に浸らなくていいの!じいちゃんばあちゃんよくやるけど!そこ同じにしなくていいから!

船主:よくわかんないけど、最近来たおっちゃんの話じゃ葬儀屋が入れてくれるんだと。

 

男:葬儀屋?なんで?

 

船主:いや、ここ渡るのに必要だから

 

男:…そいやなんでみんなここ渡るの?

 

船主:なんでって、そりゃ死んでる奴が三途の川渡るのは普通のことだろ

 

男:……三途の川って、あの?

 

船主:あのがどのかは知らんが死んだら渡るあの川がこれ

 

男:ここにいるじいちゃんばあちゃん達は?

 

船主:天寿終わったじいちゃんばあちゃん

 

男:…てことはここにいるのは?

 

船主:みんな死んでる人だけど?

 

男:あんたも?

 

船主:ん?うん。

 

男:…(大声で)じゃあ俺三途の川渡ろうとしてたってこと!?

 

船主:うわうるさっ

 

男:え!?俺死んだの!?渡ろうとしてたの!?うわこっわPayPayしか持ってなくてよかった!!!

 

船主:変な喜び方だな…。なんだ『持ってなくて良かった』って。何も良くねぇよ

 

男:だって運賃ないから!俺渡らなくていいでしょ!?

 

船主:そりゃ渡れないけどよ…でも死んでんだろ?

 

男:そうだ俺死んでんだ…えなんで死んだわけ!?そんな酷いことある!?天変地異!?

 

船主:おおう落ち着け。俺は知らん

 

男:落ち着けるわけないでしょ!?まだ新作ゲームもプレイしてないし仕事真っ只中だったし恋人できてない!

 

船主:恋人が死んだっていう悲しい状況にならなかったんだからいいじゃん…

 

男:何も良くない!!!!童帝のまま死ぬのはやだ!!!!!!!

 

船主:うっるさ!!!!大声でそんな事言うな!じいちゃんばあちゃんびっくりするでしょうが!

 

男:ごめん

 

船主:え、や、こっちこそごめん

 

男:今になって未練ばっか思い出してきたわ。なんで俺死んじゃったんだろ……

 

船主:……

船主:あ、あのさ、1個聞きたいんだけど、お前の親ってまだ生きてる?

 

男:え?生きてる、けど…

 

船主:生きてる!?じゃ、じゃあお前がここにいるのおかしいよ

 

男:え、どゆこと?

 

船主:あのな、親より先に死んじまったやつは賽(さい)の河原(かわら)行きになるんだよ。あっちの方で石積みしなきゃなんねぇんだ

船主:それに、六文銭(ろくもんせん)を持ってないお前が追い剥ぎババアから服ひん剥かれてない。おかしいんだよ。有り得ないことが2回も連続してる。

 

男:じゃあもしかして、、

 

船主:お前、まだ生きてるかもしんないぞ

 

男:まじで…!?

 

船主:随分前に来たじいちゃんが言ってた。ここに来る前に1回、三途の川が見えたんだって。その時の自分は死にかけてたんだって。

 

男:じゃあ俺もそのじっちゃんみたく死にかけてる状態ってことかな!?

 

船主:可能性はあるぞ。生きたいって願ったら案外何とかなったりしてな。

 

男:マ!?やってみるわ

 

船主:(小声)ま…って、なんだろな…。

船主:とにかくやってみろ。俺もお前にさっさと出てって欲しいし。

 

男:何その言い方!俺の事いらない子みたいに!

 

船主:いらないよ。最初からじいちゃんばあちゃんの邪魔になってたんだから。ほらさっさと願ってろ

 

男:童帝のままは嫌だ!!!!!!

 

船主:数多ある願いの中でそれ選ぶかよ!?許してくれんのかそれ!?

 

男:なんか、、身体が透けてきた気がする!!!

 

船主:いけちゃうのかよ…

 

男:まだ生きれるっぽいわ。ありがとなおっちゃん

 

船主:お前におっちゃんって言われる歳じゃないと思うけどな。

船主:まぁなんだ。今度はちゃんと死んでからここ来いよ。六文銭ちゃんと持ってきてな。

 

男:うん!それじゃ!

 

船主:ああ。

 

男:あっ、あー…、うーん……

 

船主:ん?どした?行かないのか?

 

男:やっぱりPayPayは導入した方がいいと思う。俺みたいな人いるかもだし。

 

船主:いやだからPayPayってなに

 

男:今の世の中じゃお金はもう数字になってるの。デジタル化、分かる?

 

船主:でじたるか…?数字?えじゃあ何、小判とかそういうの無くなってんの?

 

男:残ってるっちゃ残ってるけどもうみんなカードかスマホでやってる

 

船主:その板で?

 

男:そうこれ。

 

船主:へぇ〜…銭っていけるの?

 

男:知らん。円しか単位なかった

 

船主:それじゃムズいかもな…

 

男:何とかして。この先だって絶対普及してるから


船主:目がマジで怖い

 

男:何とかして

 

船主:わかっ、、わかったから!手ぇ離せ離せ怖い!

 

男:良かったぁ…もう未練ないわぁ…!

 

船主:その言い方これから死ぬみたいだけど大丈夫?なんかさっきより身体はっきりしてってない?

 

男:嘘ぉ!?

 

船主:嘘だよ

 

男:嘘かよ!!

男:…っはは!言うようになったじゃん。俺たち案外同じ時代に生きてたら友達だったかもな

 

船主:たらればで物を語んな。いい加減戻れ。

船主:その、ぺいぺい?できるように頑張ってみるからさ、じゃな!

 

男:おん!そんじゃ!!!

 

 

***

男:(N)目が覚めると、俺は病院にいた。

男:仕事場で火事が起きたらしい。運悪く煙を多く吸ってしまった俺は生死をさまよっていたそうで、起きた時は母親に泣きながら抱きつかれたことでさっきまでの出来事はただの夢じゃなかったのだなと実感した。

男:その後は大きな怪我もなく、不慮の事故もなく、見事な大往生で無事に天寿を全うした。

 

 

***

船主:はい次、通行料六文銭ね〜。PayPayでもいいよ〜

 

男:おっちゃんじゃん

 

船主:その言い方…あん時の!!まさかまた…

 

男:違う違う!今度はちゃんと死にましたよ。まさかちゃんと死んだ時の方が落ち着いてるとは思わんかったけど

 

船主:そっか……。いやほら、見た目が思ってたより若々しかったからもしかしてって思ったんだよ。

船主:そうだ!あの後結構時間かかっちゃったけど、PayPay!導入したぞ!これでお前も安心だろ!ほら!すまほ出せ出せ!

 

男:あー…ごめんおっちゃん

 

船主:ん?何?

 

男:今PayPayの時代じゃなくてさ

 

船主:へ?

 

男:今は身体の中に埋め込んでるマイクロチップで支払いがデフォなの。

 

船主:PayPayは?

 

男:こんなふうに言っちゃうのあれだけど、時代遅れ

 

船主:ふざけんなもっぺん1番後ろにまわってけ!!!!!!

 

 


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